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第110話赤鬼・驚愕

「いくぞシビル・ルインハルドッ! 邪神様の生け贄になれっ」


 赤黒い体躯を前のめりに倒して凄まじい闘気を纏って突進してきた。


「ぐぅうううっ」


 正面から受け止めた衝撃で地面に踏ん張っていたかかとがめり込んだ。


「驚いた。やはり一瞬にしてパワーアップするのか。素晴らしいッ」


 敵に称賛されても嬉しくもなんともない。


「はははははっ! 死ねッ! 死んでしまえぇえ」


 敵の猛攻。やはりもの凄い力だ。


 エボルウェポンで剣と盾を作りだし、猛攻を防ぎながら攻撃パターンを見極める。


「喰らえッ、スパークブラスター」


 上級の雷魔法が凄まじい速度で真っ直ぐ襲い掛かってくる。

 まともに受けたらダメージは免れないので、盾を構えて魔力を込めた。


「マジックシールド」

「なにっ」


 魔法を武器や盾で弾くことができるマジックシールド。

 無理にはじき返すのではなく、パリィのように受け流すことでダメージを最小限に抑えることができる。


 俺はそのままパワーストライドを発動。

 距離を詰めて技を発動させた。


「パワードスラッシュッ」

「ぐわぁっ!」


 冗談からの袈裟斬りで肩に斬り付け、すぐに離脱する。


「くっ。その強さも見かけ倒しではないということか。重ね重ねアルフレッドの悪魔が未完成なのが悔やまれるね」


「そりゃ一体どういうことだ。この国で何をしようとしていた?」


 俺が気になっていたのはそこだ。わざわざアルフレッドなんぞ操らなくてもこいつの実力なら国を裏から支配する事なんて簡単だったはず。


「国を混乱させるのが目的ならアルフレッドを取り込んだ理由が説明できない」


「ふふ、彼は良い感じに心が湿っていて操りやすかったのさ。君に対するコンプレックスも強く、エミリア・サウザンドブラインを欲する欲望と、内に秘めた暴力性の強さが実に操りやすかった」


「なるほど、せやあああっ!」


 それで分かった。奴らが集めているのは……。


「お前らが集めているのは【感情】だな」


「むっ」


 赤鬼の顔色が明らかに変わった。

 やはりそうだ。思い出した事がある。


 裏ダンジョンの100層以降のボスモンスターの中に、人の感情を集めてエネルギーに変えるという奴がいるという噂が流れたことがある。


 それは裏ダンジョンのボスモンスターの中には時折喋るくらいの知能を持った奴がいて、人の感情を操る魔法を使う。


 そいつがゲーム内において、【集めた感情をあの御方の元へ】と、どこかへ送っている描写が見られた。


 ところがその【御方】って奴が誰なのか、明らかになることが終始なかった。


 そいつもグランドデビルと同系統のモンスターだった。

 思い返してみると、四鬼衆の性格はどこか裏ダンジョンの喋るモンスター達と共通するところがあった。


 邪神が太古の時代と関係しているという話と、裏ダンジョンがその時代の遺物であるという可能性。


 その二つを合わせると、邪神ってのが不明だった【あの御方】であると考えることは、少々無理やりだが可能性としてなくはない。





「エミーッ」


「うんっ! もっと、もっと力をッ」


 エミリアの精霊魔法は限界以上に自分の力を引き出してくれる。


 無限に湧き上がってくる力が体を動かし、巨大な体を押しのける。


「せぇええあああっ」

「ぐおっ」


 腕と腕同士の取っ組み合いになり、その腕をへし折った。


「ぐあぁあああああっ、な、なんだ、この力はッ。くそっ、未完成とはいえ、グランドデビルの力を凌駕するとは」


「いい加減邪神の奴らにはうんざりなんだ。テメェらの大ボスはドコにいるっ」


「くっ、そんな事をしゃべると思っているのか」


 大当たり。つまり知ってるって事だ。コイツは何が何でも逃がさずに情報を吐かせてやる。


「じゃあ喋りたくなるようにしてやるだけだっ」


「グハッ」


 蹴り一発。とはいえ、言うほど戦力差に余裕があるわけではない。


 これは一種の賭けだ。こいつを逃がしたら邪神の手掛かりがなくなってしまう。


 こいつらにはまだ上がいる。氷結将軍レーマ。


 氷結なんて属性めいた名前がついているのだから、別の属性がいくつかあってもおかしく無い。


 奴は言葉を濁していたが、恐らくいると見て間違いない。


「くっ、ここまでとは。精霊の巫女。やはり恐ろしい奴だ」


「ッ」



 精霊の巫女。そのフレーズはエミリアにとって重要な意味を持つ。


『シビルさん、スピリットリンカーで全員を繋げます。力が激増する筈なんで一気に決めちゃってください』


 よーし。ノンキに戦略を考えているヒマはない。それで一気に決めてしまおう。


「エミー、精霊魔法で思い切りバフをかけてくれ」


「うん、分かった」

「大変だけど頑張ってくれ。あと少しで決着がつく」


「大丈夫、シビルちゃんのタメならいくらでも頑張れるもん」


 頼もしいことだ。


「やっとシビルさんのお力になれますぜ。私も協力しますんで勇者最強奥義で決めちゃいましょう」


 勇者最強奥義。


 そうか、本来勇者の力であるヒロイン達との繋がりを使える以上、それと同じ事ができるのは必定。


 だったら、俺が勇者の代わりにもなれるって訳だ。


「よーしっ! みんな、聞こえるかっ」


『我が主っ。聞こえるぞ』

『シビル様のお声、ますます魔力が漲ってます』

『シビル君、なんか凄い事やるんだよね。私達、いつでも協力するからねっ』


 セイナ、フローラ、ホタルの3人は直ぐに答えてくれた。

 それだけじゃない。続いて遠くベルクリフトにいる双子姫、サウブラ領内にいるルルナ姫と。


 次々に俺の声に答えてくれる。


 全員の意志が一つとなり、新たな力を生み出した。


「極限魔法『アルティメットシャイン』」


「な、なんだとぉおおおおおっ! ぐぁあああああああああああああああああああっ!」


 眩い真っ白な光を放ち、赤鬼の巨躯を飲み込んでいく。

 これは主人公がパーティーメンバー全員の力を借りて解き放つゲーム中最強の合体技の一つ。


 勇者専用の最強魔法アルティメットシャインだ。


「お、おのれぇええ、このままでは済まさぬッ。死んでたまるかっ、さらばだッ。君は必ず殺してやるっ、シビル・ルインハルドッ!」


 消滅させられるかと思ったが、ギリギリのところで逃亡しようとする。



「逃がさないッ! 精霊魔法【創世※※※※※】」


「⁉」


 エミリアが放った青白い光の束。聞いたことのない魔法に何が起こったのか分からなかった。


 エミー、今なんて言ったんだ?


「そ、そんなバカなッ、バカなッ、このボクがっ、こんなところでぇえええええええええ」


 そういって赤鬼は断末魔と共に消滅していった。


「魔石回収しました。これで赤、青、黄、黒全員分の魔石が集まりました。これでかなり色んな事が分かる筈ですよ」


 こうして四鬼衆を全滅させることができた。


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