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第65話双子のエルフヒロイン

「お、おおお、本当に魔龍帝サダルゼクス様だっ!」

「なんという巨体。子どもの頃に見た時より立派になっておられる」


「この魔力、本物だ。以前よりも遙かに荘厳なお姿に」


 エルフの国の住民達が口々に驚愕の声を上げるのは、上空から舞い降りてくる巨大なドラゴンの姿を見たからだ。


 ベルクリフト王国は大森林の奥地に栄えている自然と共に生きる歴史の古い国家だ。


 エミーの使う精霊魔法も、元を正せば森の民であるエルフの能力によるものだ。


 魔法の才能って遺伝するものとされているが、ガイスト公爵は武闘派だし、母親は獣人族だ。


 家系図を見ても精霊魔法が使える要素ってのが存在しない。


 大昔にエルフと交わったとかの裏設定があるのかもしれないが、まあエミーはメインヒロインだけあって色々と特別だ。


『久しいなターランダよ。国王が板に付いてきたのではないか。儀式に訪れた数百年前ははなたれ小僧であったな』


「お恥ずかしい限りです。魔龍帝陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。そしてようこそいらっしゃいました勇者様とご一行様」


「は、初めまして、国王様。神託により勇者の称号を賜りましたホタルと申します」


「龍人族の騎士、セイナ・グランガラスと申す」

「魔人族、フローラ・アルムデニーズです」


「シビル・ルインハルドと申します。このたびは入国の許可をいただきありがとうございます」


 国王はエルフだけあって若い青年のように整った顔立ちをしている。



 ベルクリフトは国家としてはフェアリール王国と比べて小規模だが、精霊魔法という特別な力を行使できる種族であるため、世界に対する影響力は思いのほか大きい。


 それに、エルフっていうと大まかなイメージだと草食系で、魔法が得意で、弓使いが多い印象だ。


 しかし意外な事に、マド花のエルフはかなりの武闘派だ。


 エルフのヒロインは2人いるが、そのうち片方は弓とボウガン使いのテクニカルタイプ。もう片方は大槌で戦うパワーキャラだったりする。


 実はエルフだから魔法キャラかと思いきや、2人は事情があって魔法を使うことができない。


 そのせいで王国の中で少々特殊な扱いをうけ、そのせいで本編開始前に起こった悲劇から逃れるような形でフェアリール王国の学園に半分亡命のような形で入学することなるのだ。


(この人がターランダ。双子ヒロインのお父さんか)


 この人はヒロインのお父さんであり、温和な顔立ちは人の良さが滲み出ている。


 事実としてこの時期のベルクリフト王国は善政を敷いて非常に平和だ。


 本編開始の数ヶ月前に国内においてクーデターが起こり、その際に処刑されてしまう。


 それはなんとしても防がなければ。


 彼女達に起こる不幸の一番根元にある闇。


 このベルクリフト王国出身のヒロイン、双子エルフの彼女達に起こる悲劇の一番根本にあるのは父親の死だ。


 つまりそれさえ防げばバッドエンドを回避できる可能性が高くなる。


 2人のバッドエンドは、どちらの場合も双子共に暗殺されてしまう。


 クーデターの際に助命された2人だったが、やはり禍根を残さないようにと考えた首謀者が放った刺客によって殺されるのだ。


 俺の目的は物語の破壊といってもいい。


 例え歴史が狂おうとも、大好きな女の子が不幸になる要因は全て排除しなければ。


 そう、彼女達の父親を死の運命から救うということは、今までのヒロイン達と違って国家レベルに大規模な歴史変換が必要になる。


「まずは王城に部屋を用意してあります。今夜はゆっくりとお休みください」


 王様自ら城の中へ案内してくれた。


 だが通されたのは客室ではなく、応接間である。


 王様は俺達に何か話があるとして、使用人に飲み物の準備を命じている。


「まずは勇者様。魔王の瘴気は確かに遺跡の奥で復活しつつあります。ですが、今すぐにという訳にはいかないのです」


「どういうことでしょうか?」


「実は、扉の封印を解く精霊魔法を行使できるのは、エルフの巫女である私の娘達なのですが、今は事情があって魔法を使えないのです」


 それは初めから分かっていたことだ。

 エルフの双子は生まれつき魔法が使えない。


 エルフは種族特性として精霊魔法を行使できる。


 もちろん才能や訓練によって差は出るものの、エルフの歴史上まったく使えないのは彼女達が初めてであるという設定があるのだ。


 しかし、唯一使えるのが封印の術式だ。

 本来ならこのベルクリフトで起こるモンスター退治のイベント後、双子の力を借りて遺跡に赴くことになる。


 スピンオフ小説では結局討伐には失敗し、バレルゴール山の魔王城での決戦まで発展することになるが、それを防ぐことができれば万々歳だ。


「娘は2人いるのですが、片方が原因不明の病にかかって療養しています。扉の封印は2人が揃っていなければ解除することはできないのです」


「なんですって?」


 そんなイベントは知らないぞ。また邪神の一派による妨害なのだろうか?


 ミルメット、この国に不穏な魔力は感じるか?


『いえ、今の所は、もうちょっと調べてみないと』


 くそ。まずは直接あって話を聞かないと始まりそうも無いな。


◇◇◇


 静かな部屋。誰もいない静寂に包まれた塔の中。


 そこはベルクリフト王城の中にある離れの塔の中である。


 一方は部屋の中、一方は部屋の外。


 2人の少女が一つの扉を挟んで向かい合っている。


 1人はライトグリーン色の髪。


 もう一人の少女は、生命力が抜け落ちたようなくすんだ緑だった。


 つまり、一方は生命力に溢れ、もう片方は枯れ果てている、という表現が使える。


 痩せ細った少女と、扉の外にいる少女の顔は、本来は瓜二つと言えるほど同じはずだった。


 エルフの巫女と呼ばれる2人の少女。


 しかし、扉の中に閉じ込められた少女の生命は尽きかけていた。



「来たね、お姉ちゃん」

「うん、来たね」


「あの人が、救世主?」

「そう、あの人が救世主」



「あの人が、きっと救ってくれるよね。お姉ちゃん」

「そう。もうそれしか方法がない。お願い、あの人に」


 2人の少女。双子の少女。


 救世主を待ちわびていた彼女達にもたらされるのは……。


「「お願い、救世主様、邪悪な呪いから、我らをお救いください、救世主様」」


 声を揃えて天空に祈りを捧げる2人の少女。


 互いに顔を合わせることもできず、扉一枚隔てていても、その思いは一つである。

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