「せぇえええりゃぁあああ」
『GYAOOOOOOOOッ!!』
凶暴な咆哮を叫ぶ魔龍帝とシビル様が戦っていた。
一振りで洞窟の岩をバターのように斬り裂く魔龍帝。
それをシビル様は難なく受け止め、薙ぎ払っている。
繰り出す攻撃の一つ一つが世界中に響き渡るんじゃないかと思うほどの轟音を生じさせ、私達に向かってくる攻撃を全て弾き飛ばしてくださった。
「シビル様……やっぱり素晴らしいですわ」
感嘆のため息を漏らし、その凜々しいお姿に見とれた。
「フローラッ」
「はっ、そうです。ぼんやりしている暇はありません。セイナちゃん」
私、セイナちゃん、ホタルちゃんの三人で集まり、シビル様から言われたことを説明した。
「シビル様から聞いていると思うけど、手短にやるべきことを整理するね」
「ああ、頼む」
「お願いします」
「まずセイナちゃん。龍化は取得してる?」
「うむ。我が主と交わったおかげで、短時間であれば操れるようになった」
「ホタルちゃんの勇者の魂ってスキルで、魔力を全開にした一撃が必要なの。セイナちゃんの最大火力の攻撃と、ホタルちゃんの最大火力の攻撃。そこに私の中に眠る魔人の血による魔力を乗せることで、魔龍帝に掛かってる邪気を払うことができる」
「うん。シビル君の言ってた通りだね」
「ええ。だから、シビル様が隙を作ってくださる。そのチャンスを絶対に逃しちゃダメ。今の私達では全力全開でスキルを使えるのは一度きりだから」
そこに失敗すればもう撤退するしかない。しかし瘴気に狂った魔龍帝を放置すれば、麓の町どころか世界中が未曾有の危機にさらされることになる。
「私達は魔王を倒すんだもん。こんなところで苦戦してる場合じゃないよねっ」
「うむっ。その通りだ。我々の力を合わせればできる。我らには主が付いているのだ。負ける筈がない」
「うん。私もそう思います。やりましょうっ。心を一つにっ!」
私達は奮起した。
「いくぞホタルッ」
「はいっ!」
魔力を全開にして二人の攻撃に補助魔法をかける。
シビル様に言われたことを思い出し、自分の魂の底から魔力を引っ張り出すようなイメージをしながら魔力を練り上げる。
「凄い……。シビル様と繋がってから今日まで、ここまで魔力の高まりを感じた事はない……。凄い…本当に凄い……」
体の奥から溢れ出す魔力。杖の先端にそれを集め、ドンドン高めていく。
今までこんなもの凄い魔力を集中したことなんてなかった。
できなかった筈なんだ。間違いなくシビル様のおかげ。
体が熱い。こんなに熱くなる感覚を、私は知らない。
『GYOAAAAッ⁉ GUOッ』
凄い…。たった一人で、あの巨大で凶悪な魔龍帝を相手取って一方的に殴り飛ばしている。
大木を思わせる巨大な剣を薙ぎ払うように動かせば、嵐が起こったかのような風圧がやってくる。
だけどシビル様はそれらの激しい攻撃をなんなく、逆に受け止め、殴り飛ばして弾く。
それも素手で。本当に凄い。
「すごいよシビル君。圧倒的。このまま倒せちゃうんじゃ」
「いやっ。確かに圧倒しているが、魔龍帝にダメージは入っていない。我々が彼の言いつけ通り、奴にまとわりつく魔王の邪気を払うしかないっ!」
「うんっ、いくよ皆ッ!」
ホタルちゃんの号令で一斉に飛びかかる。
「かぁああああっ! 【龍真化・ドラゴニックアーツ】」
セイナちゃんの体が劇的に変化していく。
雄々しいツノと、鋭い爪が生え、ドラゴンの赤い翼が背中から伸びる。
激しい炎のオーラを纏い、お父上から授かったという剛槍を構える。
「シビル君、私に勇気を…【ブレイジングソード】」
剣に伝わる炎がいつもより激しく燃え盛り、赤の炎が青白い光に変わっていく。
そして、二人の放つ光が私の魔力を通して大きくなっていくのが分かる。
シビル君から教わった魔龍帝を鎮める方法。
それは、私に流れる古代文明最強の魔女である、始祖フレローラ様の魔力で浄化すること。
ドラゴニックアーツでパワーアップしたセイナちゃんと、ブレイジングソードを全開にしたホタルちゃん。
二人の攻撃と私の魔力を、まったく同時にぶつけなければ浄化は成功しない。
「シビル様ッ!」
私の呼びかけがシビル様に伝わり、最高のタイミングがやってくる。
「よし、君たちならやれるっ! いけっ!」
大きく跳躍し、渾身の一撃で魔龍帝をたたき伏せるシビル様。
私達はその一瞬を逃すことなく、三人の心を一つにする。
「目覚めよっ、
「いくぞっ!」
「せぁああああっ!」
血の滾りと共に言葉が頭に浮かび上がってくる。
そして魔人族の真名が【魔神】の力を受け継いだものであることが理解できた。
いや、私の血が知っていたんだ。
魔の力を極めし異界の神、『伝説の魔神ザハーク』の力を受け継いだのが魔人族。
そしてその力を最も強く引き出した魔人族最強の魔女の名がフレローラ様なんだ。
「目覚めよ魔龍帝ッ!」
「光を取り戻してくださいっ!」
『GYAAAAAAAAAAAッ⁉』
二人の奥義が浄化ノ光を乗せて炸裂する。
全身にまとわりついた邪悪な衣が剥がれ落ち、あの方本来の目映い黄金の鱗が現われてくる。
『お、おおおおっ……これは、まさしく神の力……浄化ノ光……の奔流……。まさか本当に引き出すとは』
意志のある言葉を取り戻した魔龍帝を見て、私達が勝利したことを確信した。
だけど私達は忘れていた。魔龍帝を邪悪に染めた者がいたことを。
セイナちゃんも、ホタルちゃんも、私も、勝利の余韻に浸って油断していた。
そこにいる誰もが油断していた。
ただ一人を覗いて……。
「まだだっ! 魔龍帝を狂わせた誰かが、まだ潜んでるッ!」
シビル君のライトニングピアスが洞窟の片隅目掛けて飛んで行く。
暗くてよく見えないけど、気持ち悪い青をした人型の何かが飛び出してきた。
「よくぞ見破った。邪気に染まった魔龍帝を退けるとは見事だ勇者達よ」
青白い顔をした細身の男が、不気味な笑いを浮かべながら私達の前に姿を現した。