青鬼のバンシーとやらを消し炭にして、怪我をした魔龍帝に駆け寄った。
全身が焼けただれて死に体になっている。これは放置するとまずそうだ。
「魔龍帝っ、ご無事ですかっ」
『ぬ、うぅう……。すまぬ……。どうやらもうダメらしい。魔龍帝サダルゼクスが、情けない事だ』
「申し訳ない。私も油断しておりました。今すぐに治療を」
これは普通の怪我ではない。並の回復魔法やポーションでは追いつかないだろう。回復魔法は使えないし。
『いや、もう助からぬ。自分で分かるのだ。私の生命は既に尽きようとしている。その前に、龍帝の宝玉を……』
「諦めないでくださいっ!」
ここに至ったら出し惜しみはしない。
俺は甘露の水差しを取り出して魔龍帝の体全体に振りかける。
体がデカいので普通の量では全然足りない。
上空に飛び上がってとにかく振りかける。
ライトグリーンの光を帯びた液体が飛び散り、火傷跡のような傷口がみるみる塞がっていく。
『お、おお……これは。か、体が……』
ふう。どうやら利いてくれたみたいだ。
何気に今まで一度も使ったことが無かったから、これまでしっかりとした実験をしていなかった自分の迂闊さを反省した。
『なんということだ。これほどの回復アイテムを持っているとは』
「間に合ってよかった」
「よかったぁ」
「流石は我が主だ」
「あれほどの回復アイテムをお持ちだったなんて。素晴らしいですわ」
戦いが終わって気が抜けたのか、ホタルがその場に座り込んでいる。
セイナもフローラもその場に座り込んでいる。
俺も早いところ休みたいが、今はまだやるべきことがある。
『人間達よ。助けてもらったこと、感謝している。私も焼きが回ったのかもしれぬな。あのような者にしてやられるとは』
「龍帝陛下、色々とお伺いしたい事はありますが」
『うむ。我の知っていることは全て話そう。だがその前に、そなたらに我の力、龍帝の宝玉を与えよう』
龍帝の周りに浮遊している球体がグルグルと回り出し、光を帯びながら小さくなり、やがて虹色に光っていく。
やがてその虹色の玉は俺の手元に降りてくる。
それをフローラに渡そうとすると、魔龍帝から待ったがかかった。
『待つのだ。その宝玉は転生者の人間よ、そなたが取り込むとよい』
「俺が?」
確かにゲームだと主人公が受け継いでパワーアップする。
だがフローラがいる場合は彼女が、セイナがいる場合はセイナが取り込む。
二人ともいる場合はフローラに渡され、魔神の力をコントロールできるようになり、失伝魔法を操れるようになる。
神技『浄化ノ光』も失伝魔法の一つだ。
本来のイベントでは、龍帝に攻撃しながら少しずつ瘴気を剥がしていくことになる。
そして激しい戦いの中でその片鱗が目覚め、イベントの終わりに龍帝の宝玉を受け継ぐと、正式に戦闘コマンドに追加される。
だがスピリットリンカーで繋がり、地力が底上げされた状態で魔力を練り上げることに集中すれば一瞬だが龍帝の宝玉がなくても神技を使うことができた。
それならば、俺が宝玉を取り込んでおけば、全員にその力を共有することができるかもしれない。
俺と主人公の違いは、魂を共有する力を持っているかどうかだ。
単純に主人公だけが強くなるのと、全員が強くなれる方法があるなら、後者を取るべきだろう。
「分かりました。私にその力をお授けください」
虹色の球が胸から体内に入り込んでいく。
全身の血液が熱く沸騰するような熱量に覆われ、俺の中にもの凄い力の奔流が漲ってくる。
――――――
【シビル・ルインハルド(転生者)】
男・スピリットリンカー(エミリア、ホタル、セイナ、フローラ)
龍帝の宝玉
LV133 HP2800 → 3400 MP2900
→ 3510
腕力2150 → 2500
敏捷2080 → 2480
体力2700 → 3300
魔力3300 → 3980
――――――
俺のレベルはドラグニート山脈登山の戦いで125→133まで上がっている。
レベルは変わらないのにステータスが20%近くもアップしてしまった。
「こ、これって」
「我々にも龍帝の力が漲っていくのが分かる」
「す、すごいっ」
ホタル、セイナ、フローラにも龍帝の力が伝わっていく。
全員のステータスが爆上がりし、ホタルは勇者のスキルを、セイナは龍化のスキルを、フローラは失伝魔法のコントロールを手に入れたようだ。
――――――
【ホタル(人間族)】女・勇者(リンク強化→シビル)
――LV33→41 HP440→625 MP160→210
――友好度【恋愛+】→【恋愛++】
→勇者の魂(強化)
【セイナ(半龍人族)】女・龍騎士(リンク強化→シビル)
――LV40→45 HP654→821 MP100→120
――友好度【敬愛++・恋愛+・繁殖願望++】
→龍化
【フローラ(魔人族)】女・魔導師
――LV29→33 HP199→340 MP650→1400
――友好度【恋愛→恋愛+++++・服従+】
→魔神覚醒
――――――
凄い。ゲーム終盤のステータスよりも高くなっている。
龍帝の宝玉を取り込んだことで基礎ステータスも爆上がりだ。
しかもなんだか感情のパラメータが前よりも上がっている。
繁殖願望ってなんやねん。
フローラの恋愛にはいくつプラスがつけば気が済むんだ?
あと服従って……。
っていうか、これだけプラスが付いてもMAXIMUMにはなっていないってことは、エミリアのラブってどんくらい突き抜けてるんだろうか?
まあともかく、これから戦っていくには十分な力を手に入れたといって良いのではないだろうか。
『ふむ。凄まじい力だ。あとは経験を積めば魔王にも負けぬ強さを手にするだろう。だが問題はそこではない』
「ええ。魔王はもはや通過点に過ぎなくなりました。最後の敵は、邪神。俺達の目標は、邪神の討伐に定めるべきでしょう」
『その通りだ。そこでだ、転生者と勇者一行よ。一つ提案がある』
「提案、ですか?」
ゲームでも小説でも無かった展開が、そこで起ころうとしていた。
この提案によって、俺はこの世界が物語の範疇からとことん外れようとしている事を強く実感することになる。
『我と従魔契約を結んでくれぬか』