戦いの後始末を終え、俺は寝所にてこの国の姫君達に歓待を受けた。
そうして双子姫と魂が繋がった俺達は、1日かけて互いの絆を深め合った。
いや、格好いい言い方はよそう。ハッスル三昧してしまったのである。
「娘達を助けていただき、誠に感謝するぞシビル殿」
翌々日、朝から晩まで『治療』と称して姫様達と部屋に籠もっていた俺達は、国王様から改めて呼び出しを受けていた。
「娘達を救っていただけたばかりでなく、まさか身も心も奪ってしまうとは。いやはやまさしく国の救世主だね。いやまったくっ」
しかし、お礼を言う口とは裏腹に目は全く笑っていない。
そりゃあ助かったと思った可愛い娘が男と一日中部屋に引きこもっていた日にゃあ、ねぇ?
性行為という概念がないこの世界だって、男女の情愛というものが存在する以上、親としては穏やかではいられないだろう。
「お父様ッ! 何度も申し上げましたけど、私達は自分の意志で救世主様に身を捧げたのです」
「今更文句言わないでください」
お姫様、娘を拐かした男の前でそのセリフは火に油ですぞっ!
完全に感謝の言葉の裏にピキッてるターランダ王をたしなめつつ、この国に残っていた最後の問題であるクーデターの鎮火についての話をすることにした。
「魔王は無力化しました。今後この世界に厄災をもたらすことはないでしょう」
「おお、それでは」
「はい。勇者の役目は果たされました。しかし、まだ完全に終わった訳ではありません」
「それは一体……?」
俺はこれまで被ってきた邪神の一派による妨害について、全てを伝えた。
◇◇◇
「邪神……それはまさか……」
「何か知っているのですか?」
「エルフの古い歴史にこんな逸話があるのだ。その昔、この世界を作り出した女神を滅ぼし、世界に絶望をもたらそうとした荒神がいたと」
「世界の絶望をもたらす荒神……」
「そう。世界を作り出した女神、創世神様が倒した邪悪なる神の一柱だ。その時に従えていたのが邪妖精。創世神様の使いとされる妖精族と対をなす存在だ」
そうか。女神の使いと対をなす存在がいたとしたら、俺達は何よりも目障りな存在のはず。
なにしろ俺がその女神の使いって奴らしいし。
なんで俺が神力って奴を使えるのか不明な部分も多いが、それを別にしても邪神と女神の繋がりがこの世界にはかつてあったのだ。
「創世神様や荒神がその後どうなったかは分かるのですか?」
「失伝している部分も多いが、戦いで傷を負った女神様は長い長い眠りについたと言われている。我々エルフの寿命ですら気が遠くなるほどの時間をかけて傷を癒やしている最中だと」
「なるほど……」
「荒神…恐らく邪神と同一の神については、不明な部分が多く、よく分からない。この時代になるまでそのような話は聞いたことがなかった…」
「他に何か知っている事はありますか?」
「そうだな……。役に立つかどうかは分からんが、女神様に
超越文明の遺産……、それは遺跡という言い方もできるだろう。
となれば、そんな場所に心当たりなんて一つしかない。
(裏ダンジョンしかないだろ……そんなもん)
あのダンジョンの最奥に辿り着けば、あるいはゲームでは分からなかったことが見えてくるのかもしれない。
サウザンドブラインに戻ったらもう一度、今度はなんとしても皆を引き連れて裏ダンジョンに挑むべきなのかもしれないな。
邪神の一派は強い。俺自身はもちろん、仲間達全員が今より数段パワーアップを果たさないと勝てないかもしれない。
強くなればいいというものでもないが、強くなくてはできない事もある。
むしろ、強くなるほどに守れるものが増えるならドンドンやるべきだ。
そうして一通りの話をし終えた後、もう一つの大事な事を国王に伝える事にした。
「なんと、この国でクーデターが?」
「はい。本来は魔王の復活によって起こった国の混乱によって、国王様の求心力が下がった結果起こることです。魔王の復活を阻止した事でそれは未然に防がれましたが、邪神の暗躍がある以上油断はできません」
「なるほど。分かった。未来を知っているという娘達の話からも、嘘ではないということは分かる。私は国民の信頼を損なわぬよう、一層強固な国造りに励むとしよう」
「よろしくお願いします」
「うむ。そのためにはアレだな。シビル殿がこの国の王になっていただくのが一番だな」
「えっ⁉」
そうだった。この国の跡取りであるお姫様2人とも娶ってしまったようなものだから、国王様にとっては穏やかじゃいられないはず……。
「お父様ッ、その話はなしでと申しましたのに」
「そうはいってもねアーシェ。一国の王女と関係を持つというのはそれだけ大事な話なんだ」
『ハーレムエンド目指すのも楽じゃないですなぁ』
マジでそうだ。現実でハーレムやろうとすると大変なのは地球も異世界も変わらないということか。
現実のハーレムなんてやったことないけど…。
「その辺に関してはいずれ真剣にお話します。まずは邪神関連の話を解決しなければ世界の存続すら危ないですから」
ゲームだとどうやってこの辺の問題を解決していたのやら。
多分ルルナ姫が何かしら根回しをしてくれたんだろうなぁ程度の想像しかできないが、後でエミーに相談しよう。
「なるほど。まあいいだろう。覚悟があるなら文句はない。国を左右する問題だからな。私は君を逃がさないからね」
お父上からの追求が厳しい。
そんな話題が続く中、1人の兵士が何やら急ぎに伝令があるとのことで応接室にやってきたことで中断された。
「国王様、通信兵から急報が入っております」
「どうした?」
耳打ちされた国王様の表情がみるみる変わっていく。
その視線は俺達に注がれており、何やら不穏な空気が漂っていた。
「勇者様、救世主様、悪い知らせがある」
「どうしたのですか?」
それはまさしく急報と呼ぶべきものだった。
「大陸南部にあるサウザンドブライン領がフェアリール王国から独立宣言をし、王国に対して宣戦布告をしたという知らせが入った」
「なんだとっ! どういうことですかっ⁉」
あまりにも予想外すぎる言葉に絶句してしまう。
信じられない知らせに怒りで頭が沸騰しそうになる。
「詳しい事は分からぬが、サウザンドブラインから大量の兵が布陣を敷き、王都に向かって進軍しているとのことだ」
「エミーはっ! 公爵の娘はどうなっていますか?」
「分からぬ。そこまで詳細な情報はまだ…」
「なんてこった…。とにかく急いで戻らないと」
一体何が起こったっていうんだ?
俺達は大急ぎでフェアリール王国へと戻ることにした。