彼らは
朝早くからこんな場所に駆り出された彼らに同情しつつ、この薄暗い森の中でずっと待機させられていたかと思うとなんだか申し訳なく思えてくる。
しかしそれはそれとして、
「
「はっ⁉ ····すみません、こんなに近くで見たのは初めてで」
馬車に気を取られ、その周りにいる馬たちが目に入っていなかったようだ。武官たちが乗ってきた馬は訓練を受けているので、余程のことがなければ暴れたりはしないのだが、動物は時に予想外の動きをすることもあるので注意は必要だろう。
「王都まで馬車でも一刻はかかる。時間が惜しいから、中で詳細を話そう」
まあまあの振動で揺れる中、
これから王宮に潜入するというのに、不安はないのだろうか。大体の内容は話したのだが、重要なことはまだ話していなかった。
なぜ
「実はな、
「はい。それは聞きました」
「うむ。その
「····いいえ、なにも。私のことは、
彼には言っていないことももちろんあるが、"忘却"についてはそもそもふたりが先に気付いてくれたおかげで、その対策もできているわけで。
それとは別の"記録"については自身で答えを出した。あり得ないほどの膨大な記録ができる領域が頭の中にあること。
その代わりに不要なものは自分の意思とは関係なく失われていくこと。文字にすればある程度の期間は残すことが可能であること。
日記をつけ読み返すことでもう一度記録する。そうやって『忘れたくないこと』を『忘れないようにすること』はできると知った。
しかしそれは
「ならばもし
「
「博識な君が知らないと? いや、興味がないといったところか。
「····秘められた想い、ですか、」
花はどんな花でも、可憐で美しい。誰かにとっては縁起の悪い花でも、別の誰かにとっては思い入れのある素敵な花かもしれない。それでいいのではないかと。
だがそんな風に言われてしまえば、いつからか自分の髪の毛を飾ってくれている、この
「でも、やっぱりいいです。聞いてもおそらく、すぐに忘れてしまうので」
「書いておけばいいだろう、いつも肌身離さず持っている日記帳に」
「いえ、これに書くのは私が"忘れたくないもの"に限定しているので」
花言葉の書物を目にする機会があれば、全種類を覚えることも可能だからとは
「そうか、なら本人に直接訊くのがいいだろう。目覚めたら、の話だが」
「さっきは傍にいない方がいいっていってましたよ? それになぜ皇子様にそんなことを訊く必要があるんです? そもそも、私などが皇子様とお話なんてできるわけがないのに」
「ああ、そうだったな。今のは忘れてくれ」
その花の意味を考えてみれば、あの御方はもしかしたら自分たちよりも先に気付いていたのかもしれない。いや、これ以上は野暮な話だなと
(もし皇子を目覚めさせられる者がいるとしたら、それは
彼の気持ちを想えば。
たとえ忘れさられていようとも、目の前にずっと逢いたがっていた者が現れれば、なにがなんでも目覚めずにはいられないだろう、と。