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第13話お前のせいかよっ!

 俺とアルフレッドの決闘は学園生徒全体に告知され、大々的に行なわれる事となった。


 まあ上級ギリギリ中級貴族と三流ブタゴブリンの勝負なんてそこまで注目はされないだろうが、シビル・ルインハルドは悪い意味で有名なので、見世物見たさに人は集まるかもしれない。


『アウェイが集まるほど逆転した時に気持ち良いでしょうね』


 まあそうだろうけど、どういう風に勝負を乗り切るかは悩みどころだ。


 貴族同士の決闘は双方の同意があれば自由に行なって良いことになっている。


 ゲームでもヒロインに横恋慕した貴族から喧嘩を売られるイベントがあったが、この制度というのも案外いい加減なものだ。


 どう頑張っても普通の下位貴族や平民が勝てるようにできていない。


 主人公の場合も勇者の加護とギフトスキルによってもたらされた莫大な魔力で敵を蹴散らしたことで校内で名を広めることになるのだが……。


 俺もそれにあやかるとしようか。


 決闘専用のコロシアムのような場所が訓練場の一角に存在しており、俺達は次の日の放課後に決闘することになった。


 エミーに伝えると心配はしつつも俺の勝利を信じてくれた。


 一番前の応援席で周りの目を気にすることなく俺に声援を送ってくれている。


「シビルちゃーんっ! 頑張って~♡ アルフレッドなんかやっつけちゃえ~」


 貴族のお嬢様らしからぬ声援に手を振り返すと、周りのメイド達にたしなめられている光景が目に入って、思わず頬が緩んでしまう。


「ルールを確認するぞ。勝負は真剣同士。相手の武器を弾き飛ばすか、部位の欠損、死亡も適応される。魔法は禁止だ」


 もうルールだけで俺を殺す気満々なのがバレバレだぞコイツ。


 講師もよくこんなルール承諾したな。恐らく貴族の威光を笠に着たこいつらには逆らえないってところか。


 上位寄りの中級貴族の我が儘と、三流貴族の三男坊のいのちとじゃ、前者の方が優先されるってことだ。


 講師陣にも貴族はいるが、やはり選民意識が強いので俺の味方はしてくれないだろう。


 いかにも貴族優位なこの国らしい。ルルナ姫が嘆くぞ。


「異論はありません。それより、互いの要求を確認いたしましょう」


 今回の決闘で、俺は上位教室への格上げを。それにかかる学費の全額負担。

 アルフレッドは俺の国外追放を要求した。


 明らかに重みが釣り合っていないが、お互い合意の上であるならどのような要求も通ってしまうのが決闘のルールだ。


「そうだ。もう一つ、俺の要求を上乗せしてもよろしいでしょうか」


「いいだろう。いってみろ」


「俺の要求は上位教室への格上げ、具体的にはエミリアと同じクラスになること。及びそれにかかる費用の全額負担。もしくはそれに見合うだけの金貨です。それにプラスして、アルフレッド様、俺が勝ったら二度とエミリアに近づかないでいただきたい。取り巻きの人達も一緒です」


「ふん。いいだろう」


 昨日あれだけ力の差を見せてやったのに、この妙な自信は一体なんだろうね。


『ヘンテコな魔力を感じますねぇ~。多分ふところに魔道具を仕込んでますよ。それに腰に差した剣も結構な業物ですし。シビルさんのは兵士が訓練で使う安物量産の金属剣。しかも相当使い古されてますねぇ』


 だろうと思ったよ。この小心者が正々堂々なんて仕掛けてくる筈がない。


 なんで分かるかって? 俺も同じような小心者だからだ。


『しかもあらかじめ武器へのエンチャント魔法たっぷりかけてますねぇ。更にフィジカルも強化するバフ魔法を何重にも重ねがけ。ボンボンのロクデナシでもさすが貴族だけあって魔法はそれなりです。しかもそれを視認できない腕輪の魔道具を装備しているので審判にもバレていません』


 必ず必勝の策を仕掛けている筈だと踏んでいた。


 別に卑怯だなんて思わない。勝つ為に手段を選ばず、それをバレないように仕込むのも戦術のうちだと思うしな。


『攻撃に全振りしているせいか、防御ステータスはザルですね。シビルさんの一撃でグチャグチャのトマトが出来上がりますよ』


(怖ぇこと言うなよ。言いたいことは分かるけど)


 肩に乗っかったミルメットが相手の魔力を分析してくれる。

 彼女はずっと俺の魂に引きこもっているのもヒマなので、異世界転生テンプレよろしくナビゲーターをやってくれることになった。


 ステータスの確認や周りの索敵。この世界のデータ分析など、色々とできる事が多いらしい。


 ふざけ倒して余分な言葉が多いのが難点だが、退屈はしないのであやかることにした。


「さて、早く終わらせてエミーとイチャイチャしようか」


『ちょっとくらい舐めプしてあげたらどうですか? 良い勝負に持ち込んだ方が周りも盛り上がると思いますよ』


 うーん、確かに急激な力の上昇のこともあって悪目立ちするのはよくないかもしれないな。


『本気を出したらただの素振りでも客席を吹っ飛ばす威力になりまっせ☆ 一応防御結界が展開されてるみたいですが、シビルさんのカンストステータスの前じゃサ〇ミオリジナルも同然の薄さですよ』


 あれは薄くても丈夫だろうが。危ない発言をするんじゃねぇよ。


 恐らく時間の問題だと思うけど、威力を絞る訓練もしないといけないし、上手いこと手加減する実験台になってもらうか。


 俺は腰に差した騎士剣を抜き放ち、訓練通りに構える。

 なんだかんだで基礎的な訓練は怠ってこなかった。


(お? なんだろう……今までより剣が腕に馴染む感じだ……。もの凄くしっくりくるぞ)


 まるで今までせき止められていた感覚が急激に戻ったような。初めての感覚なのに奇妙な馴染みを感じる。


 シビルは確かに才能に恵まれなかったが、決して怠惰な人間ではなかったのである。


 むしろ努力しても努力しても報われないのに、毎日剣の素振りは欠かさなかったし、厳しい訓練にも積極的に参加してきた。


 全てはエミーに恥をかかせたくない一心だった。


 ほとんど空回りしてて実っていなかったのが悲しいところだ。


『あ~、すみません。それ多分私のせいですねぇ』


 は?


『魂のスペースを間借りしてたんで成長のエネルギーが体に行き渡らなかったんですねぇ』


 だからいくら鍛えても成長しなかったのか。あんまり食べてもいないのにやたら太ったのもお前が原因なのか?


『そうですよ☆ 栄養が行き渡らないので顔にできものできちゃうし、容姿がブタゴブリンなのもそれが原因デッス☆』


 明るく言いやがって。と言うことは俺が今まで苦労してきたのは半分以上お前のせいじゃないか。


 もしかしてアレか? 栄養の良い部分だけ吸収してその美容を手に入れて、余分なものを俺に押し付けてたのか?


『ゆるしてチョンマゲ☆ でも、もうそれがなくなったので、これからはちゃんと努力が実り……あ、勝負が始まりますよっ』


 大事な話を途中で打ち切りやがった。こんにゃろう、後で覚えてやがれっ。


 長年の悩みがこんないい加減な形で解明してしまったことに涙といきどおりを禁じ得なかった。


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