翌朝。日曜日。
カーテンの隙間から差し込む光に目を細めながら、俺はゆっくりと体を起こした。
昨日の雪は止んでいたが、屋根の上にはうっすらと白く残っている。
スマホの通知を確認すると、しおりからメッセージが届いていた。
『今日の午後、うち来る? 勉強教えてって言ってたでしょ』
そうだった。期末も近い。
あいつにしては珍しく、真面目に勉強をしようとしているらしい。
『行く。昼過ぎにそっち向かう』
そう返信を打って、軽く朝食をとったあと、シャワーを浴びて支度をした。
寒さに備えてマフラーを巻き、手袋もポケットに突っ込む。
冬の空気は澄んでいて、どこかしゃんとする感じが心地よかった。
*
しおりの家は、駅から歩いて十分ほどの住宅街の中にある。
インターホンを押すと、すぐにドアが開いて、パーカー姿のしおりが顔を出した。
「いらっしゃい、ヒロくん」
「おじゃまします」
「ほら、あがってあがって。ストーブつけてあるから」
リビングにはコタツが出されていて、すでにノートと参考書が並べられていた。
「準備いいじゃん」
「やる気あるって言ったでしょ? 今日のあたしは一味違うよ」
「……ちなみにどこからやるんだ?」
「英語の文法」
「お前、それ苦手だろ」
「だからヒロくんに頼んでるんだってば」
しおりはコタツに潜り込むように座って、俺にも「ほら」と隣を示す。
言われるままに座ると、自然と肩が触れ合った。
「近くね?」
「だって寒いんだもん」
「コタツあるだろ」
「ヒロくんが暖房です」
「うるさい」
照れながらも、俺はノートを開いて説明を始めた。
「ここの“that”は関係代名詞。“which”との違いは──」
「待って、いまのとこわかんない」
「お前、ちゃんと聞け」
「だってヒロくんの声、説明より優しさが勝ってる」
「意味わかんねぇ」
それでも、ひとつひとつ丁寧に説明していくうちに、しおりの表情が真剣になっていった。
「なるほど……そっか、“who”は人、“which”はモノ、“that”は両方に使えるってことか」
「そう。けど、“that”は非制限用法には使えないから注意な」
「非制限ってなに?」
「……そこからか」
ため息をつきながらも、俺はまた図を書き始める。
しおりは、俺のペンの動きをじっと見つめていた。
説明が終わったあと、しばらく沈黙が続いた。
「……ねえ、ヒロくん」
「ん?」
「こうして教えてもらってるとさ、ちょっとだけ、特別な気持ちになるよね」
「特別?」
「うん。ふつうの勉強より、あったかいっていうか……」
「それ、勉強って言わないんじゃ」
「ううん。ちゃんと勉強してる。でも、同時にヒロくんのことも、もっと好きになってる」
その言葉に、顔が赤くなるのを止められなかった。
「……お前なあ」
「照れた」
「うるさい」
しおりは笑って、俺の腕にぴとっと頬を寄せてきた。
「ね、たまにはこういう時間も、いいでしょ」
「……ああ、いいな」
こういう何でもない日曜が、いちばん幸せだ。