皇子が眠り続けてもうすぐ三日目の夜が来る。
朝と夜に皇子の身体を拭くことになっているため、
「
「ああ、丞相殿が言っていた子ですね。私は
「
「珍しい色の髪の毛ですね。その瞳も。どちらの国の出身ですか?」
「どちらの? 私は生まれた時から
「すみません、どうやら不躾な質問をしてしまったようですね」
「では中へ。なにかあれば私に言ってください」
扉を開け、ふたりを中へ促す。中に入ったのを確認した後、扉は
さすが皇子の寝所。広いし、置いてあるものも高そうだ。奥に置かれた寝台は見たこともないもので、屋根付きな上に見事な彫刻が彫られている。
そこから垂れ下がった薄く透けた紫色の布の先に寝かされているのが皇子だろう。垂れ下がっている薄い布とは別に、左右の端の方に厚みのある青い布が括られていた。
ふたりが中に通されるとほぼ同時に、寝台の周りにいた医官たちがなにも言わずにその場から離れる。女官が皇子の世話をするためのほんのわずかな時間が、彼らにとっての数少ない休憩時間だった。
この間に食事を済ませたり、集中していた頭や心を休ませるのだ。彼らはもう三日もそんな生活を強いられている。
「私がお世話をしている内に、君は自分の仕事をして? あまり大きな声は出さないようにね? ちょっとの物音でも、あの護衛官殿は様子を見に来ちゃうから」
どうやら先程のあの雰囲気は、やはり自分を試していたのだろうと確信する。たとえ女官だとしても、皇子に近づく者を快く思っていないのだろう。
男だと知ればそんな心配もなくなるのかもしれないが、それを話してしまったら初日で終わってしまうことになる。いろんな意味で。
秀麗で優しげな面立ちだが、本来の色が失せてしまっているせいでまるで死人のようだった。白い寝間着の衣を一枚纏っているだけの姿が余計にそう思わせる。食事もせず眠ったままのせいか、長い黒髪もどこか艶をなくしてしまっているようだ。
そんな皇子の胸のあたりに右手を当てて、
「
「どうしましょうって、いったいどうしたの? なにかわかった?」
皇子の胸に手を当てたまま、茫然としている
「····魂魄が、ありません」
「え? 魂魄って魂のことよね? 身体から魂がなくなってるってこと?」
「はい····本体から魂魄が離れた状態で今夜で三日目。かなり危険な状況かと」
「危険って····あとどれくらい猶予があるの?」
あと三日もつかどうか。
だが、これを話してどうにかなるわけではない。三日もつという保障はどこにもないのだ。そもそもどうして魂魄が消えているのか。
戻れなくなっている? 王宮内にいるならまだいいが、王宮の外に出てしまっていたら捜しようがない。それに大勢で捜すことも期待できない。
この依頼は内密に事を進めなければならない案件であり、そもそも彼の母である妃嬪がそれを赦さないだろう。
「一刻も早く見つける必要がありますが、闇雲に捜しても時間を費やすだけ。王宮内だけでもかなり広いですよね?」
「魂魄となれば、視える者でなければ捜しようがない。かといって君ひとりではまず無理ね。どうするの? 一応、明日には道士たちも何人か合流するらしいけど。このままなにもせずに皇子を死なせてしまったら、私たち全員の首が飛ぶわよ」
事実を伝えて今からでも増員してもらうという手もあるが、それはそれで大事になってしまうだろう。事を荒げずに、王宮内を捜す方法。
「
『きゅう!』
「ちょっ····いつの間に⁉ 白い
『きゅう~?』
小首をあざとく傾げ、
「よしよし、こわくないぞ~。お姉さんが保護してあげるからな~」
『きゅ!』
「
精霊であるが色々あって力を封じられている
「
「君がこの宮殿を抜けている間、私が上手く誤魔化すというわけね」
普通ならここで「精霊? そんなものいるはずがないだろう」と疑うのだろうが、彼女はそうはならなかった。まあ、余計な説明をしなくて済むのでそれはそれで良いのだが。
「はい。私が抜けている間は、
「化けるのはいいのですが、第二段階までの解除では、理解はできてもこの通りひとの言葉は話せません。そこをなんとか誤魔化していただければ····、」
『きゅう、きゅきゅ?』