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第61話魔龍帝を従える


「なんとっ⁉ 魔龍帝陛下と従魔契約とはっ! 前代未聞だぞそれはっ」


 セイナの驚愕の叫びが洞窟内に木霊する。


『どうだろうか転生者よ。我を従える気はないか?』


「いやぁ、私は転生者といっても単なる人間。それなら龍人の血を引くセイナか、フレローラの末裔であるフローラの方が。勇者のホタルでも」


『龍帝の宝玉と同じ理屈よ。勇者も龍人も大魔女の末裔も、そなたと魂で繋がっておる』


 ということは、やはり俺が契約した方がメリットは大きいってことか。


『正気を失っていたとはいえ、全力の我の攻撃をなんなく受け止め、弾き飛ばし、たたき伏せた。生物としてねじ伏せられては屈服せざるを得ない』


「……な、なるほど。だが、龍帝陛下がお力を貸してくださるなら、これほど心強いことはありません。それで、具体的にどのようにすれば?」


『我の額のコアに触れよ』


 ゲーム内で従魔を使うのは聖女ヒロインだ。


 いずれ攻略の時期が来たときに魔龍帝が従魔として味方になってくれていたら頼もしい。


「よし……。ではお願いします」


 宝石のように光る大きなコアに触れ、意識を集中して魔力を込める。


 スピリットリンカーとは少し異質な感覚だが、確かに魔龍帝となんらかのパスが繋がった感覚がある。


『これで我はそなたの従魔となった。よろしく頼むぞ、我が主よ』


「よろしくお願いします。魔龍帝陛下」


『そのような丁寧な言葉はもう必要無い。そなたは我を下した。強き者に従うはドラゴンの本能だ』


 なるほど。セイナも似たようなこと言ってたな。


 強者に従うのがドラゴンを始めとした高位生物の本能なのだろう。


 聖女ヒロインの場合は清らかな心に反応した神獣と呼ばれる高位生物たちと従魔契約を結ぶ。


 最初は弱いが、聖女のレベルを上げていけば貴重な全体回復魔法を覚えたり広範囲攻撃スキルを駆使したりと非常に便利だ。


 だから今回のようなパターンはゲーム内では聞いたことがないものだ。


 俺が知らないだけで、この世界での扱いがどういうものかよく知らないが。


『むっ……おっっっ、……ふむ……どうやら我とそなたでは普通の従魔契約では物足りぬようだ』


「どういうことです?」


『我の魂とそなたの魂で格の違いがありすぎて契約が成立せぬのだ。このまま契約すれば、我の力を十全に発揮することができぬ』


「そりゃあ、私のような人間と龍帝陛下では……」


『いや、そうではない。格が高いのはそなただ、転生者よ』


「え、俺が? そんなバカな。俺ただの人間ですよ」


『だがこの世界に二人といないであろう特殊な存在でもある。我の方がずっと格下なのだ。であれば、特殊な従魔契約……支配の契約儀式でなければ』


 一体どういうことなんだろう?


 支配なんて物騒な契約して龍帝は大丈夫なんだろうか。


『シビルさんなんて転生者であること以外はスケベなおっさんでしかないですよねぇ』


 やっかましいわっ! スケベもおっさんも余計だアホ妖精。


「しかし、支配なんてしなくても」


『構わぬ。どちらにしてもそなたに救われなければ我の命運は尽きていたのだ。そなたに隷属すれば我は更なる力を得ることができよう。そなたとそこの娘達と同じ関係だ』


 なるほど。詳しく伝えていないのにスピリットリンカーの特製を理解しているとは。


 流石は龍帝だ。作中屈指の強キャラだけあって読みの深さも優れてるってことか。


『ではゆくぞ……。むぅううっ』


「うおっ、おおおおおっ」


 龍帝からもの凄い魔力が流れ込んでくる。魂に吸い付くような感覚が入り込み、互いの魂が天秤に掛かっているイメージが浮かび上がる。


「おおおっ」


『こおおおおおおっ! おおおおおおおおおっ』


 大きな光に包まれた龍帝の体が俺の中に溶け込んで一体化するのが分かる。


「えっ⁉」


「おおおおっ、こ、これはっ」


「す、すごい……」


 やがて目映い発光が収まり、辺りの光景がぼんやりと浮かび上がってくる。


『グオオオオオオオオオン』


 黄金色に光輝いていた鱗は七色に輝き、やがて元の黄金に戻っていく。


 だがその体は先ほどよりも更に大きくなり、剣と盾は立派になり、鱗の模様とツノは荘厳さを増している。


『むおおお……。なんという素晴らしい充実感だ。魔力が溢れ出て、かつてない万能感に昂揚している。やはり思った通りであった。これでそなたらの力になれる』


 魔龍帝は再び俺に額を差し出してくる。

 コアを触れと言うことなのかと手を差し出すと、彼の体が再び光りだし、その体が徐々に縮んでいった。


「おお、こ、これは」


 やがて光が収まると、魔龍帝は肩乗りサイズという表現がピッタリなミニサイズに変貌しているではないか。


『この巨体では主達の旅について行くのが困難だからな。この程度であれば連れ歩くのに不便はあるまい?』


「か、可愛い♡」


「ふむ。愛らしいのに威厳は消えておらぬとは。流石は魔龍帝陛下。龍の中の龍だけありますな」


「したしみやすいです」


『普段は主に取り込まれた宝玉の中で過ごすとしよう。ご命令くださればいつでも呼び出しに応じましょうぞ』


「それは頼もしい限りです。いざという時はよろしくお願いします」


 すると龍帝は、まるで臣下の礼を取るように地面に降り立ち、頭を垂れた。


『我は主に服従隷属いたしました。命の恩人にして大海原の如き強大な力の持ち主よ。どうか我の事は従僕として接してくださいませ。敬語も不要に願います』


 なんだか随分惚れ込まれてしまったらしい。


 ゲームだとカリスマ抜群の強キャラだった魔龍帝を仲間にできるなんて熱い展開だ。


「そ、そうですか。いや、そうか。じゃあ龍帝陛下」


『龍帝陛下はおやめください。サダルゼクスも長いので、サダルとでもお呼びくださいませ』


 そうして魔龍帝サダルゼクスを仲間にすることができた。


「わかった。よろしく頼むよサダル」


『ご迷惑をかけてしまったせめてもの詫びです。この洞窟の奥に神聖な魔力を含んだ泉があります。沐浴をして疲れを癒やしてください』


「おお、そりゃありがたい」


 長い事体を洗っていないし、水を浴びてさっぱりしたいところだ。


 俺達はサダルの案内で洞窟の奥へと向かった。

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