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第12話懲りないアルフレッド


 ザワザワ……。


 学園に到着した馬車を降りた俺達は、いつものように校門に向かって歩き始める訳だが、そこでも彼女は隠すことなく俺に腕を絡めて胸を押し付けた。


 周りの視線が一挙に集まり、むしろそいつらに見せつけるようにイチャイチャと絡み始める。


「皆が見てるぞ」


「見せつけちゃおーよ♪」


 エミーはシビルちゃんの女だもん♡ そんな事を呟きながら更に密着してくる。


 俺もそれを止める事なく堂々と歩いた。

 彼女にとって恥ずかしくない男になると決めたからには、こそこそと影で付き合うなんてことはできない。


 しかし俺の容姿は醜いブタゴブリンのままなので完全に美女と野獣だな。いや、美少女と家畜か?


「え、エミリアお嬢様ッ! 何をしていらっしゃるのですかっ!」


「ん?」


 聞き覚えのある怒鳴り声が後ろから聞こえてくる。

 無視してやってもよかったが、どうするか?


 と思ったら、声のする方を一瞥したエミーが腕を絡めたまま声の方へと向き直った。


「これはアルフレッド様。おはようございます」


 貴族のご令嬢らしく丁寧な挨拶だが、普通は所作を入れる所を俺に腕を絡めたままだ。


 適当に挨拶を済ませ、もう用はないとばかりに踵を返して歩き始める。


「お、お待ち下さいっエミリアお嬢様っ!」


「もう、なんですか? せっかくの時間が無駄になってしまいますわっ」


 エミリアはいつものような表向きの態度を一切取らずに迷惑だという感情を隠そうとしない。


 良くも悪くも遠慮がなくなっているな。


 俺も彼女にばかり相手をさせるのは男が廃る。俺の女に突っかかる奴を追い払うとしよう。


「おはようございますアフレッド様。本日もご機嫌麗しゅう。私達は2人の時間を楽しんでいる最中ですので、ご用件は後ほど使用人を通してお願い致します」


 俺はこれでもかと言うほど恭しく頭を下げ、様付けを強調しながら朝の挨拶をしてやった。


 丁寧な仕草の中にガンを飛ばすのも忘れない。

 昨日の巨大魔法のトラウマを忘れていないのだろう。俺が睨み付けるとすぐに顔を青くしていた。


「それでは失礼致します」


 ちょっと煽りすぎたかな。ちなみにムカつく態度を取ったのはわざとだ。

 これで俺にだけヘイトが向かってくれれば儲けものだ。


 あいつはずっと以前からエミーに懸想けそうしていたし、父親にエミリアとの婚約を何度も打診して断られている。


 これはエミー本人から聞いた話だ。いつも柔らかく、しかしハッキリとお断りしているが、本当は「気持ち悪いから手紙送ってくるな」って言いたかったそうな。


 アホフレッドの自業自得とはいえ、哀れに過ぎるな。

 傲慢な性格は人の心を離れさせると学んでくれ。


 平和な学校生活も戦争が始まるまでのあと僅か。

 戦いが始まればこいつも戦場に出向かなければならなくなるのだから。


 ◇◇◇


「それじゃあシビルちゃん。今日は昼食一緒に取れるんだよね?」


「ああ。それは問題ないけど」


「上位貴族用のレストランの席、確保しておくから一緒に食べよ」


「ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな」


「うん♪」


 悔しがるアルフレッドを尻目にイチャイチャをやめようとしないエミー。


 俺達は教室の前まで一緒に手を繋いで歩き、周りの視線を集めながら堂々としていた。


 既に学園内で噂になっているに違いないな。エミーは上級生や、ゲームの舞台となる高等部の生徒からもしょっちゅう求婚されている美少女だから。


「それじゃあまた昼休みにな」


「うん♪ またねシビルちゃん」


 上位貴族であるエミリアと下位貴族である俺は教室が違う。


 ランク分けされた教室での授業は、やはり上位になるほど高度で実用的だ。


 才能と実力で分けられている訳だから、俺も頑張れば進級できるかというとそうではない。


 この辺は貴族社会の厄介な慣習があって、よほどの例外でない限り下位教室から上位教室に上がることはできない。


 ちなみにその例外とは、勿論ゲームの主人公のことだ。


 だけど俺としてはやはりいつでもエミーの側にいてやりたいし、学園にいる間は悪い虫が付かないようにする必要もある。


 なのでやはり早めにきっかけを作ってエミーと同じ教室に通える環境を整えたい所だ。


 何か良い方法は……。


 そんなことを考えながら授業を受けていたその日、お昼近くになって良いアイデアの方からやってきてくれたことを確信した。


「おいブタゴブリン。ちょっと顔を貸せ」


 案の定怒りの形相をしたアルフレッドが俺に突っかかってきた。


 お昼の休憩時間はエミーと共に上流貴族専用のサロンで食事を取り、高級料理のフルコースを堪能しながら会話を楽しんだのである。


 その帰り道、教室に戻ろうと廊下を進んでいたところでコイツが絡んできた。


「すみませんアルフレッド様。私の顔は取り外し可能な機能は備えておりませんもので」


「き、貴様ッ! 僕をバカにするのもいい加減にしろっ」


 ちょっとからかっただけでそんなに怒らんでもいいのにな。


『ギャグセンスが古いですねぇシビルさんって』


 古くて悪かったな。日本じゃそれなりにいい年だったんだ。


 ミルメットが肩に乗って耳元で溜め息を付く。さっきも言ったがコイツの声も姿も他人には認識できないので、俺が反応すると独り言を言っているように見えてしまう。




「決闘だ。僕と決闘しろシビル・ルインハルドッ!」


「俺にメリットがあるようには思えないのですが?」


「黙れ。貴様は上位貴族である僕に不敬を働いた。無条件で不敬罪になるところを、決闘で生き残るチャンスをくれてやろうというのだ。有り難く思うがいいッ!」


 相も変わらず無茶苦茶な事ばかり言いやがって。


 暴論って言葉を知らないのか此奴こやつ


『シビルさんっ。これはチャンスですぞ☆ 貴族の鼻を明かすのと、上位教室への昇格を条件に提示しましょう』


 なるほど。それは名案だ。考えようによっては丁度良い。


 俺の平和な学園生活確保のため、こいつには踏み台になってもらうとしようか。

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