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第84話浄化の正体、その名は【神力】後編

「神力……。こんなものが俺の中にあったのに気が付かなかった」


 使い方を知らなければそこにあっても意味がない。

 まさしく言葉通りの宝の持ち腐れだ。


「集中、集中、集中……」


 浄化ノ光の元となる力……いや、この場合は素と言った方がいいか。


 魔導師であるフローラは、俺の体に秘められていた女神の力を引き出しているということだ。


 俺自身がそのやり方を忘れていた。双子の祈りによってその記憶の一部を取り戻した。


「ホタル、今からそいつの体を浄化するぞ。心をしっかり持っててくれよ」


[うん、分かったッ。こっちも頑張るからねっ]


 体に行き渡った力強い魔力…いや、神力のうねりが分かる。


「いくぞみんなっ! ホタルを助けるッ」


「「おうっ!」」


 双子姫の祈りの力を借りて、全員の士気は最高潮に上がっている。

 これは俺が神力という力を自覚したからだと思われる。


「力が漲るッ。ゆくぞっ【龍真化・ドラゴニックアーツ】」

「魔導の力、いま目覚める。始祖フレローラよ、私に力を」


 龍の力を覚醒させ、浄化ノ光を纏うセイナ。

 その力の流れ…元を辿っていけば、俺の中へと繋がっていき、俺の神力の流れがセイナに力を与えているのが分かる。


 フローラも同じ。俺に内在していた神力を、スピリットリンカーのパスを利用して魔術で出力してくれていたのだ。


 つまり浄化ノ光という術式は、元を辿れば俺に備わっていた力を引き出す。ただそれだけの魔法だったのだ。


 ゲーム本編だと、恐らくそれは主人公が担っていた。


「でぁあああっ!」

「ッ⁉」


 ズシンッ!


 エボルウェポンで作り出した大剣に神力を乗せて斬り付けると、裏魔王の青白い体から真っ黒な瘴気が煙のように噴きだした。


「まだまだぁあああっ!」


 連撃連斬。かつてないほど体が軽い。

 自分の中に巡っている凄まじい力が手足のようにコントロールできる感覚がある。


「ぐっ、おおおおおおっ」

「お?」


 裏魔王が初めて唸り声を上げた。これまで無表情無感動で、生物感がまるでなかった裏魔王が初めてダメージに苦しんでいる。


「利いてるぞ。フローラ、放てッ」


「氷結の棺に眠れッ、【フリーズコフィン】」


 詠唱と共に放たれる氷魔法が裏魔王の足下を一瞬にして凍らせる。


 魔法の発動から効果までの時間が今までより遙かに短い。


 ステータスでは説明しきれない魔法の練度そのものが上がっているかのようだ。


『ぬ、おおおおおおっ! 己ぇええっ! 人間風情がぁああ』


「なんとっ! 喋ったではないか。今まで獣のようだったのに」


「これは…まさかホタル。ホタルッ! しっかりしろホタルっ」


[シビルくん、こいつも体の主導権を奪い取ろうって必死みたい。もっともっとダメージを与えてっ。このままじゃこっちが持たない]


「よーし、全員、まだまだ攻撃の手を緩めるな」


『余は魔王なるぞっ。無礼なる人間共よっ、ひれ伏すがいいっ。余は魔王なるぞっ』


 こいつ、ゲームの裏魔王のセリフの一部をロボットみたいに繰り返してやがる。



 浄化ノ光を纏った攻撃が次々にヒット。

 裏魔王は必死に抵抗するも、パワーアップした俺達が完全に優勢に立っていた。


『ぐぅううう』


 だが、突如として両脚を踏ん張り、両腕をクロスさせて暗黒色の炎を渦巻いていく。


「あ、あれはマズいッ! セイナ一旦下がれ。フローラは炎属性の防御魔法を全力で展開ッ! 全員を守るんだ」


 俺の指示にすぐに行動を開始する2人。

 あれはラスボスも使う魔王の切り札。広範囲に大爆発が起こって炎のレジスト魔法以外で被ダメージを免れる方法がない鬼畜奥義だ。


『デストロイ・エクスプロージョン』


 クロスさせていた両腕を一気に開き、暗黒色が真っ白な炎へと変わる。


「俺の魔力を使えッ!」


「くぅううううあああああっ! レジストファイアッ!」


 この攻撃は炎属性の極大ダメージ。ゲームの表記で言うなら現在HPに99%の割合ダメージを行なう。


 だが炎魔法のレジストを使えば被ダメージを減らすことができる。


「うううううっ、凄い熱量ですっ。防ぎきれませんッ」


 フローラ1人のコントロールでは全員分のダメージをカバーしきれない。


 俺も魔力を貸しているが、フローラ自身がキャパオーバーになっているようだ。


「「私達がサポートします」」


「アーシェ様、レネリー様ッ」


「私達は」

「魔法は使えません」

「でも内在魔力のコントロールは」

「大の得意なんです」


「「魔導師様に力を、精霊よ、かの者に祝福を、女神の力の祝福を」」


 フローラの背中を支える双子の姫達。

 二人の体が淡いブルーに明るく光り、プリズムを放つ粒子となってフローラを包む。


 すると炎を防いでいるレジストファイアがグンッと大きく広くなった。


「凄いッ、これなら防げますッ」

「油断するなっ。炎がおさまったら広範囲の斬撃が来るぞ。今だッ、伏せろッ」


 デストロイ・エクスプロージョンの炎が勢いを減らしたかと思いきや、すぐさま裏魔王の攻撃が飛んでくる。


 99%割合の次で確実にこちらにトドメを刺す魔王の必勝パターンだ。


 レジストで防ぎつつ、反撃技か物理防御のスキル、魔法でダメージを減らさないといけない。


 これが裏魔王になると『最大HP』の99%にアップグレードされ、単体だった斬撃スキルが全体攻撃になる。


 体の色合いが裏魔王だから威力はアップグレード版。

 次にくる斬スキルは横に広がる広範囲攻撃。


 そのパターンを知っている俺にとってそいつは必勝パターンたり得ない。


「「女神の使いよ。私達の神力をお使いください」」


 俺が魔王の隙を突くために攻撃をチャージしているところへ、双子姫がエンパワーメントしてくれる。


 これは二人共通のルートで行なわれるパワーアップイベントだ。


 体の底から神力の流れが大きく活性化したのが分かる。


 エボルウェポンで作り出した大剣に神力を流し込み、裏魔王の攻撃がひるんだ隙を狙って走り出した。


『シビルさんっ! 私、思い出しましたッ!』


 なんだッ⁉  走り出した瞬間に話しかけないでくれっ!


 既に攻撃に走り出してしまった途中だからミルメットに意識を裂いている余裕がない。


『妖精の力ッ、シビルさんにお見せしますよーっ。奥義【フェアリー・エレメンタル】』


「うおっ⁉ 体がッ、くおおおおおおおお」


 ミルメットが詠唱したと同時に体に凄まじい神力が漲っていく。


 それは色の違う神力とでも言おうか。俺の神力と毛色の違う別の神力が流れ込み、まるで相乗効果でも生み出しているかのように体が活性化しているのが分かる。


(この感覚、知ってるぞっ)


 遠い昔の記憶に、この感覚を覚えていた気がする。

 だが今は気にしている余裕はない。


『ぬがぁあああああっ! 人間、風情がぁあああああ』


 裏魔王の決死の叫びを耳にしつつ、体に漲る力の任せるままにパワーストライドを発動させて距離を詰めた。


「うおおおおおおおおっ! いくぞぉおおおおっ、これが必殺のぉおお!」


 それはゲーム内における最強の攻撃手段の一つ。

 10種類ある武器で各武器一つだけ設定されている究極奥義のうち、『大剣』の秘奥義を発動させた。


「極限奥義ッ【絶・斬・覇】ァアアアアアアア」


 横薙ぎの斬撃を極限まで高めた大剣技の究極形が炸裂する。

 浄化の力を持つ神力の載った斬撃は、裏魔王の肉体ではなく、瘴気で形成した部分だけを切り払った。


『ぐおおおおおおおおおっ⁉』


[勇者よ、今だッ!]

[うぁあああああああっ]


 神力の真っ白な光が部屋全体を包み込み、視界は一気に眩い白一色に染まって見えなくなる。


「くっ…ホタルッ」


 俺は神力を全部注ぎ込んだ一撃で使い果たし、そのまま勢いよく壁に激突する。


「グハッ⁉」


 やべっ、受け身取れなかった……。


 思い切り背中を壁に強打し、肺の中の空気が全部漏れて息が詰まる。


 酸欠状態に陥った視界は、元に戻ったホタルの姿を確かに捉えていた。


 俺はそこで意識を失った。

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