「とりあえず70階層まではおさらいなので、軽く流していく」
【数か月前まではありえん話だった】
【今もだいぶありえんけどな】
「動画コンセプト的には『ピカりさんと
【ちょっと待ってください!
【お、ピカりのチャンネルから来たお客さんか?】
【初見かな? 力抜けよ】
【このチャンネルは『お嬢様と執事が協力して探索するチャンネル』じゃないんですよ】
【悪魔執事に無茶ぶりされる櫻子お嬢様の悲鳴を聞くチャンネルだぞ】
【むしろ
「コメントでご心配の方向けに説明すると、俺は基本的に二人が危なくないよう後ろで見たり、戦闘中の動画編集などを行う担当で、最奥に一番に到達しようという意思はない。ダンジョンはこの世界の問題だから、この世界の者が解決すべきという考えだ」
【たまに思い出される異世界転生設定】
【櫻子お嬢様のお嬢様設定と同じぐらいたまにしか見えない】
【そのキャラ付けいる?】
【いる(鋼の意思)】
「というわけで改めて、本日のゲストを紹介しよう」
【段取りへたくそ?】
【すでにめちゃくちゃ名前出てて今さら感】
「ピカりさん、お願いします」
【ぴ、ピカり? ピカりだって!?(棒)】
【ピカり!? あのチャンネル登録者数600万人のいまや世界で三本指に入る歌って踊れてモンスター虐殺も出来るあの!?】
【一応驚いてあげる視聴者の優しさ】
「ピカりさん?」
【画面の後ろの方で猫屋敷が怒られてるように見えるな】
【猫屋敷、またやらかしたのか】
【みんな猫屋敷が悪いと思ってて草。俺もそう思う】
「あのさー!」
【お、ピカりがしゃべった】
【出ギレ】
【基本的に猫屋敷のマイクはミュートされてるからこのチャンネルで女性の声が聞こえると新鮮だな】
【どうしてチャンネル主のボイスがミュートされてるんですか???】
【うるせえからだぞ】
「なんかいきなり『ディのことどう思ってるの?』とか聞かれたんだけど!? どういうこと!?」
【ピカりの視聴者のために解説すると、このチャンネルは馬鹿ップルが好意があったらどこまでの所業をお互いに許せるのかという精神実験チャンネルです】
【そんなチャンネルじゃねーだろw】
【やったこと
・執事がダンジョン最奥に置き去りにされて死にかける
・猫屋敷がスポンサーのエネルギーバーを生配信で「マッズ!」って言って執事が会社に謝りに行く
・猫屋敷が配信の途中でガチ泣きギレして勝手に家に帰ったので執事が配信の場をつなぐ
・執事が猫屋敷をダンジョンの深い階層に放り込んで腕組んで死にかける姿を見てる】
【うーん、精神実験チャンネルw】
【我々は何を見せられてるんです?】
【のろけだぞ】
【互いにピーキーだから釣り合ってる不思議なカップルのいちゃらぶ】
「なんとも思ってねーよ! いやごめん、ちょっとかっこいいと思ってるかも♡」
【うわでた】
【ピカりのチャンネル初見の人のために言うと、ピカりは男性配信者にとりあえず媚びるぞ】
【絡むと炎上する女】
【生きた火元】
【自律稼働する全自動放火マシーン】
【悲しい存在すぎる】
「もしかしてあたしにはコメント見えてないと思ってる???」
【これが色恋営業ちゃんですか】
【配信者になればピカりに色恋してもらえるってこと!?】
【おう! コラボ承諾してもらえたらな!】
「すまないピカりさん、猫屋敷は一見してお淑やかな深窓の令嬢のように見えるかもしれないが、ああ見えてかなり幼い駄々っ子なんだ。多少のわがままは小型犬に絡まれてると思って許して欲しい」
【と、飼い主が言っています】
【なんだろう、愛情はあるんだろうなってのはわかるよ】
【歪んでるな!】
「っていうか女性コラボのたびにアレやってんの? ヤバない?」
「いや、男性が相手でもアレをやる」
「うわヤバ」
「この間、コラボ相手が答え方を間違えて雰囲気が大変なことになった時も男性だった」
「ヤバ」
【※この会話の裏で猫屋敷が何かを騒いでいます】
【相変わらず猫屋敷のマイクだけスッとミュートされてて草なんだ】
「そういうわけで」
【猫屋敷のことを放置して話を進めるな定期】
【放置しなかったら話が進まない定期】
「今回はコラボをしていこうと思う。題して『配信ダンジョン、ゴールするまで帰れません』という企画だ」
「待って待って? 『帰れません』は聞いてないぞ♡」
「? 最奥攻略を目指すということは……攻略するまで帰れないということではないのか?」
【チャンネル特有の苦行にコラボ相手を巻き込むな】
【もはや特有でもないんだよなあ……】
【なぜか流行ってるんだよな、死亡遊戯スタイル】
【作業用BGM(悲鳴)】
【俺たちがなんで
「奈々子がわがままなせいでいろいろ揃えたので、ダンジョン活動中の生活の快適さは保証する。あと、昼に一回、夜に一回休憩を入れる。その間は俺が警戒しているのでゆっくり休んでくれ」
「普通それで『わかった、ゆっくり休むね♡』とはならんでしょ」
【言われてるぞ猫屋敷】
【寝顔を30分配信されても気付かないほど安眠していた猫屋敷】
【飼い主を信頼してる子犬】
「まあ、もしも不安なら70階層までは俺が先導するから、それで実力を見てもらっても構わない。ピカりさんも、70ぐらいは余裕だろう?」
【基準壊れる】
【俺、この配信見てDS辞めた】
【この執事こんなイキッてるけどほんま強いんけ???】
【イキりじゃなくてマジで余裕なんだよな……】
【猫屋敷も今や60階層プレイヤーだけど、この執事は90階層記録保持者なので……】
【もうすぐ100に届く執事だから『100が最奥じゃないか』っていう発言に奇妙な信憑性があるんだよな】
【え、世界記録保持者ってこと?】
【そうだぞ。ダンジョンギルド公式ホームページを見ろ】
【ホンマやんけ! なんでコイツがメインで配信せんの???】
【それは櫻子チャンネル視聴者一同ずっと言い続けてる】
【のろけしか返ってこないのであきらめた】
「そういえば最近はずっと奈々子ばかり映していたので、俺のことを知らない人も増えたのか。ちょうどいいからそういう人向けに自己紹介をしよう。俺は、佐藤院櫻子……本名猫屋敷奈々子が方々にかける迷惑の火消しをして回っている者だ。このチャンネルでは執事と呼ばれている。基本的に細かい調整と動画編集と、あらかじめダンジョンの深い層に潜っての調査などを担当している」
【それは『全部』って言うんですよ】
【もう全部こいつ一人でいいんじゃないかな】
「全部ではない。奈々子にはモンスターを前に新鮮な反応をするという重要な役割がある。俺はそういうリアクションが苦手だからな」
【以前に要求があってちょっとだけ見せた初見層攻略動画、クッソつまらんかったからな……】
【死ぬかもしれない環境で未知の危険に挑んでるっていうのに淡々と処理してく執事のケツをずっと見てた】
【なんかコイツ強い強くない以前に落ち着きすぎなんだよね】
【初見層攻略とかただ攻略してるだけでも絶対に面白い……そう思っていた時期が私にもありました】
「そういうわけだから、猫屋敷
「お待ちになって? つまりここから70階層までそのつまらん配信に付き合う感じになるってこと?」
「俺が露払いをするとそうなるが、俺が露払いをすると二時間ぐらいで着く。俺が攻略中は画面の右側でピカりさんの歌でも流そうと思っている。なんなら俺はワイプでいい」
「攻略配信で攻略してる側がワイプでいいとかあるんだ」
【ピカりがちょっと素になってて草生える】
【すいませんうちの執事がなんかこういうアレで】
【人外系異世界転生者執事】
【でも執事の露払いシーンは結構おもろいよ】
【追いかけるだけで猫屋敷がキレるからな】
【女の子に「ねぇ! 早すぎるんだけど!(怒)」って言われるの……フフ、興奮しますよね】
「ついて来られないようならゆっくり進むが、ピカりさんはどうだろう」
【あ】
【まずいぞ】
【ピカりを煽るな】
【そいつは火元だぞ】
「はぁ~~~? 出来るが? ついていくぐらい余裕だが~~~~?」
【ピカりさん、この執事の速度半端ないんですよ】
【猫屋敷キレながらよくついてけてるよ】
【実際、猫屋敷ももう世界有数のDSだからな。実力も】
【隣にバグ執事がいて弱そうに見えるだけ】
【コメントもよう煽りよる】
「そうか。では、遠慮のない速度で進もう。一時間ぐらいで70層到達を目指す」
【いつの間にか速度が倍になってて草】
【猫屋敷がミュートの中で「はぁ!?」って言ってる】
【いつもミュートされるから唇読めるようになっちゃったよ】
【だからチャンネル主がいつもミュートされてるチャンネルってなんだよ!】
「ついて来れるか?」
「もちろんだが??? なんなら追い抜くが???」
【それがピカりの最後の言葉であった……】
【※この間、猫屋敷がずっとミュートで抗議してます】
【ピカりさんも猫屋敷の扱いを理解してて草なんだ】
【(猫屋敷……今日もめちゃくちゃ騒いでるのに相手にされてないな……)】
「では、行こうか」