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第57話 図書館

 図書館の検索端末で、水原の名前を入れても当然ながら個人情報などは出てこない。だが、「水原しおり」「転校」などのキーワードを組み合わせ、地元新聞のアーカイブを検索すると、ひとつだけ気になる見出しがヒットした。


『私立大月中学にて女子生徒間のトラブル 当事者の一名は転校へ』


 日付は三年前。場所は──水原が通っていたと話していた中学だった。


 内容は要約されたものだったが、「SNS上での誹謗中傷」「不明瞭な“監視行為”の訴え」といった文言が並んでいた。


 その中に「一部では盗撮やストーカー行為との指摘もあったが、証拠不十分で不問となった」という一文がある。


 水原が否定した“盗撮”というキーワードが、ここにある。


 だが、これがそのまま彼女の罪を証明するものにはならない。


 もしかしたら、白野が今やっているように、当時も誰かが水原を貶めようとしていた可能性もある。むしろ、彼女が「否定できなかった」のは、過去に否定しようとして誰にも信じてもらえなかった──そんな体験があったからじゃないか。


 “言っても信じてもらえない”っていう絶望感。


 あれだけ強がる水原の中に、ふと見せる寂しそうな目の理由が、少しだけわかった気がした。


 俺は新聞記事をプリントアウトし、鞄に入れた。


 次に向かったのは、駅近くのネットカフェだった。


 白野が持っていたスクリーンショット。非公開アカウントに投稿された文章──あれが本当に水原のものなのか、確かめる術はあるはずだ。


 何より気になるのは、あの「お父さんに頼んで転校させてもらった」という一文。


 水原は、自分の家庭環境について一度も語ったことがない。父親がいるのかどうかも知らない。もし仮に、“親の力”を使ってまで川崎の近くに来たのだとすれば──それは尋常じゃない。


 ネットカフェでPCを開き、SNSのハンドル名解析サイトや画像検索、掲示板の過去ログを追いかける。


 ……すると、ある古い投稿が引っかかった。


 使われていたのは「@miz_0214」というID。


 投稿内容には鍵がかかっていたが、サムネイルだけは残っていた。


 そこに添えられた画像は──間違いなく、水原しおりの後ろ姿だった。


 その画像には「#さがしてた」「#やっとみつけた」というタグがついている。


 投稿時期は、俺がこの街に引っ越してきた直後。


 偶然とは、思えなかった。


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