城の中へ案内されると、謁見の許可はあっさりと下りた。
しかし俺達の対応をしたのは国王様ではなく、第一王子であるサイモンという男だった。
「よくぞ戻った勇者とその一行よ。魔王討伐ご苦労である。さあ魔王の首をこれへ」
「はい殿下。ただし、正確には完全に成し遂げた訳ではありません」
「なんだと? 何故だ? 使命を放り出して出戻ったということか?」
サイモンの顔が明らかにしかめ面になる。
やはり俺の判断は正しかった。俺が神力を獲得したことで邪神の気配がよく分かるようになった。
こうして間近に相対してみると、こいつは操られているだけだ。
四鬼衆の1人は近くで見ている。
「一時的な無力化には成功しています。王国の危機と聞いて急いで旅路を反転してきました」
実際には既に魔王は無力化しているが、ベルクリフトの王様には事実を伏せるようにお願いしてある。
明らかな異常事態だったのでベルクリフト王はそれを承諾してくれ、通信魔法での伝達は最低限にしてくれている。
とはいえ、この世界の通信魔法は電報みたいにちょっとした文章を送るのが手一杯程度のものだ。
どっちも詳細は現地に行かないと掴むことはできなかった。
それにしても……。
「それなら丁度良い。君達は来たるべきサウザンドブライン軍との戦争で兵士達の先頭に立ってもらう」
「えっ⁉ わ、私がですか?」
「待ってください殿下。勇者を戦争にかり出すのは女神の教えに反します」
バカかコイツ……。
勇者というのは戦争の道具にしてはいけないという規定がある。
それは教皇を頂点とする教会の定める取り決めだ。
巨大な権力を持つ教会は世界中に影響力を持っている組織だ。
その教会が『勇者を戦争の道具にしてはならない』と定めている以上、王子の考えは教会にケンカを売るのと同じになる。
「ふむ、ならばそなた……シビル・ルインハルドに命じよう」
このままだと俺達は王国の戦力に組み込まれてしまう。
それに国王様がいないのも気になる。このぶんじゃ幽閉されているか……あるいは。
「その前に確認したいのですが、発言をお許しいただけますでしょうか」
「よかろう」
「国王様に直接お話したい事がございます。お目通り願いたいのですが」
「陛下は急病にて床に伏せっている。今は私が国王代理として取り仕切っているのだ」
急病だ? 確実に嘘だ。
「分かりました。ではご提案したい事があります」
「申してみよ」
国王様ですら俺と同じ目線で話してくれたのに、この男は玉座に座ったまま見下ろしてくる。
もともと人格的にそこまで優れた人物ではなく、エミリアのバッドエンドで強制結婚の相手になるほど、物語においてもボンクラとして描かれている。
できれば関わる事なく王都を出てサウザンドブライン領に向かいたいところだ。
俺は兵士として組み込まれないために、サウザンドブライン領への潜入捜査を提案した。
「我々にはサウザンドブライン領への潜入捜査をお命じください。この戦争、あまりにも不自然な点が多すぎます」
「それは許可できぬ。そなたらがそのまま敵の陣営に加わらないと誰が保証できようか」
まあそうなるわな。どんな反応をするか言ってみただけだが、やはりこの王子は敵に操られている。
あるいはこいつ自身が入れ替わったか……。そこまでは分からない。
「分かりました。では我々は従えたドラゴンに乗って先陣を切ります」
「あの魔龍帝サダルゼクスを従えたというのは本当だったのだな」
目の前の王子は確実に敵だ。だが王様が人質に取られている可能性が高い以上、今は手が出せない。
なんとかして国王様を救出しなければ。
いやダメだ。国王様だけを救出しても意味がない。
王様の家族もどうなっているか分からない以上、下手に手を出してやぶ蛇になっては本末転倒だ。
どうにかして全部を救う上手い手を考えなければ。
王子サイモンの話を聞きながら、俺はこの場をどう切り抜けるか考え続けていた。