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第77話魔王降臨

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【ホタル(人間族)】女・勇者(魔王憑依……侵食率30%)

―――LV140 HP8900 MP測定不能


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 ホタルに魔王が取り憑きやがった。


 山羊のような天を衝く大きなツノ。

 巨大なコウモリのような羽根。

 真っ青な肌。

 爬虫類のような縦スジの入った瞳。

 額には真っ黒な宝石のような核が飛び出ており、その特徴は、まさしくゲームで戦う事になる魔王の特徴を表している。


 しかも侵食率とか不吉すぎる表示が出てるのは嫌な予感しかしない。


『なんてこった。ホタルちゃんの中に魔王の魂が。しかも邪神のエネルギーでコーティングされてるみたいです。あれじゃ浄化ノ光も届かない』


「まさしくなんてこっただな。クソッ。おい邪神の手下ッ! そこにいるんだろうが! 隠れてないで出てこいやっ」


「ほっほっほ。ここじゃここじゃ」


 ホタルの背後から気色悪い笑いを吐き出しながら醜悪な老人が姿を現した。


 そいつは体がフワフワと浮遊しており、ドクロのような杖を付いている。


「あんたが黄鬼のオベロンか」

「いかにも。青いのが世話になったようじゃな。一方的にやられたのが相当悔しかったようじゃの。必死になって魔力の回復に努めておるよ」


「なんだと、じゃあ青鬼のバンシーは生きているのか?」


「ほっほっほ。かろうじてじゃがな。あと少し救出が遅ければ助からんかったと、仲間が言っておったぞ」


 四鬼衆の仲間か。俺達が遭遇したのは青と黄。残り2色の鬼がいるはず。


 あれだけ粉々にしてやったのに復活できちまうのか。どうしたらいいんだ。


「ホタルに何をしやがった?」


「なぁに。ここにはいにしえの魂が眠っておってな。入れ物に丁度良かったからちょいと協力をお願いしたんじゃよ」


 ぬけぬけと……。怒りで飛びかかりそうになるが、こいつは老獪ろうかいな策略家だ。

 相手のペースに乗せられちゃ駄目だ。


 だけど……。


「そうかい。邪神とやらのためか? あんたらは何がしたくてこんなことをしている」


「ほほほ。小僧のくせに良い心臓を持っておるようじゃの。ワシの挑発に揺さぶられんとは」


「あんたはわざとそういう喋り方してるだろ。相手の心を乱して、自分のペースにもっていく。老獪なことだ。目的は魔王の復活、そして、邪神はそれを欲している。恐らくは、自分がこの世界に降臨するためのエネルギー」


「ほう……。オヌシの評価を変えねばならんようじゃの。転生者。この世界のことわりを知る者。ならば教えてしんぜよう。とはいえ、ワシは末端も末端。組織の蓮っ葉はすっぱに過ぎぬでな」


「……」


「邪神様はの、この世界の嘆きを聞きたいのよ。絶望の嘆きに溢れた世界をさかなにして、慟哭によって熟した酒に酔いしれる。それがワシらの知る邪神様の全てじゃ」


 なんだよその理由。邪神とやらは厨二病なのか?


「随分と浅い理由だな。大層な存在の割にはやることが小さい」


「さてな。あくまでワシら末端が聞かされておる範囲じゃよ」


「ふざけた連中だ。ホタルを解放してもらおうか。魔王の器なら本来そうなるべき奴がいる」


「よく知っておるの。それでは足りぬからこの小娘を選んだのじゃよ。行きがけの駄賃のつもりじゃったが、とんだ拾い物じゃて」


「口を閉じろ外道が。質問にだけ答えろよ」


 黄鬼に聞きたい事は山ほどあるが、それを魔王が許してくれなかった。


「先ほどから何を無駄な問答をしている。余の前で無礼であるぞ」


「あんたは魔王。魔王ゴルディーバなのか」


「ほう、余の名を知っておったか。いかにも、我が名は魔王ゴルディーバ。世界をすべし神なる魂なり」


 魔王ゴルディーバ。

 本編前のスピンオフ小説でホタルによって倒され、やがてゲーム本編で復活し、ラスボスとなるキャラクターだ。


 だが勇者に取り憑くなんて展開はなかった。


 このオベロンの仕業に違いなかった。

 アーシェとレネリーの姿も見えない。一体どこへやった?


 ◇◇◇


【sideオベロン】


 勇者の小娘に魔王を憑依させることに成功した。

 まずは第一段階成功じゃ。


 これで世界の希望たるこの娘が世界に絶望をばら撒いてくれれば、邪神様が更なる美酒に酔いしれる事じゃろう。


 それが本懐なのか、それとももっと壮大な目的があるのか。

 あるいはワシらのような木っ端にはそう見えても、邪神様のような天上の存在にとって、世界を巻き込んだ大計画など酒のアテにする程度のお遊びなのか。


 それにしてもこの小僧。手かがり一つ残さなかったワシの所にこれほど迅速に辿り着くとは。


 緑色の光を発するまで気配に一切気づかなんだ。


 このワシを出し抜くとは、一体どんな術をつかったのじゃ?


 こちらの仕事が間に合わなければ危ないところじゃった。



 興味深い。実に興味深い。研究室に連れ帰って是非とも魔力を解析して、体は解剖。魂はワシのキメラに入れ替えてみたいものじゃ。




 しかし、危険。



 ここに居ると言うことは、邪神様の狂気に取り憑かれて凶暴性の全てを引き出された最強生物の魔狼帝をも退けたということ。


 ワシの操る狂気の魔術は、青いのが使う適当な魔術とはものが違う。


 生物の潜在能力の全てを狂気に変え、戦闘力に変換する魂の精髄までも蝕む完璧な術じゃ。


 つまり、魔龍帝の数倍、いや、十数倍の戦闘力を持った最強生物を、なんの苦も無く下したということじゃろう。


 あまりにも危険極まりない。このイレギュラーは、一刻も早く排除せねばならぬ。


 戦闘力では四鬼衆随一の青鬼のバンシーを一方的に虐殺する凄まじい戦闘力。


 まともにやりあうのは、あまりにも愚策じゃ。


 ならばワシはワシの土俵で戦うまで。


「ベルクリフトの双子姫はどこだ」


「見えぬか? 先ほどからおぬしらの目の前におるではないか」


「なに?」


 魔王の封印を解いた今、双子の姫は既に用済みじゃ。


 無事に家に帰す道理もなし。ならばこやつらの足止めに役立ってもらおうではないか。


 邪神様の呪いで大暴れを始めた魔狼帝の邪気を吸い取り、心も体も衰弱しきったエルフの姫巫女。


 あとの使い道は、内側に秘めた膨大な魔力の出所を作ってやるだけで良い。


 そしてそれに耐えうる強靱な肉体の器。


 脆弱な若い肉体ではこの娘達の強大な魔力の出力には耐えられん。


「くひーっひっひっひっ。見るがいいっ。ワシの作り出した最高傑作じゃっ!」


「こ、こいつは……このクソ外道が」


 この遺跡に生息していた魔物を全て凝縮させた最強のキメラ。


 そこに双子の魂を押し込めたことで生まれた生物じゃ。


 この美しい生物の頂点。芸術の極みを見るがいいっ!


 どれほどの力を有してくれるのか、楽しみで仕方ない!


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