双子エルフに起こった謎の現象。
スピンオフ小説にも書いていない、俺の知らないことがこの国に起こっているらしい。
「国王陛下、発言をお許しください」
「なんでしょうか?」
とりあえず国王様から詳しい話を聞かなければ。
できれば双子ヒロインの二人から直接話を聞けるのが望ましい。
「娘さん……いえ、お二人の王女殿下の身に何が起こったのか、詳しくお聞かせ願えないでしょうか。できれば、ご本人達にお話を聞くことができれば、なお良いのですが」
「ふむ。いいだろう。では娘達……いや、一人は療養している部屋から出ることはできないので、一人をこちらに呼ぼう」
「私達でお部屋に出向きましょうか」
「いや、彼女は痩せ細った自分の姿を他人に見られることを拒んでいる。この私ですら拒まれているのだ。唯一許されているのは、双子の妹であるレネリーにだけなのだ」
ということは、病にかかっているのは姉の方か。
双子のヒロイン『アーシェとレネリー』
天真爛漫な姉と、ダウナー系クールな妹。
ヒロインとしての彼女達は、実は双子でしたというサプライズをするキャラとしてデザインされている。
どういうことかというと、学園編である前半において彼女達はどちらか一方でしか登場しない。
デートをするたびに性格が少しずつ変わるヒロインからの問いかけに答えると、姉か妹のどちらを攻略するかが分岐する。
イベントには様々な双子要素が散りばめられており、エンディング付近になって双子であることが明かされる。
同時に攻略するにはハーレムルートしかなく、そこでは最初から二人で登場することとなるのだ。
本編で片方ずつ登場する理由は、双子セットではなく一人一人個人として見て欲しかったからというものだ。
双子キャラにはわりかしありふれた設定であるが、この二人のバッドエンドがかなりエグくて救いがないと、ネット界隈でもいまだに物議を醸している。
そもそもこのベルクリフト王国はエルフの国であるが、国家の規模としては世界的に見てもかなり小国だ。
エルフは長寿であり、そもそも繁殖能力が低い。
まあこの世界の常識では『祈りの儀式』によって子供を授かるから、繁殖という言葉は相応しくないかもしれないが。
子供をあまり作らないエルフにおいて、双子というのは滅多にあることではない。
二人は祝福の子として国中に賛美された。一時は神の使いとも。
だがそれも束の間、二人は精霊魔法が使えなかった。
魔法が使えないエルフなど前代未聞。
それでも国王は2人を愛し、育てて来た。
だが、その最中に起こったのが例のクーデター騒ぎだ。
目の前のターランダは斬首刑にされ、双子は国外追放となった。
本来であれば一緒に処刑されてもおかしくなかったが、父親の嘆願で助命され、王位継承権を永久に剥奪されることを条件にフェアリール王国への国外追放で済んだ。
彼女達のエンディングでは主人公と共に旅立つことになるのだが、天真爛漫の姉・アーシェの場合は新天地を求めて、ダウナー系クールの妹・レネリーの場合は、国家を取り戻すためのレジスタンスに入ることになる。
その後の顛末を語られることは無いのだが、ファンディスクのアフターストーリーにてレジスタンスのクーデターは成功するというエピソードだけは語られる。
それをハッピーエンドと称していいのだろうかという賛否もあり、俺もあれを幸せな結末と定義するのは少々疑問が残ると思っていたところだ。
(あんなエンディングはハッピーエンドとは呼ばないからな。なんとしても避けなければ)
そう、目の前の父親が死ななければそもそも起こらない出来事だ。
なんとしても2人を不幸の要因は潰さないと。
恐らく裏ではクーデターの準備も着々と進んでいるはず。
この国でもやるべき事は山ほどありそうだ。順序よくイベントをこなしていかないとならない。
トントン――
「入れ」
「失礼いたします。レネリーです」
ターランダ国王と話し込んでいると、不意に扉がノックされる。
入ってきた少女に俺の心臓は高鳴った。
(来た……レネリー・ベルクリフトだ。ゲームで見るより断然可愛い)
愁いを帯びた表情でも、整った眉建ちとビスクドールのように完璧な造形をした体付き。
マド花のエルフは髪の色が明るいほど高貴だとされており、彼女の髪色は輝くようなライトグリーンだった。
これは内側の魔力が非常に高いために起こる現象だ。
つまり彼女は魔法を使う魔力がないのではなく、魔法を出力する方法が遺跡の魔王封印の術式に集約されているだけなのだ。
その証拠にゲーム戦闘においては魔力依存の攻撃に非常に特化しており、隠しダンジョンで手に入る彼女の最強武器は魔力依存である。
「お初にお目にかかります。ベルクリフト王国第2王女、レネリー・ベルクリフトでございます勇者様」
「は、初めまして。ホタルと申します」
ホタルを皮切りにそれぞれの自己紹介を済ませ、改めてレネリーから話を聞くことにした。
――と思った瞬間、部屋に入ってきたレネリーが急に走り出した。
トトトトトトッ――ボフッ
「救世主様ッ!」
「うおっとっ」
な、なんだっ⁉ レネリーがいきなり抱きついてきた。
『うほほほっ。いいですなぁ、ほら見てくださいシビルさん。頭をスリスリしてるレネリーちゃんのドレスの隙間からピンクのポッチが覗いてますよー』
おおうっ、ほ、本当だ。
慎ましやかでありながらしっかりとした女の膨らみの先っぽに、可愛い可愛いイチゴの果実がぷるんぷるんと……え?
ん? あれ? 何かがおかしい。
『おかしいですねー。変ですねー』
ああ、おかしい。
なんで……。
「ああ、救世主様ッ! お待ち申し上げておりました」
(なんで乳首があるんだ?)
この世界の住人には生殖器官が存在しない。
それと同時に乳首も存在していない。だが目の前の少女にはそれがある。
一体どういうことだ?
だがこんなことを尋ねる訳にはいかない。
『君のおっぱいの先っちょにあるピンクちゃんはどうしたのかなぁ~?とか言ってみたらいいんじゃないですか?』
ただのセクハラじゃねぇか。死んでも言わねぇからなそんなセリフ。
「お、王女殿下。どうされたのですかっ」
「救世主様ッ! お姉ちゃんを助けてくださいっ! 私達は待っていました。あなたがここに現われるのをっ! ずっとずっと待っておりましたっ」
「れ、レネリーッ。いったいどうしたというのだ。落ち着きなさい」
突然騒ぎ出すレネリーの奇行に王様は慌てて止めに入る。
部下と一緒に制止され、興奮冷めやらぬ彼女を何度もなだめ続けた。
10分以上は興奮し続けただろうか。王様の説得でようやく落ち着きを取り戻し、それでも目付きのギラギラは収まらない彼女は歯を食いしばっていた。
「失礼……。レネリー・ベルクリフトと申します。救世主様、貴方様をお待ち申し上げておりました。龍帝陛下を従えし御方」
突然のことに驚いたが、今は彼女の話を聞くのが先だろう。
『乳首も気になりますもんねぇ』
乳首の話題から離れんかい。だがいずれ確認はしなくてはならない。
女の子サイドから話してもらえば大丈夫だ。
「改めまして、シビル・ルインハルドと申しますレネリー王女殿下。大変
「はい。お話しいたします」
「レネリー。この方達は魔龍帝サダルゼクス様に認められた方々だ。我々では手詰まりの問題解決の糸口になるやもしれん。話してあげておくれ」
「分かりました。おねえちゃ……お姉様がかかっている病は……いえ、お姉様を苦しめている要因は……」
それは、俺が一番注意注意しなければならないと気を付けていた類いの話。
解決方法が非常に少ないから絶対に受けてはいけない攻撃の一つ。
「あれは……フェンリルの呪いです」
「の、呪いだってっ⁉」
「フェンリルの呪いとは、一体どういうことでしょうか? フェンリルって、この森の守護者として信仰されているはずですが」
フローラの言うとおり、フェンリルは魔狼帝と呼ばれ、ゲーム内では魔龍帝サダルゼクスと並ぶカリスマボスの一体だ。
「それは、ひょっとすると魔龍帝と同じ事が起こったのかもしれません」
「どういうことでしょうか?」
俺達はドラグニート山で起こった魔龍帝との出来事を包み隠さず話した。
そして問題解決のために俺達が協力する信憑性確保のため、俺が魔龍帝サダルゼクスの主人であることも伝えた。
「な、なんと。あなたは龍帝陛下を従えたというのか」
「はい、光栄なことに陛下に認められ、従魔契約を交わすことができています。本人から説明してもらいましょう」
俺は外で待機してもらっているサダルを呼び出し、従魔フォーム(ようするにミニマスコット状態)で出てきてもらった。
「そ、そのお姿は」
『我はここにおわすシビル・ルインハルド様に服従した。この姿はその証である。しかし内在魔力は以前とは比較にならぬほど強くなった』
「つ、つまり、このシビル殿……いえ、シビル様のお力を貸して頂けるのですか」
『それは我が主の決めること。この御方は未知なる力を多くお持ちであられる。故に普通ではない方法もあるかもしれぬ。そこな娘よ』
「は、はい……なんでしょうか龍帝陛下」
『我からの願いだ。一度呪いに掛かった姉に会わせてくれぬか』
「……分かりました。よろしくお願いします、救世主様」
フェンリルの呪いという謎のワード。ゲームにはない展開は邪神の関連が濃厚だ。
っていうか、間違いなく邪神の一派が関わっていることは想像に難くない。