町中の魔物退治をサダル、セイナ、フローラに任せ、俺は敵に捕まったというホタルと双子ヒロインを探しに城の中に入った。
城の中はモンスターで溢れており、城を守る兵士達が死に物狂いの防衛戦を繰り広げていた。
俺はホタルたちがどこかにいないか探しつつ、兵士や非戦闘員を襲っているモンスターを一撃のもとに退治していく。
魔物の強さも個体によってバラバラみたいだ。
この辺に生息する魔物に邪神の瘴気による凶暴性が加わった影響で攻撃力自体はかなり上がっているらしい。
だが強さそのものはそこまで上がっていない。
この国の兵士でも集団での戦略次第で十分戦える。
だが体力は無限じゃない。俺みたいに裏ダンジョンでステータスを爆上げしているわけでもないし、スタミナはどんどん失われてじり貧になっていく。
全部を助けて回っている余裕はないが、できるだけ探しながら助けていこう。
それに、一番優先すべきはヒロイン達だが、その次くらいに王様が重要だ。
バッドエンド回避のためには王様の生存が必須なんだ。
本来はクーデター後に処刑されるのが正史だが、この騒ぎに乗じて殺されてしまう可能性もある。
「王様ッ、ご無事ですかっ!」
城の中では王様が陣頭指揮を執って魔物達との戦いを繰り広げていた。
さすがにこの国のトップ魔導師だけあってモンスターにも引けを取っていない。
「おおっ、シビル殿。戻られたのかっ。大変だ。娘達が、勇者様と共に攫われてしまった」
「はい、そのことで急いで戻ってきました。彼女達はどこに?」
「分からぬ。連れ去った男は追って知らせるといって消えていったが、今だに連絡がないのだ」
「ということは、既に城の中にはいないと考えるべきですね。分かりました。私は仲間と共に襲い掛かってきた魔物達を一掃してきます。ともかく安全なところに隠れていてください」
「それはできぬ。民の危機に王族だけ隠れることなど」
「分かりました。しかしあなたは戦いが終わった後こそ必要な御方。なにより姫殿下たちをお救いしても、あなたがいなければ意味が無い。そのことをお忘れ無きよう」
「肝に銘じよう。民達を頼む」
王様と近衛兵達に後を託し、城の中の魔物を一掃しつつ城下町へと急いだ。
◇◇◇
激しい攻防戦を繰り広げた王都の魔物達。
フェンリルを絶命させたことで凶暴化が収まったらしく、魔物達の凶暴性は鎮まっていた。
そして一昼夜かけて町から魔物達を一掃し、救助活動のためにガレキの撤去をしつつホタルたちを探し回った。
スピリットリンカーの繋がりは切れていない。
しかし変わらず淀みのような気持ち悪い感覚が取れることは無い。
敵に捕まったホタルに何があったのか。
辱めを受けていなければいいが……。
『うーむ。どうにも敵の動きが掴めません。ホタルちゃんの繋がりに変な魔力が混じっているのは分かるのに、どっちの方向にいるのか分からない。こんなことは初めてです』
「敵は俺達の動きを何らかの方法で掴んでいるとしか思えない。普通に考えたらスパイでもいそうなもんだが、スピリットリンカーがある以上それは有り得ないよな」
『そうなんです。アレですよね。実は私が邪神の手先でしたー、とかだったら一番分かりやすいんですけどねぇ』
「自分で言うことか。しかしそれだったらお前をくびり殺せば答えが出るわけだな」
『え、本気じゃないですよね?』
「試して見る価値はありそうだからな。色々世話になったな。サラダバー!」
『ぎゃーっ! 妖精殺しーーー』
「冗談だって。だいたい俺、お前に触れないしな」
そのうち触れるようになったら仕返しするなんて話もしていたが、こんな冗談を言う奴が敵のスパイなんてあるとは思えない。
◇◇◇
1日かけて王都中を探し回ったが、ホタルたちは見つからなかった。
俺達は王様に招待されて報告がてら夕食会に参加することになった。
正直それどころではなかったが、情報整理のためにも報告は必要だろうと承諾することにする。
「そうか。勇者様は見つからなかったか」
「残念ながら」
夕食会といっても非常に質素な催しだった。
城下町の復興のために物資の多くは民のために使われており、王様は自分達が食べる分も削減した。
それでも俺達のためにできるだけのお持て成しをしてくれたことに感謝しつつ、これまでの情報を整理することにした。
結論からいうと王様は何も知らなかった。
襲撃してきた魔物達の対処に精一杯で、娘達を任せたヘルメドー将軍も行方不明。
「そのヘルメドー将軍ですが、王様にお話しないといけないことがあります」
「なんだろうか、龍騎士セイナ殿」
「城下町を襲撃していた魔物達の中に、そのヘルメドー将軍とおぼしき顔をした魔物を倒しました。お辛いことかもしれませんが、討ち取った首を確認していただきたく」
「……分かった」
そしてそれは事実だった。セイナは町で暴れている意思を持ったモンスターと戦ったことを伝える。
「苦しみを訴えながら同胞を手にかけることを嘆いておられました。武人の矜持として、彼の意志を汲んで引導を渡しました」
ヘルメドー将軍の死に顔は安らかだった。
彼の名前はゲームにも登場する。王様がクーデターで処刑された後、他国に亡命する際に護衛した人物だ。
フェアリール王国に入った後の動向はゲーム内では語られておらず、資料集でも掘り下げはされていないモブであるが、彼らの話からすると非常に忠誠心の高い人物だったのだろう。
「彼の最後の言葉です。アーシェ姫とレネリー姫をどうか……。そのように仰っていました」
「そうか。セイナ殿の心遣いに感謝する」
俺にとっては名前しか知らないモブの人物であるが、魔物と成り果てても双子姫の安否を思う気持ちを失わなかったヘルメドー将軍に敬意の念が湧いてくる。
それにしても、人間を魔物に変えてしまうなんて酷いことをする奴もいたもんだ。
間違いなく邪神の一派が絡んでいる。
しかも人道なんて屁とも思っていない外道だ。
人間を魔物に変えてしまうってのはゲーム内でも似たイベントがあったが、これはそれ以上に酷い。
「まてよ……?」
まさか……。俺の中に一つの推論が浮かび上がってくる。
それを確かめるため、サダルに敵の特徴をもう一度確認した。
「では敵はヘルメドー将軍に化けていたんだな」
『左様。土気色の肌をした老人の姿をしておりました。異常に素早い動きで、我が目でも捉えることができぬほどに』
「なるほどな……。名前は分かるか?」
『申し訳ありません。音までは拾えず』
「ふーむ。どうやら邪神の一派で間違いないようだな」
ホタルのレベルは相当に上がっており、ゲーム本編よりもステータスも高い。
そのホタルを翻弄するほどの動きができる老人というのは非常に厄介だな。
「待てよ…」
「どうされた、我が主」
「敵の正体に心当たりがある」
「なんとそれは誠かっ⁉」
ゲーム内に魔王の配下という奴が出てくるが、その中に四天王というのがいる。
その四天王の一人、オベリュオンという科学者キャラがいた。
ひょっとしたらコイツが関わっているのかもしれない。
そんな推論を立てたが、証拠はない。
『それと、敵は双子姫を狙っていた可能性が高いと思われます。ホタルは巻き込まれたものと』
「双子姫を攫ったのなら、目的は魔王の復活か? ダンジョンの封印と解いて魔王を復活させようとしているのかもしれない」
「では、遺跡のダンジョンに行った可能性があると?」
「あくまで推測だ。でも情報が少なくて決めつけるのは危険すぎる……」
情報が少なすぎて次の動きを決められない俺達。
「そうか…探索ができないなら、探索の魔法を作ってしまえばいいんだ」
「探索魔法を? そうか。スピリットリンカーで繋がった私達なら、もしかして」
「よし、まずはやってみるか。フローラ、サポートを頼む」
「かしこまりました」
今の所邪神一派に先回りされてばっかりだ。
今度はこっちから不意を突いてやる。