中庭に出た俺はアイテムボックスからフェンリルの亡骸を取り出す準備をするが、綺麗にしたとはいえ、死体を見せるのもまた忍びない。
「辛いものを見ることになります。無理をして同席なさらなくても」
「「いいえ、私達は、全てを見届ける義務があります」」
二人の想いは同じなのだ。俺はそれに応えないといけない。
「分かりました。では」
そうして光と共にフェンリルの亡骸を取り出した。
俺が斬り裂いた部分は綺麗に修復され、目を閉じて横たわる姿は本当に眠っているだけのように見える。
「アーシェ姫、レネリー姫、お二人の手で、フェンリルを生き返らせてくださいませんか?」
「ありがとうございます。レネリー、一緒に」
「うん、お姉ちゃん」
二人とはスピリットリンカーで繋がっている。つまり二人の気持ちが心を通じて伝わってくる。
俺はその気持ちに応え、二人に蘇生アイテムを手渡した。
「「蘇れ、森の守護者よ……蘇れ、神なる獣よ。神の申し子よ、エルフの友よ……」」
祈りを捧げるように、願い奉る二人の少女。
するとそれに反応するかのようにフェニックスの羽根が輝きだし、フワフワと浮かび上がってフェンリルの体を包んでいく。
『嗚呼……この心地良い神の光は……』
「あ、ああっ」
アーシェの歓喜の声が漏れ聞こえてくる。
フェンリルのまぶたがゆっくりと持ち上がり、黒い瞳をこちらに向けながら頭を動かす。
そこには以前のような殺戮の狂気はすっかり消え失せており、恐らく本来の穏やかな性格を表すように美しい色をしていた。
『不思議な魂を持つ人間よ。あなたには救われました。そして、この身を再び蘇らせて頂けたこと、二人の友に、可愛い子ども達に、こうして再会させて頂けたこと、心よりの感謝を』
「いいえ、結局あなたを手にかけるしかなかった。感謝される謂れはありません」
『良いのです。彼女達に危害が及ぶくらいなら死んでしまいたかった。その願いに応えてくれたではありませんか』
フェンリルは泣きじゃくって首元にしがみ付いている双子に鼻先を寄せていた。
その瞳は、まるで我が子を愛でる母親のようですらある。
『魔狼よ。無事でなりよりである。我も旧知の仲であるそなたが死ぬのは忍びなかったところだ』
『魔龍よ、あなたにも感謝します。私を止めてくれたことを。以前よりも遙かに強靱な魔力。やはりその少年の従魔になったのですね』
『その通りだ。そなたもなるが良かろう』
『無論そのつもりです。もともと捨てた命。感謝を込めてあなたに尽くしましょう。どうか、私と従魔契約を結んでいただけませんか?』
「分かりました。ではコアを」
『お願いします……。コアに触れ、我が真名を呼んでください』
まるで知っている筈だと言わんばかりに、フェンリルは静かに目を閉じた。
首元にある花飾りがぼんやりと光っている。
『魔龍帝をも従える凄まじい力。支配の契約でなければなりませんね。願ったり叶ったりです。私は更なる力が欲しい。この子達を絶対に守れる力を欲します』
「分かりました。では契約します。【魔狼帝エネルミア】よ、シビル・ルインハルドに付き従え。支配契約」
サダルの時に学んだことだが、ハッキリと言葉にすることで契約を強固にすることができるようになる。
前はサダルが誘導してくれたからちゃんと上手くいったが、今度はそれを俺の方から誘導した。
俺は設定資料集のアーシェの項目に書いてあった盟友フェンリルの真の名前を告げた。
『おおおおっ、力が溢れてくる。これは……』
『むおっ! わ、我が主よっ、これは』
「え?」
フェンリルあらため、魔狼帝エネルミアとの契約が完了したと同時に、どういうわけかサダルゼクスも同じように光を発し始める。
すると額に光っているコア。エネルミアの場合は首元のコアが黄金色に輝き始め、今までよりも更に神々しい魔力を纏うようになった。
『なんと……これは素晴らしい』
いったい起こったんだ?
『シビルさんシビルさん、これを見てください』
――――――
魔狼帝より進化
『銀狼帝エネルミア(進化形態)』→種族・神獣(シビル従魔)
魔龍帝より進化
『黄金龍帝サダルゼクス(進化形態)』→種族・神獣(シビル従魔)
――――――
「二人が神獣に進化した……?」
サダルの種族は龍族だったはず。
フェンリルのエネルミアは白に毛並みが眩い銀色に。
サダルの鱗は更に深みのある黄金色へと進化する。
『どうやら女神の眷属である我が主が従魔を増やすことで進化することができたようです。この分ではもっと増やせば更なる進化も望めるかもしれません』
なるほど。そうなったら頼もしいな。モンスターテイマーみたいな職業はいるって聞いたことがあるけど、この世界じゃあんまりメジャーじゃない。
だけど俺がサダルみたいな強い魔物を味方に付けることでドンドン戦力が増強できるなら、今後も視野に入れるべきかもしれない。
『契約は完了いたしました、改めまして、この魔狼帝改め、主から頂きました称号である銀狼帝エネルミア、不肖の身なれど、ご主人様にお仕えできる事を嬉しく思います。どうか私のことはエネルとお呼び下さい。敬意の念も不要に願います』
「わかりまし……分かった。エネル、よろしく頼む」
こうして魔狼帝エネルミアはよみがえり、更に俺の従魔として頼もしい仲間が増えたのだった。
◇◇◇
――その日の夜。
俺は城の中で今だ救護活動に当たっている兵士達を勇者一行として慰問した。
その中で、まだ壊れていなかったフェニックスの羽根を用いて、この騒ぎの中でたった1人の犠牲者であるヘルメドー将軍の蘇生を試みた。
結果は大成功。この国でもっとも忠義に厚い腹心である将軍の復活に、王城内は歓喜に包まれた。
もちろん、蘇生アイテムなんて伝説も伝説。
大っぴらにできる事ではないから秘密裏に実行され、その後箝口令が敷かれたのは言うまでもない。
そうして1日を終え、俺は改めてアーシェとレネリーの2人に呼び出されていた。
風呂を浴び、体を清めて寝所にて待っていてほしいなんて言われたら期待しない方が無理というものだ。
「お待たせしました、救世主様」
そうしてやってきたのは、アーシェとレネリーだけではない。
ホタル、セイナ、フローラの3人も、姫に連れられて俺の寝所にやってきた。
心臓が高鳴る。それはこれから始まる宴の予感だった。
「では、我らの救世主様に、特別なご奉仕を」
スルリと襦袢のような薄くて白い布を脱ぎ祓い、5人の天使達がその美しすぎる裸体を表す。
「う、おお……」
「難しい事は後で考えましょう」
「救世主様の救世主様、私達に注いでくださいませ♡」
「んぇっ⁉」
なんと双子の方から俺の【救世主】とやらに手を伸ばしてくる。
ナニをとは絶対に言えないが、完全にアップポジションに向いてしまって押さえが利かない。
「この世界にはない――」
「私達だけの――」
「他の人が決して味わえない――」
「最高の幸せを――」
「「ください♡」」
なんて事を言われたら思考はぶっ飛んでしまうじゃないか。
スピリットリンカーで繋がっている俺達に野暮な言葉は必要ない。
それを理解しろと言わんばかりに2人の姫に迫られて理性が飛んで行きそうになる。
そうまでされたらごちゃごちゃいうのは男らしくないってもんだ。
だから俺は自分を解放し、そのまま迫ってくる二人のヒロインを受け入れたのだった。
『それじゃあ久しぶりにいっちゃいましょうーっ! エロ同人発動ですよーーー』
もう完全になれた声が頭の中に響くの聞きながら、改めて無事に戦いを終えたことに安堵していた。
大団円のハッピーエンドが確実に近づいていることを、俺は実感するのだった。
【第7章 エルフの国と魔王の復活】完