次の日、俺は学園への通学路を歩きながら妖精と心の中で会話していた。
ちなみに彼女は精神体に近い存在らしく、俺以外の人間に視認することはできないそうだ。
その気になれば霊体を物質化して姿を現すこともできるそうだが魔力が足りないらしい。
俺がレベルアップすればできるようになるそうだ。魂に潜んでいたのは半ば融合していたからであり、事実上俺とのパスが繋がって命が連動しているそうな。
それはともかく、いちいち話を脱線させるミニマム妖精のミルメットからなんとか事情を聞き出し、俺は自分の転生してきた経緯をある程度理解することになった。
『つまり、俺はこの世界の危機を救うための存在として選ばれ、本来もうすぐ死ぬ運命にあるシビル・ルインハルドとして転生したってことか』
『そうなんです。ちょっとややこしいんですけどね。難しいのであまり詳しく理解する必要はないですけど、この世界に危機が迫っているので、日本人としての記憶を持っているあなたに覚醒してもらえるように運命を操作したらしいです』
どうやら俺とシビルってかなり精神の親和性が高いらしい。
俺がシビルの前世である事は間違いなく、同じ魂なので体を乗っ取るとかそういうのではないみたいだ。
この時点でタイムパラドクスが生じてしまっている。
ますます分からんな。時間という概念は神様的な存在にはあまり意味をなさないのかもしれない。
多次元宇宙なんて言葉もあったしな。難しくてよくわからん。
ちょっと理解するのに苦労したが、ようするにこの世界に迫っている危機を救うには、前世の記憶をもった日本人というイレギュラーが世界に介入する必要があった訳だ。
現に俺はゲームとそっくりなこの世界において、既に本来の筋からはイレギュラーな行動を取って歴史を狂わせている。
いわく、それさえなければこの世界はゲームの通りに歴史が進み、俺は死んでエミリアは主人公と結ばれてめでたしめでたしとなる。
どのヒロインと結ばれるかは運命が分岐するので、【この世界ではエミリア】ということらしい。
つまりヒロインの数だけパラレルワールドが存在するという事なのだ。じゃあこの世界だけ救う事に意味なんてあるのか、と問いたいが、それらの世界も【存在するといえばするし、しないといえばしない】とか意味不明な説明をされた。
本当にややこしいのでここら辺の事情は軽く流しておいた。
しかしそれで終われば良かったのだが、エンディング後の世界は数年と持たずに破滅の終わりを迎える。
ゲームでは描かれていなかったが、あの物語の後日談はかなり悲惨なようだ。
俺がやるべきことは、歴史に介入して破滅の運命から世界を救うこと。
実はこの世界はもう破滅に向かってゆっくりと進み始めているらしい。
それが具体的にどんな事象を指しているのかは、残念ながら教えてもらえなかった。
ミルメットも主から知らされていないそうだ。恐らくそこまで介入することができない事情があるのだろう。
ようするに俺がこの世界を救わないと、それら別の世界線も含めてすべて消滅してしまうとか、そういう感じの理屈みたいだ。
たかが日本人を転生させるだけにしては背負うモノがヘビー過ぎやしないだろうか。
『まあ分かったよ。俺には俺の目的がある。それは変えなくて良いって認識で合ってるか?』
『その通りです☆ シビルさんがヒロイン達を攻略することで破滅の運命は回避される可能性が高いのです。それが何故、どうしての部分は教えてもらえませんでした』
肝心な所は全部それか。
まあいいや。とりあえず当初に立てたプランの変更はしない。
俺はエミーを幸せにしたいし、バッドエンドを迎えるかもしれないマド花ヒロイン達も幸せにしたい。
『ところでさ、どうしてこの世界ってマド花の世界にそっくりなんだ? もしかしてあのゲームってこっちの世界の未来を描いたゲームなのか?』
『
多分こっちの世界の歴史家かなんかが地球に転生したとか、そういうのなんだろう。
この妖精が知らないんじゃ俺が分かるなんて不可能だ。
考えるだけ時間の無駄だな。
「さて、それはともかく、今日も学園ライフを頑張りますか。昨日までとは景色が違って見えるな」
絶望しかないと思っていた世界が色づき始めた俺にとって、ここは今日から未来を見据える楽しい場所になる。
なぜなら……
「シビルちゃ~ん♪」
「お……」
頭上から聞こえてくる可憐な声に振り返ると、そこには愛しき存在が馬車の扉を開いて手を差し出していた。
「おはようシビルちゃんっ。一緒に登校しよ♡ 乗って乗って」
「ありがとう。お言葉に甘えるよ」
これまで何度かこのような誘いを受ける事はあったが、全て断ってきた。
しかし今日からは違う。エミーもそれが分かっているのか、誘う時の声は以前より遙かに軽快で嬉しそうだった。
俺がその誘いに乗ることを理解しているからだろう。
「シビルちゃんおはよう~、んちゅ~♡」
「お、お嬢様ッ⁉」
乗り合わせていたメイドさんが驚きの声を上げる。
エミーは馬車に飛び乗った俺に早速抱きつき、一瞬も躊躇することなくキスを見舞ったからだ。
「おはようエミー。朝から随分大胆だね」
「だってだってっ。シビルちゃんと一緒に学園いけるんだもんっ♪ 嬉しくて嬉しくて」
エミーのトレードマークであるフサフサの尻尾が喜びのサインを表し、ファサファサと椅子の皮を擦って音を立てている。
彼女は当然のように俺の隣に座り、腕を絡めて柔らかな感触を押し付けてきた。
「んふふ~♡ シビルちゃんと一緒♪」
本当に嬉しそうだ。この笑顔を見られるだけで自分の選択が正解だったと強く思える。
そうして学校へ到着するまでの間、彼女と俺はずっと互いの感触を楽しみながら談話していた。
ちなみにメイドさんは(旦那様になんて言えば)なんてブツブツ言っていたようだが、ご苦労様です。
「ねえねえシビルちゃんっ見て見てっ♪ オーダーしてた新しいパンツできたから履いてきたの♡」
「うおっ⁉ え、エミーッ」
あろうことか隣に座ったエミーは俺の手を取ってスカートをめくらせてくる。
パールホワイトのレースとフリルをふんだんに使ったドエロいデザインの下着だった。
「お、お嬢様っ! 婚姻前の淑女が殿方にそのようなハレンチなことをしてはっ」
「いいもーん。だってシビルちゃんは私の旦那さまになる人だもん」
「公爵閣下が聞いたらひっくり返りますよ」
「どうか是非ともご内密に願いたいところです」
メイドさんの告げ口一つで俺の首は宙を舞ってしまいそうだ。
そうは言いつつ俺の視線はエミーの可愛く扇情的なおパンティに釘付けになってしまっている。
目が離せないとはこのことだ。こんなパラダイスがこれから毎日続くのかと思うと、学園生活への楽しみが増えていくというものだ。
(お昼休みにいっぱいエッチしようね、シビルちゃん♡)
(お、おう……)
目の前のメイドさんに聞こえないような声で、そんな蠱惑的な
この世界で俺達2人にしかできないイチャイチャの仕方の味を覚えた目の前の少女は、その時がくるのを待ちきれないかのように妖艶な吐息を吹きかけてくるのだった。
早く来い昼休みッ!! まだ登校前だけどお昼が待ち遠しすぎるぜ。