王宮内には道士もいるので、【怪異】が存在しないと思っていたのだが、意外とそうでもなかった。おそらくこちら側に影響のないものは、放っておかれているのだろう。
幽鬼も同様、官人や女官の姿をした霊が色んな場所に点在していて、死んでいることに気付いていないのか、生きている時と同じ姿でいそいそと働いている者さえいた。
『きゅう~』
「よしよしいい子だね~。お疲れ様さま、」
「
自分たちの食事も終え、やっと仕事が落ち着いた。医官たちもそうだが、
普段、
「明日から王宮の道士が合流するそうだ。どうする? 今夜、抜け出す?」
「いえ、正直まだ範囲が絞り込めていません。
「わかった。けど、あんまり遅くまで根詰めないように。明日は明日で別の仕事もあるからね。ところで、さっき書いていたのって報告書かなにか?」
「ああ、あれはですね、日記です。今日のことを忘れるといけないので、念の為に。あと、
「あら嬉しい。私のことも? 見せて見せて~」
「いいですよ。似顔絵も描きました」
ドヤ顔で自信満々にいうので、どんなに素敵な似顔絵だろうと期待しながら、
他にも何人かの似顔絵と名前、そして特徴や出来事が事細かに書かれていたが、それよりも捲る度に視界に入ってしまうその珍妙な似顔絵が印象的すぎて、なんとか笑いを堪えるのに必死だった。
「ふ、ふーん····ど、独特な絵ねぇ····って、あら、他のひとのもある······ちょっ····これ、
まさかの知り合いの名前と共にその独特な似顔絵を目にしてしまい、
「
この
「ああ····あの御方は、まあ、そうだな····色々と事情が複雑で、」
もごもごと急に口ごもる
「ふ〜あ。じゃあ明日も早いから、私は先に休む。ああ、そうだ、」
半分に区切られた向こう側に行こうとしていた
「おやすみ、可愛い
ぞくぞく。
耳の近くでふぅと息を吹きかけられ、
道士として仙人を目標に日々修練に励んでいる身であり、そういうことに疎い自分でも、彼女が魅力的なのはじゅうぶんわかる。
だがしかし、これだけは言っておかないと!
「わ、私は男なんですよ⁉ こういうのは冗談でも、だ、ダメですっ」
「そんなのどうでもいいことだろう。君が身体的に男の子なのは知ってるけど、だったら別に問題ないでしょ?」
「は? ····ん? ええっと、それはどういう····?」
「おや、聞いていない? 私は女の子にしか興味ないんだ。でも君は気に入った。うぶな反応も可愛いし、見た目も好みだ。あ、じゃあ問題ありか」
まあ襲ったりしないから安心して、と肉食系な発言を残して
◇◆◇◆◇◆◇
そして、皇子が眠り続けて四日目の夜。
早めに宮殿の入口あたりで待機していたら、しばらくして門の前で話し声がした。それを合図にふたり並んで拱手礼をしながら頭を下げたまま、三人の道士が入ってくるのを待つ。
「お待ちしておりました、道士殿。どうぞ、中へ」
三人の道士の真ん中にいた人物。その見覚えのある彼は、じっとこちらを見つめてなにか物言いたげだった。
それはそうだろうとも! こんな格好で再会するなんて誰が想像したことか! いや、あれ?
いや、やはりあとで道士が追加されるとしか聞いていない····にしても!
(な、なんで、あのひとがっ⁉ ····絶対、間違いなく私に気付いてますよね?)
さあぁぁっと血の気が引く。気まずい。ものすごく気まずい!
事情を知っているひとや赤の他人ならまだしも、生まれてはじめてできた友と呼べるひとに、こんな姿を見られるなんて····最低最悪だ。
「ん? どうしたの、
「····な、なんでもないです! ちょっとぼんやりしてしまって!」
「あらあらこんな時にいけない子ね。お仕置きが必要かしら?」
耳元で
「 け、結構ですっ!」
「そう? 残念ね、」
素早く視線を逸らして背を向けると、先に歩き出した
~ 第二章 了 ~