時は
師である
「
両手が塞がっていたので、扉を右肩を押し付けて開けるまでは良かったが、そこから一歩踏み出した途端に体勢を崩し、お盆が傾きそうになったその瞬間。塞がれていたはずの両の手のひらの上からお盆がふたつとも消えていただけでなく、斜めに傾いだ自分の身体も倒れずに済んでいることに驚く。
ゆっくりと見上げてみれば、右腕で自分を支え、左腕と手の平に器用にお盆をのせた
「
料理と茶器がのったお盆は、どちらも
「いいですか、
「え、ええっと····それは、褒められているのでしょうか?」
「褒めてるな、間違いなく」
うむ、と
「このような良い意味で相違のある性格が好きな類の人間が、この世にどれだけいると思います? そうでなくとも君は仙女の如く美しく可愛らしい。この山から下りてしまえば、変な虫がわんさか寄ってきてもおかしくないのです。ましてや王宮にはいろんな人間がいますから。いいですか? 私のいないところでは、絶対にそのような無防備な姿を見せては駄目ですよ?」
うわぁ······めちゃくちゃ饒舌に語ってるから言いにくいけど、ここははっきりと言うべきかな?
「ええと····つまり、
「言われてるぞ、
「
「
「仕方ないですね、」
残念そうに嘆息しつつも、抱えていた
「あれ? そういえば、さっき王宮がどうとか言ってませんでした?」
「
「それはどういう?」
「まあまあ。とりあえず朝餉を食べながら話すとしよう。腹が空いてはなんとやらだ。順を追って説明するから、
◇◆◇◆◇◆◇
「医官たちも手を尽くしたがまったく原因がわからない。病的な部分でも外傷的な部分でもない。まあ、倒れた時の打撲痕などはあったが、例えば誰かに殴られたとかそういう類のものはなかったという意味でな」
眠ったまま目を覚まさない眠り皇子こと、第三皇子の
しかしそういう事態のために天師府があり、王宮には大勢の道士たちが交代で常に控えていると聞く。それに天師府の道士の中には、階級にもよるが皇帝陛下の許可を得られれば、王宮内のあらゆる場所を探索できる者もいたはずだ。
「これは妃嬪様からの内密な依頼で、運悪く捉まってしまってね。口が堅い信頼できる者を集めて、皇子の宮殿に集めろと命じられたもんだから。とりあえず皇子の護衛官殿と、腕がよく真面目な医官を三人用意した。これから道士も三人増える予定だが、もしもということもある」
「それで私? でも外部の者が王宮になんて入れませんよね?」
武官にしろ文官にしろ役職には手続きが必要だ。王宮の道士になるには三年に一度行われる試験に合格するのが必須である。これは合格者がいない年もあるくらい厳しいもので、その試験を乗り越えた王宮の道士たちは、階級はあれど皆が優秀な人材であるといってもいい。
「
「もうひとり? その方も道士なんですか?」
「いや、私の直属の部下で、若いが臨機応変に動ける今どき貴重な子でね。先に女官として送り込んでおいた。彼女なら皇子とどうこうなんてことも心配ないし、本職が武官だから護衛としても力を発揮できるので最適といえよう」
はあ、と隣で
「誠に不本意なのですが、君には女官に扮して、皇子が目覚めない原因を探ってもらいたいのだそうです。しかも解決するまで戻れない上に、失敗すれば罰せられるかもしれないという最悪の依頼です」
「その最悪の事態を招かないためにも、
なぜ自分が行って皇子が飛び起きのかは謎だったが、
そもそも
「わかりました。
「そうだろう、そうだろう。君も関わりのある御方だからね」
「え? そうなんですか?」
まったく記憶にないことを言われ、