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第64話妖精の国

「あれがベルクリフト大森林か。もの凄い広さだな」


 サダルのおかげであっという間にベルクリフト評議国の上空までやってくることが出来た。


「うわぁ、本当はこんな広い森を通り抜けないといけなかったんだ」


「ああ。ベルクリフト大森林は物語の中で屈指の広大なダンジョンだ。俺も何度も挑戦したけどランダム性を理解するのにもの凄く苦労したよ」


「ふーん。ちょっとよく分からないけど、物語の中では何度も来たことがあるんだね」


「まあ実際に見るのと物語の中では体感が全然違ったけどね」


 三人には俺が異世界から来たこと、ここがゲーム……言い換えるなら物語の中の世界である事は伝えてあり、三人の未来についても全て共有した。


 そして俺はその悲劇的な未来を回避するために奮闘していることも伝えてある。


 普通は信じるのは難しいだろうが、スピリットリンカーで魂が繋がった俺達なら問題なかった。


「我が主は、やはり神の御使いなのかもしれんな」


「どうかな。転生って特殊な立場だけど、中身は普通の人間だよ。生まれた世界が違うだけだ」


「私はそんなことないと思うな。だって私達全員が救われてるわけだし、シビル君がいなかったらこの旅で死んでたかもしれない」


 そこは確かに否定しきれない部分がある。


 本来ならそんな事は起こらないが、邪神の連中が絡んでいるとなると楽観視ができない。


 あいつらが本来の歴史を狂わせてしまうのか、俺がこの世界に介入したからあいつらのような存在が現われたのか。


 卵が先か、鶏が先か理論になりそうだが、妖精ミルメットのげんを信じるなら、邪神の野望を止めるために俺が選ばれて転生してきたということになるだろう。


「そうだな。俺は転生する前から皆の事が大好きだったから、何が何でも守りたいと思ってたのは確かだよ」


「シビル君」

「我が主よ。そのセリフはズルいぞ」

「ときめいちゃいますよ」


『お楽しみのところ申し訳ない。まもなく王都タークフォレストの上空に到着いたします』


「お、おう。ご苦労さん。エルフの皆さんは大丈夫かな。いきなりドラゴンで乗り付けて平気か?」


『我が念話で国王に知らせておきましょう。宿も準備するように命じておきます』


「サダルがいてくれて助かるよ」


『お安い御用です』


 サダルのおかげで順調にいきそうで助かるな。

 なんだかタイムアタックプレイをしているみたいだ。


 前にも言ったがエルフの国ではトラブルに巻き込まれて非常に時間をとられてしまう。


 本筋を辿るなら問題ないが、俺達には急がなければならない事情ができた。


「早めに魔王を倒してフェアリール王都に戻らないといけないからな。時間をとられている場合じゃないぜ」


「あの青い鬼の人、フェアリール王国で何かしてたの?」


「ああ、詳しい事情は吐かせられなかったが、邪神の一派が暗躍しているのは確かだ。魔王も倒さないと世界中が混乱するし、やるべき事が多くて大変だ」


『お待たせいたしました。エルフの国王に念話を送りましたので広場に降り立ちます』


 いきなり押しかけて大丈夫だったのかな。


 この国は双子ヒロインにとって良い場所ではない。

 いや、正確にはゲーム本編が始まるまでに、良い場所ではなくなると言った方が良い。


 そうだ、確か『あの悲劇』が起こるのは魔王が覚醒して世界の魔物が暴走した後だった筈。


 ここでその根っこを刈り取っておけば、双子ヒロインの悲壮なバックグラウンドを潰すことができるんじゃないか?


「三人とも、相談がある」


「どうしたのシビル君」


「ああ、この国にはエルフのお姫様が2人いる。これから起こるかもしれない悲劇を未然に防ぎたい」


「悲劇?」


「ああ。この国は、もう少しで内紛が起こる。いや、クーデターだな」


「ええっ⁉ く、クーデターッ!」


「そうだ。俺達が先んじて遺跡の魔王を倒せば、この国の内紛を防げるかもしれないんだ。まあやるべきことは変わらない。それを頭に入れておいてくれ」


「わ、分かった」


「承知した」


「はい。他にやるべきことはありますか?」


「そうだな。言ったとおりこの国には双子の王女様がいる。その子達と仲良くなってくれ。彼女達2人とも物語のヒロインだ」


「そっか。じゃあその2人も……えっと、バッドエンドがあるんだね」


「そうだ。内容は今夜にでも話すよ。とにかくここでやるべきことを念頭に置いててくれ」


「分かりました」


 3人のヒロイン達には、これから起こる未来、自分達の未来に起こる悲劇について話してある。


 この国で起こる悲劇の直接の要因は魔王復活だ。


 まずはそれを防ぐしかない。

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