「よし、探索により特化した魔法をイメージしよう。二人の協力が必要だ。フローラは魔力のコントロールを。セイナは俺が魔法を想像する間、周りの警戒を頼む。集中している時に襲撃を受けないとも限らない」
「承知した。頼む我が主よ。ホタルを助けてやってくれ」
「勿論だ。敵に囚われたままで放置はできないからな。邪神の奴らは必ず後悔させてやる」
ホタルの姿を明確にイメージ。
一人の人間の居場所を必ず見つける魔法を思い浮かべる。
この二次創作のコツは、結果を明確に思い浮かべることだ。
それに繋がる科学的、論理的理屈はある程度適当でも構わない。
例えば空を飛ぶ魔法を作ろうと思ったら、明確に自分が飛行している姿をイメージするだけでいい。
強く強くイメージするほど、結果を実現させる力が魔法となって現われる。
「二次創作、【サーチ・ホタル】」
アイテムボックスからホタルの装備を出して、彼女の姿を強く強く思い浮かべる。
【誰か】を探す魔法じゃなくて、【ホタル】を探す魔法を作り出した。
「シビル様、浮かび上がってきました。今から魔法を誘導します」
「頼む」
作り出した魔法を発動し、フローラにコントロールを渡すイメージをする。
綿密なコントロールはフローラの方が遙かに技術が高い。
初めて使う魔法でも俺よりずっと上手く扱ってくれた。
「ホタルちゃん……ホタルちゃん。どこ? どこにいるの? ……」
フローラの辿っているイメージが俺の頭にも流れ込んでくる。
奥深い森の中、古い石材の柱、レンガのように組み上がった石とは違う鉱石でできた壁。
うっそうと生い茂る木に囲まれた森の奥に、ひっそりと入り口を開けている太古の建造物が見える。
そこから更に奥へと潜っていくと……。
「いたっ! ホタルだ。フローラ、もっと強くイメージして」
「はいっ」
遺跡の構造を、俺は知っている。
ゲーム画面で見た景色を現実の姿に当てはめると、俺がよく知っている形であることを理解できた。
ここのマップは全て頭に入っている。
宝箱の位置も、トラップの位置も、構造も、分岐点も、一番奥に誰が封印されているのかも。
「そうか、やっぱりだ。ホタルは魔王の封印された場所に連れて行かれたんだ」
ゲーム内で魔王が封印されているボス部屋の手前にある広場。
ホタルはそこに奇っ怪な姿をした老人と共にいた。
傍らには虚ろな目をした双子のエルフ。
一方はライトグリーン。一方はくすんだ緑色。
髪の色が輝くほど高貴さを表すエルフの髪。
よく似た顔の双子姫は、醜悪な老人の後ろにつきしたがって封印の扉の前に向かっていた。
「あのジジイは、やはりだ。四天王オベリュオン。こいつが黄鬼のオベロンだったのか」
「う、うううっ」
「フローラ?」
「ぷはぁ……はぁ、はぁ、す、すみません。魔力切れを起こしてしまって」
「あ、そうか。すまん」
二次創作で作った魔法は消費魔力が大きいみたいだ。
ステータスの一部を共有しているとはいえ、その数値には開きがある。
それにこの世界の常識範囲の外にある魔法だから、初めて使うフローラには負担が大きかったようだ。
正確には似た魔法はあるものの、それよりもピンポイントに上位互換の魔法だったりするので余計消費が大きいのだろう。
「だがホタルの居場所は分かった。朝を待って出発しよう」
「そんなっ、我が主よっ! こうしている間にもホタルが辱められているかもしれないんだぞっ! すぐにでも」
「だが俺達は一日中戦い通しで、精神的にも疲弊している。体力は甘露の水差しで回復できても、魔力や精神はそうもいかない。一度休んで万全を整えるべきだ」
「むぅ……しかし」
「気持ちは分かる。俺だって直ぐにでも飛び出したいさ。でも、敵は得体が知れないし、生半可な相手じゃない。万全を整えて臨むべきだ」
「……セイナちゃん、私もそう思う。絶対に助けたいから、万全を整えて行こうよ」
「分かった」
「4時間だけ眠ろう。サダルもそれまで休んでてくれ」
『御意。睡眠の間、我が魔力を送ります。精神的な疲労もかなり回復しやすくなるはずです。ごゆっくりお休みください』
「頼む。それじゃあみんな、しっかり休んで、万全の状態で出発しよう」
「「はいっ」」
そして、短い睡眠で体の回復を図り、王様に行き先を告げて魔王の遺跡へと向かうのだった。
◇◇◇
「さあ双子姫よ。魔王様の封印されし扉を開くのだ」
呪いに染まったアーシェは、痩せ細った体を引きずりながら虚ろな目で扉に歩き始める。
そのとなりを寄り添うように、しかしゾンビのように意志のない動きで歩みを進めた。
まるで意志なき人形になったとしても、姉を支えるためにあらがっているかのように。
「ほっほっほ。これで魔王の寝所に立ち入ることができた。器の魔族はまだ見つからぬ。ならばここにいる勇者こそその器に相応しい。魔王の力を受け継いだ勇者。ひっひっひ。一体どれほどの力を有することになるかのう。楽しみじゃ楽しみじゃっ、きーひっひっひっひっ!」
高笑いする老人の声が遺跡の空洞内に響き渡り、虚ろな目でそれを見つめるホタルの唇が微かに動く。
「……」
意志なき人形のように変わり果てたホタルの脳裏には、『知らない筈の誰かの顔』が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返している。
それは大切な誰かだったような気がする。
だが洗脳されたホタルの精神は、それを考えることを許してはくれなかった。