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第4話 それでも幼馴染は布団に潜り込んでくる

 公園でのやり取りを経て、俺とアオの関係が大きく変わったかといえば、そんなことはなかった。

 ……むしろ、変わらなすぎているのが問題か。


「……なんでこいつは」

 朝、目を開けるととびきり整った寝顔が映り込む。その回数はアオと同棲を始めた日数とイコールで繋がり、今日もまたカウントを1つ増やした。

 いや増えるなよ。

 これまではいい。よくないけどまだよかった。でも、昨日の今日で俺の布団に潜り込むのはダメだろうと布団を引っ剥がす。


「……さむぃ」

「起きろ服着ろ」

 相変わらず人のワイシャツを着て寝ているアオから目を逸らしつつ、手近にあったカーディガンを投げつける。

 頭にカーディガンを被って、脚は素肌なのがやや間抜けに見える。色気もなにもあったものじゃない。


 しばらく布団を求めるように手が宙を彷徨っていたが、最後には諦めてのそりと起き上がった。カーディガンがずり落ち、寝惚けた顔が晒される。

「おはよぅ」

「おはようじゃないだろ」

 朝から頭痛がする。

「俺は昨日言ったよな?」

「なにを?」

「なにをって」

 本当にわかってないのか、寝惚けているだけか。ぽやぽやしているアオの疑問に頬が熱を持つ。

 また言うのか? でもこのままというのも問題だ。まさか、一晩明けただけで2度目の決死の覚悟をするとは思わなかった。


 ぎゅっと目をつぶって湧き上がる羞恥を堪えると、涙が目の端に滲む。

「……俺はアオを性的に見ているから、こういうことをされると困るって話だ」

 朝からなんの告白をされているんだ、俺は。

 まだ17年しか生きていないのに、もう人生の終わりを意識する。ふて寝してー、と眠気もないのに布団に潜りたくなる。


「……?」

 アオが小首を傾げる。

 寝惚けているのもあってか、その様子は幼気でかわいい。仕草1つで魅了してくる魔性の幼馴染が恐ろしかった。

 というか、首を傾げる要素ないだろ。

 身の危険を覚えろよと思っていると、バッと腕を広げた。シャツのボタンが外れていて、緩い胸元がゆさりと揺れる。

「……なにをしたいんだ?」

「抱きしめたいのかなって」

「違う」

「本当に?」

 尋ね返されると返答に窮する。でも、俺にも建前はあるので、「……違う」とどうにか絞り出す。というか、この状況ではいそうですと頷けるはずがない。


「なにをどう解釈したか知らないが、俺はアオにそういう感情を抱いてるんだから気をつけろよって言ってるんだ」

 なんで当事者の俺が説教しているのか。

 朝から重たいため息が出る。

「でも、私は好きって言ったわ」

「そうだけど」

 だから? という意味を込めて見ると、アオがふにゃりと頬をだらしなく緩めた。


「それなら、問題ないわね」

「……なにがだよ」

 好きだから襲われてもいいと言っているのか、好きだから信用していると言っているのか。俺の解釈によって180度意味が変わる解答だった。

 もっとわかりやすく言葉にしてくれと思うが、寝起きのアオにそれは酷らしい。また布団にパタリと倒れて、すやーっとまたもや寝顔を晒す。


「生殺しはまだまだ続く、か」

「ユイト、好きよ……」

 誘うような寝言に据え膳なんて言葉が頭に浮かんだが、振り払う

 占拠された布団に代わって、空いたベッドに倒れる。すっかりマーキングされたベッドは、冷たく甘い香りを発していた。

 幼い頃から慣れ親しんだ、その落ち着く香りに身を委ねて、俺は新たな夢を見るために目を閉じた――その夢にも、きっとアオが出てくるんだろうな予感しながら。




 ◆お嬢様学園からの転校生は無口でクールな幼馴染。家にまで押しかけてきて、ぼっちな俺への好意を隠してくれない。_Fin◆

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