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第75話 一緒にテスト勉強

 二月の寒い午後、俺としおりは学校の図書館にいた。


 期末テストが近づいていることもあって、図書館は普段より多くの生徒で賑わっている。俺たちは奥の静かな席を見つけて、並んで座った。


「英語、全然わからない」


 俺が小さくため息をついて、参考書のページをめくる。高校一年の英語は中学の時より格段に難しくなっていて、いつもテスト前には苦戦していた。


「どの問題?」


「この長文読解のところ」


 しおりが俺の参考書を覗き込んだ。さすが二年生だけあって、俺が苦戦している問題も彼女には簡単に見えるようだった。


「ここはな、まずこの単語の意味を確認してからね」


「単語?」


「そう。この『consequence』は『結果』って意味よ」


 しおりが説明すると、俺は真剣な表情でノートに書き込んでいく。彼女に教えてもらっている時は、いつもより集中できる気がした。


「なるほど、そういうことか」


「分かった?」


「うん、ありがとう。しおりって教えるのが上手いな」


 俺の素直な感謝の言葉に、しおりは少し照れたような表情を見せた。


「先輩だからね」


「頼りになる先輩で助かってる」


 そんな会話を交わしながら、俺たちは勉強を続けた。


 一時間ほど経つと、俺は伸びをした。


「ちょっと疲れちゃった」


「休憩する?」


「うん」


 俺たちは参考書を閉じて、図書館の中を歩いてみることにした。普段はあまり見ない書架を眺めながら、ゆっくりと歩く。


「ヒロくん、どんな本が好きなの?」


「推理小説とか、ミステリーかな」


「へえ、意外」


「意外?」


「もっと真面目な本ばっかり読んでそうだと思ってた」


 しおりの率直な感想に、俺は苦笑いした。


「そんなことないよ。しおりは?」


「恋愛小説が多いかな。あとは雑誌とか」


「やっぱりって感じだな」


「やっぱりって何よ」


 しおりが少し頬を膨らませて抗議する。その仕草が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。


 文学書のコーナーを歩いていると、一冊の本が俺の目に留まった。


「『星の王子さま』か」


「知ってるの?」


「名前だけは。読んだことないけど」


「すごくいい本よ。今度読んでみたら?」


 しおりの推薦に、俺は本を手に取ってみた。思っていたより薄い本だった。


「今度借りてみようかな」


「私も久しぶりに読み返したくなった」


 そんな会話をしながら、俺たちは席に戻った。


 勉強を再開してしばらくすると、図書館に夕方のチャイムが響いた。


「もうこんな時間か」


「今日はありがとう、しおり。おかげで英語が少し分かった気がする」


「どういたしまして。また分からないことがあったら聞いて」


「頼りにしてる」


 俺たちは荷物をまとめて、図書館を後にした。廊下に出ると、校舎の外はもう薄暗くなり始めていた。


「一緒に帰る?」


「もちろん」


 下駄箱で靴を履き替えながら、俺は今日のことを振り返っていた。しおりに勉強を教えてもらったのは初めてだったが、とても分かりやすくて助かった。やはり一学年上だけあって、頼りになる。


 校門を出ると、冷たい風が頬を刺した。二月の夕方は、まだまだ寒い。


「寒いね」


「そうだな。もうすぐ春だけど、まだまだ冬って感じ」


 吐く息が白く見える中、俺たちは駅に向かって歩いた。


 途中、コンビニの前を通りかかった時、しおりが足を止めた。


「ちょっと寄ってもいい?」


「いいよ」


 店内に入ると、暖かい空気に包まれてほっとした。しおりは雑誌コーナーに向かい、俺は飲み物を買うことにした。


 レジで会計を済ませて外に出ると、しおりが雑誌を手に持っていた。


「何買ったの?」


「ファッション雑誌。春物の特集があったから」


「もう春物の季節か」


「そうよ。もうすぐ新学期だしね」


 そんな会話をしながら駅に着くと、俺たちはそれぞれの電車の時間を確認した。


「今日はありがとう」


「こちらこそ。また一緒に勉強しよ」


「ああ」


 改札で別れる時、しおりが振り返って言った。


 家に帰る途中、俺は今日図書館で過ごした時間のことを考えていた。勉強を教えてもらったことも嬉しかったが、それ以上に、しおりとゆっくり話ができたことが良かった。


 普段の学校生活では、なかなかこんなに落ち着いて話す機会がない。図書館という静かな空間で、お互いの好きな本のことや、将来のことを話せたのは、とても有意義だった。


 家に着いてから、俺は今日習った英語の復習をした。しおりに教えてもらったことを思い出しながら問題を解くと、確かに理解度が深まっている気がした。


 その夜、俺は『星の王子さま』のことを調べてみた。インターネットで検索すると、たくさんの情報が出てきた。世界中で愛されている名作で、大人になってから読み返す人も多いらしい。


 明日、図書館で借りてみよう。そして読み終わったら、しおりと感想を話し合ってみよう。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

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