目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第57話闇に染まる魔龍

『……むうぅ。確かにこのところ感じていた世界の震えは尋常ではなかった……。貴様のような異世界からの異物がこの世界に紛れ込むような事態……。普通である筈がない』


 俺は自分が異世界からの転生者であることを明かして協力を仰いだ。


 魔龍帝は以前から異常な魔力の活性を感じとっており、今代の魔王はかつて無いほどの力を持つのではないかと懸念していたらしい。


『貴様が異世界よりも来訪者であるなら、これは何かの異変が起こっている証拠かもしれぬな』


 流石はこの世界で最強の一角である魔龍帝だ。


 理性的でかなり話の分かる御仁だった。


 ゲーム本編だと魔王の瘴気にやられた影響でいきなり襲い掛かってくるからな。


『よかろう。我も今の状況は何かを感じる。人間共がどうなろうと知ったことではないが、世界が瘴気に満ちてしまってはこちらとしても迷惑だ。龍帝の宝玉をくれてやろうではないか』


「ほ、本当ですかッ⁉ わ、私なんかが、大丈夫なんでしょうか」


『……普通は無理だ。だが、今のそなたの魂には不思議な魔力の高まりを感じる……。大いなる神の魔力に守られし、守護された魂だ……。一体何があったのだ』


 ひょっとしてスピリットリンカーの事なんだろうか。


 ミルメットの主人は女神らしいから、スピリットリンカーには女神の魔力の恩恵がありそうではあるな。


『……』


 ミルメットが何か言いたげな空気感を感じるが、話がこじれるので今は気にしないでおこう。


「それは恐らく私の影響です。スピリットリンカーと呼ばれるスキルによって、彼女達と私の魂は繋がっているらしいのです」


 スピリットリンカーというのも未だに謎の多いスキルではあるので、俺自身が説明しきれないところがある。


 ミルメットも記憶が封印されて言えない部分も多々あるので、これから謎を解き明かしていくしかない。


 とりあえず現状でスピリットリンカーについて分かっている部分を魔龍帝に共有した。


『なるほど。女神まで関わっているとなると……邪神の降臨が近いのかもしれぬ』


「邪神、ですか……」


 ミルメットも言っていた名前だな。邪神か……。一体何者なんだろう。


 ゲーム本編、スピンオフ、設定資料含めてそんな奴の名前は出てこない。


「邪神とは一体何者なんですか?」


『それは……』










「それはまだ秘密においてもらおうか……」


何奴なにやつッ』


 洞窟内に突然響き渡る低い声。辺りを見渡しても誰もいない。


 だがもの凄く気持ち悪い気配が辺りに充満しているのは分かる。


 いや、これは気持ち悪いというか、悪意そのものって感じがする。


 どういう種類の気配なのか分かるくらいには濃厚であり、それが俺達に対する殺意であることも伝わっていた。



「やだ……なんか、凄く嫌な魔力を感じます……」


「敵、だよね。それくらい分かる。本当に嫌な気配だよ……」


「くっ、どこにいるっ! 姿を表せっ!」


 三人は訳の分からない気配に明確に怯え始めた。それくらい嫌な魔力が立ちこめて俺達に敵意を向けてくる。


「ここだ」


「「「ッ⁉」」」


 いつの間にか、魔龍の魔力を制御している魔法陣が黒く濁っていた。


 なんだこれは……もの凄く嫌な感じがする。


『シビルさんっ! これ、魔王の瘴気に似てますッ』


「なんだと、じゃあまさかッ⁉」



『ぐわぁあああああああああああああああああっ! こ、これはぁああっ』


 白い光だった魔法陣が黒く染まったのを視認した直ぐ後、魔龍帝が突然苦しみだした。


 こ、これってまさか。


『あがぁああ、ぐぅう、に、人間達よ……に、逃げるのだ……、こ、この黒い衝動は……、魔王、否、じゃ、し……うぐぅおおおおおおおおおおおおっ!』


「りゅ、龍帝殿ッ! いったいどうされたのだッ⁉」


 目映い黄金色だった魔龍帝の体が腐り落ちるように黒ずんでいく。


 それはゲームの中で初めて会う魔龍帝と同じ色。つまりこれは…。


『GUAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!』


 瞳からは尊厳と共に理性の色が失われ、獣の咆哮を叫びながら巨大な体を持ち上げる。


「危ないッ! 避けろっ!」


 次の瞬間、巨大な質量を持った何かが真上から降ってくる。


 俺の叫びに反応した三人がその場から飛び退くか否かのギリギリの瞬間に大轟音と共に粉塵が舞い上がった。


「うわぁああああっ!」

「きゃぁああああっ」


 それは魔龍帝の右手側に浮遊していた巨大な剣の一撃だった。


 セイナとホタルは咄嗟に反応し、攻撃を避けた。

 だがフローラは全く反応できていなかった。


 俺が抱えて飛ばなければ死んでいただろう。レベルアップしたとはいえ、魔龍帝相手では分が悪すぎる。


『GUOOOOOOONNNNN』


「お、大きすぎる…ッ」


 立ち上がった魔龍帝は鎮座していたとは比べものにならない迫力であった。


『シビルさんマズいですよっ』


 どうしたこの忙しい時にっ。


『あの魔龍帝さん、ゲーム本編のボス戦よりステータスが高くなってます』


 な、なんだとっ⁉ じゃあホタル達のレベルじゃ戦えない。こうなったら俺が――


『ダメです。しかも【龍帝の巫女イベント】の仕様になってるみたいです。セイナさんとフローラさんが協力しないとダメージが通りません』


 なんてこった。だとしたら、二人にそのことを伝えないと。


――――――


【魔龍帝サダルゼクス】

――LV97 HP4500 MP300000

――腕力 980

――敏捷 350

――体力 1080

――魔力 1300


――――――


 確かにもの凄いステータスだ。確かゲーム本編の魔龍帝は50くらいだった。


 こいつを彼女達だけで? 無茶すぎるぞ。


「次が来るぞッ! 戦闘態勢ッ!」


 恐怖に飲まれかけていた三人に檄を飛ばす。


「で、でもシビル君、魔龍帝と戦うなんてっ」

「既に正常な状態じゃなくなっている。ボケッとしてたら殺されるだけだっ」


「第2撃がくるぞっ、二人とも覚悟を決めろッ」


 一番最初に戦闘態勢に入ったのはやはりセイナ。そのすぐ後にホタルも剣を構える。


「まともに受けるなっ! 攻撃は全て躱すんだっ」


「承知したッ」

「わ、分かった」


「フローラッ」

「し、シビル様ッ?」


「魔龍帝を正気に戻すには君の力が必要だっ! 俺のそばを離れるな」


 敏捷性と防御力の低いフローラは魔龍帝の攻撃をまともに喰らったらひとたまりも無いだろう。


「いいか、俺が奴の攻撃をひたすら受け止めるから、その間に――――」


 俺はフローラにやるべきことを手短に伝える。


 怯えて居た顔は勇気を取り戻し、自分のやるべきことを自覚したようだ。


「まずはホタルと合流して身体強化魔法をかけまくれ」


「わかりましたっ!」


 その後、セイナの元へと駆け寄ってフローラと同じ事を伝える。


 俺がいれば奴の攻撃を全て弾き飛ばすことができる。


 その間に準備を整えてもらい、イベントを成功させるんだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?