「川崎くん、クリスマスの予定って決まってる?」
水原が突然尋ねた。俺たちはショッピングモールのフードコートで軽い食事をしていた。
俺は窓の外を見つめた。街はすでにクリスマスの装飾が始まっていた。
「どこか行きたいところある?」
「特には……」
水原は少し口をとがらせた。
「もう、全然考えてないじゃん」
「わりい」
「大丈夫。あたしが考えとくよ」
水原は明るく言ったが、その目には少し寂しさが浮かんでいた。
「ところで……」
俺が言いかけたとき、水原のスマホが鳴った。画面を見た水原の表情が一瞬で変わる。
「迷惑電話……?」
「誰?」
「ちょっと前から掛かってくるんだよね……」
水原はスマホを切り、ポケットにしまった。だが、その表情には明らかな動揺が見えた。
「何かあったのか?」
「ううん、なんでもないよ」
水原は笑顔を見せようとしたが、その瞳には不安が浮かんでいた。俺は追及せずにいたが、胸の内では何かがざわついていた。
★
それから数日後、教室に入った俺は異様な雰囲気に気づいた。クラスメイトたちが小声で話し合い、時折俺の方を見ている。
「どうした?」
席に着くと、隣の田中が恐る恐る話しかけてきた。
「川崎、大丈夫か?」
「何がだよ」
「お前、知らないのか?」
「何をだよ……」
田中はスマホを取り出し、画面を見せた。そこには大きな見出しが踊っていた。
『水原グループ社長の不正取引、証拠写真流出か』
「水原?」
「あの水原先輩のお父さんらしいぞ。かなり大きな問題になってる」
ニュースを読むと、水原の父親が不正な取引を行っていた疑いがあり、その証拠とされる写真や文書が匿名で流出したという。事の真偽はまだ確認中だが、株価は急落し、会社は混乱に陥っているらしい。
急いで水原のクラスに向かうと、彼女の姿はなかった。
「水原さんなら、今日は休みだよ」
クラスメイトの一人が教えてくれた。
「何か連絡ありました?」
「いや、特に……」
俺はすぐに水原にメッセージを送った。
『大丈夫か? ニュース見た』
返信はすぐには来なかった。授業中も、俺の頭は水原のことでいっぱいだった。
昼休み、ようやくメッセージが届いた。
『ごめん。今日は学校行けない。家族のことで大変なの』
俺は迷わず返信した。
『今から行くよ』
『ダメ! 今はあたしの家に来ないで……お願い』
その必死さに、俺は立ち止まった。何が起きているのか。心配で仕方なかったが、彼女の言葉を尊重すべきか……
リセが心配そうに近づいてきた。
「実は……私、何か変な気がするんだ」
「変?」
「このタイミングで、こんな問題が出てくるなんて……」
俺も考えていた。白野は水原の家の情報を知っている。そして、彼は水原を諦めていないと言った。もし彼が……
「白野、か……」
「私も、そう思った」
放課後、俺とリセは白野に連絡を取ることにした。しかし、彼からの応答はなかった。
「おかしいな……」
「ヒロ、もう一度水原先輩に連絡してみたら?」
俺は水原に電話をかけた。何度も鳴った後、ようやく出た声は、疲れ切っていた。
「川崎くん……」
「水原、大丈夫か?」
「うん……まあね」
「今どこにいる?」
「家……」
「行っていいか?」
「だから今は……」
「俺と話せることは何かないか? 白野のことでも」
電話の向こうで、水原が息を呑む音が聞こえた。
「白野先輩? どうして……」
「直感だ。このタイミングで、こんなことが起きるなんて不自然すぎる」
水原は長い沈黙の後、小さな声で言った。
「実は……白野先輩から連絡があったの」
「何て?」
「『これが始まりに過ぎない』って……」
俺の中で怒りが湧き上がる。
「水原、今から行くから」
「でも……」
「頼む」
「……わかった」