二月の寒い午後、俺としおりは学校の図書館にいた。
期末テストが近づいていることもあって、図書館は普段より多くの生徒で賑わっている。俺たちは奥の静かな席を見つけて、並んで座った。
「英語、全然わからない」
俺が小さくため息をついて、参考書のページをめくる。高校一年の英語は中学の時より格段に難しくなっていて、いつもテスト前には苦戦していた。
「どの問題?」
「この長文読解のところ」
しおりが俺の参考書を覗き込んだ。さすが二年生だけあって、俺が苦戦している問題も彼女には簡単に見えるようだった。
「ここはな、まずこの単語の意味を確認してからね」
「単語?」
「そう。この『consequence』は『結果』って意味よ」
しおりが説明すると、俺は真剣な表情でノートに書き込んでいく。彼女に教えてもらっている時は、いつもより集中できる気がした。
「なるほど、そういうことか」
「分かった?」
「うん、ありがとう。しおりって教えるのが上手いな」
俺の素直な感謝の言葉に、しおりは少し照れたような表情を見せた。
「先輩だからね」
「頼りになる先輩で助かってる」
そんな会話を交わしながら、俺たちは勉強を続けた。
一時間ほど経つと、俺は伸びをした。
「ちょっと疲れちゃった」
「休憩する?」
「うん」
俺たちは参考書を閉じて、図書館の中を歩いてみることにした。普段はあまり見ない書架を眺めながら、ゆっくりと歩く。
「ヒロくん、どんな本が好きなの?」
「推理小説とか、ミステリーかな」
「へえ、意外」
「意外?」
「もっと真面目な本ばっかり読んでそうだと思ってた」
しおりの率直な感想に、俺は苦笑いした。
「そんなことないよ。しおりは?」
「恋愛小説が多いかな。あとは雑誌とか」
「やっぱりって感じだな」
「やっぱりって何よ」
しおりが少し頬を膨らませて抗議する。その仕草が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。
文学書のコーナーを歩いていると、一冊の本が俺の目に留まった。
「『星の王子さま』か」
「知ってるの?」
「名前だけは。読んだことないけど」
「すごくいい本よ。今度読んでみたら?」
しおりの推薦に、俺は本を手に取ってみた。思っていたより薄い本だった。
「今度借りてみようかな」
「私も久しぶりに読み返したくなった」
そんな会話をしながら、俺たちは席に戻った。
勉強を再開してしばらくすると、図書館に夕方のチャイムが響いた。
「もうこんな時間か」
「今日はありがとう、しおり。おかげで英語が少し分かった気がする」
「どういたしまして。また分からないことがあったら聞いて」
「頼りにしてる」
俺たちは荷物をまとめて、図書館を後にした。廊下に出ると、校舎の外はもう薄暗くなり始めていた。
「一緒に帰る?」
「もちろん」
下駄箱で靴を履き替えながら、俺は今日のことを振り返っていた。しおりに勉強を教えてもらったのは初めてだったが、とても分かりやすくて助かった。やはり一学年上だけあって、頼りになる。
校門を出ると、冷たい風が頬を刺した。二月の夕方は、まだまだ寒い。
「寒いね」
「そうだな。もうすぐ春だけど、まだまだ冬って感じ」
吐く息が白く見える中、俺たちは駅に向かって歩いた。
途中、コンビニの前を通りかかった時、しおりが足を止めた。
「ちょっと寄ってもいい?」
「いいよ」
店内に入ると、暖かい空気に包まれてほっとした。しおりは雑誌コーナーに向かい、俺は飲み物を買うことにした。
レジで会計を済ませて外に出ると、しおりが雑誌を手に持っていた。
「何買ったの?」
「ファッション雑誌。春物の特集があったから」
「もう春物の季節か」
「そうよ。もうすぐ新学期だしね」
そんな会話をしながら駅に着くと、俺たちはそれぞれの電車の時間を確認した。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。また一緒に勉強しよ」
「ああ」
改札で別れる時、しおりが振り返って言った。
家に帰る途中、俺は今日図書館で過ごした時間のことを考えていた。勉強を教えてもらったことも嬉しかったが、それ以上に、しおりとゆっくり話ができたことが良かった。
普段の学校生活では、なかなかこんなに落ち着いて話す機会がない。図書館という静かな空間で、お互いの好きな本のことや、将来のことを話せたのは、とても有意義だった。
家に着いてから、俺は今日習った英語の復習をした。しおりに教えてもらったことを思い出しながら問題を解くと、確かに理解度が深まっている気がした。
その夜、俺は『星の王子さま』のことを調べてみた。インターネットで検索すると、たくさんの情報が出てきた。世界中で愛されている名作で、大人になってから読み返す人も多いらしい。
明日、図書館で借りてみよう。そして読み終わったら、しおりと感想を話し合ってみよう。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。