丞相に言われた通り、口が堅く比較的自分に友好的で協力的な人材を選び、
ひとりは二十二歳で道士の階級は乙。
そういう者がいることで妖者との戦いにおいて自身や周りの者たちが生き残る確率が上がると、
もうひとりは十六歳で同じく階級は乙。
前線に立つことはまだないが、その分周りの補助をするのが上手い道士だ。今回が初任務となるが、間違いなく今後の戦力になる人材なのだ。
「
「この任務は成功以外の帰還は難しいと思ってくれ。何日かかろうとも、可能性がある限り戻れない。つまり、失敗はけして許されないということだ。それを踏まえたうえで、私についてきなさい」
はい、と三人は丞相に対して拱手礼をし、それをもって任務を引き受けるという意思を示した。そして丞相が先頭になって天師府を後にし、ここから離れた場所、後宮の敷地内にある
すでに夜も深まり、美しい満月が闇空を照らしているような時間だった。
◇◆◇◆◇◆◇
後宮。皇帝の妃たちや未成年の皇子や皇女、女官、宦官などが暮らす場所。本来は男子禁制である後宮だが、この国においては道士のみが【怪異】を退けられるため、妃と名の付く者の導きがあれば依頼をして招くことが可能だった。
もちろん女性の道士もいたが、皇帝の意向により、能力が高い者が早急に解決することを優先としていることもあって、大概は
が、
(人払いでもしているのか?)
深夜といっても女官や侍女たちの姿さえないのはさすがにおかしい。あえてひとのいない時間帯、もしくは裏道を選んで歩いていたとしても、だ。
しん、と静まっていることや誰ひとりとしてすれ違うことのなかったその違和感に、今回の依頼の件に対して、
「お待ちしておりました、丞相殿。道士殿たちも。さあ、中へお入りください」
早々に促され、すぐに扉が閉められる。案内されて通路を進んだその先に、再び立派な扉が現れた。宦官が声をかけると、扉の向こう側から「入れ」という少し神経質そうな女性の声が返ってくる。
開かれた扉。丞相含め、
「丞相殿、無理を言ってすまなかった。しかし事態は深刻。医官たちも常駐してもらっているが、一向に回復の兆しがない。病ではないのなら、怪異の仕業か、もしくは呪術の類としか考えられぬ」
「決めつけるのはまだ早いでしょう。それに、そんなことを口にして誰かに聞かれれば、それこそ妃嬪様のお立場が危うくなります」
「わかっておる。だがこれで皇子を失えば、関わった者たち全員の首が飛んでもおかしくはない事態となろう」
頭を下げ瞼を伏せたまま、
第三皇子である
「故に、今あの宮殿にいるのは丞相殿が人選してくれた信頼できる者だけ。それはつまり、なにかあれば丞相殿の責任ということにもなろう」
「そのとおりにございます。では妃嬪様、こうしている間にも時間は過ぎてしまいますから、早々に本題に移った方が良いでしょう」
丞相はしれっと責任を自身に押し付けてきた妃嬪に対して、さっさと本題に入れと促す。彼は彼でいい度胸をしていた。穏やかな笑みまで浮かべ、なんてことはないという顔でさらっと受け流す。
普通なら真っ青になって、口ごもってしまってもおかしくないだろう。いくら自分たちの間に薄い天幕が下ろされ、相手の目を見ずに済んでいるとしても、だ。
隔たれた先に見えるのはぼんやりとした人影。妃嬪、
あれは三日前の深夜のこと。
そして眠り続けたまま、今夜で四日目を迎えようとしていた。
「三日後に行われる祭事までに原因を解明し、皇子を目覚めさせるのだ。それができなければ、そこにいる者たちも含めて全員、例外なく罰することになろう。その首を繋げておきたければ、肝に銘じて事に当たれ」
「ここからは俺が案内するぜ。あんたらも災難だったな。だがその前からいる奴らに比べればまだマシな方さ」
皇子は
皇子の身の回りの世話を任された女官がふたり、医官が三人、護衛官がひとり、今夜からさらに道士が三人増えることになる。
案内された先。
門の前には衛兵がふたり立っており、
「お待ちしておりました、道士殿。どうぞ、中へ」
女官たちは拱手礼をして頭を下げたまま挨拶をした。しかしゆっくりと顔を上げて
「ん? どうしたの、
「····な、なんでもないです! ちょっとぼんやりしてしまって!」
「あらあらこんな時にいけない子ね。お仕置きが必要かしら?」
「 け、結構ですっ!」
隣の女官が彼女の耳元でなにか囁いた途端、真っ赤な顔で動揺する姿に、ますます
視線が再び重なる。
しかしその表情は困惑気味で、この偶然の再会を喜んでいるというわけではなさそうだった。重なったのも束の間、すぐに視線を逸らされてしまう。
眠り皇子がいる寝所に案内される道中、前を歩く彼女の後ろ姿をじっと見つめながら、