水原の家に着くと、いつもの豪華な邸宅の前には数台のマスコミの車が止まっていた。通用口から入ると、水原が出迎えてくれた。
彼女は憔悴しきっていた。目の下にクマができ、顔色も悪い。
「来てくれて、ありがとう……」
「どうなってるんだ?」
二人はリビングに入った。広い部屋は静まり返っていた。
「お父さんは会社に缶詰め……お母さんは実家に避難……」
「お前だけか?」
「うん。警備員はいるけど……」
水原は震える手でお茶を淹れる。
「白野のやつ、何て言った?」
「最初は『会いたい』って連絡が来たの。断ったら、『これが始まりに過ぎない』って……その直後に、お父さんの会社のことが……」
俺は拳を握りしめた。
「あいつ、全部計画的だったんだな」
「うん……気づいたら、もうニュースになってた」
「お父さんは? あの報道は本当なのか?」
水原は首を横に振った。
「絶対に違う。お父さんはそんなことしない。偽造された文書と写真で……」
「それで、これからどうするつもりだ?」
「わからない……お父さんは対応に追われてるし、あたしは……」
水原は泣きそうな顔で俺を見つめた。
「川崎くん、これからどうなっちゃうんだろう……」
俺は水原の手を握りしめた。
「一人じゃない。俺がいる」
水原の瞳に涙が溢れる。
「ありがとう……」
その時、水原のスマホが鳴った。
「白野先輩……」
「出る?」
「うん……」
水原は震える手でスマホを取り、スピーカーモードにして出た。
「もしもし……」
「しおり、調子はどう?」
白野の声は、いつもの余裕を漂わせていた。
「どうしてこんなことするの……?」
「何のことかな?」
「お父さんのこと……」
「ああ、水原社長の問題? 僕にはわからないよ。不正をした人が責められるのは当然じゃないかな」
俺は耐えきれず、声を上げた。
「白野、お前だろ!」
「おや、川崎くんも一緒かい?」
「白野先輩、どうして……?」
「言っただろう? 僕はしおりを諦めていないんだ。だから……」
「だからって、こんなことする必要あるの?」
「ああ、大げさに反応しないで。これは始まりに過ぎないよ。しおりが僕の元に戻ってくるまで……」
「お前、狂ってる」
俺の言葉に、白野は冷たく笑った。
「狂ってる? これが愛というものさ。しおり、明日、会おう。僕だけが君を救える」
「そんなの……」
「さもなければ、次は川崎くんのお母さんのこと、世間に公表しようかな。ギャンブル中毒で借金まみれの教育評論家。皮肉な話だね」
「やめて!」
水原が叫んだが、白野は続けた。
「これは取引だよ。しおりが僕の元に戻れば、何もかも元通りにする」
「絶対に戻らない……」
「そう言うと思った。じゃあ、覚悟しておくといい。これから起こることは、全て君の選択の結果だということを」
電話が切れた。水原は泣き崩れる。
「川崎くん……どうしよう……」
俺は水原を抱きしめ、小さく囁いた。
「大丈夫だ。一緒に解決しよう」