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第109話逆襲

 アルフレッドとの決着を付けて、直ぐさまミルメットに加勢しに向かった。


「うおっ、すげぇ」


 俺が駆けつけた時、閃光を放ちながら二つの光の球がぶつかり合っていた。


「そーーーーーーーそりゃそりゃっとぉおおおっ」


 小さな光球同士の衝突は轟音を立てながら一拍遅れた衝撃波を作り出す。


 ミルメットがここまで強かったとは。戦闘向きな雰囲気皆無だったのにな。


「おっと、どうやら撤退の時間のようだ。流石に女神の眷属2人が相手は分が悪い」


「逃がすとお思いですか?」


「もうこちらの目的は大方果たしたんでね。それにボクは本来戦闘向きじゃないんだ。暗躍が本職なんだよ。青や黒みたいに直接戦闘は好きじゃない」


 いや、恐らく赤い奴は四鬼衆の中で一番強い。


 あんな小さな体なのに感じる邪気は変身したアルフレッドよりずっと高い。


 間違いなくコイツが四鬼衆のリーダーだろう。


「お前が裏で手を引いていたんだな。俺達が出発するタイミングを見計らって。あのタイラントスパイダーもお前の仕業か」


「ふふふ、実行したのはアルフレッド君だ。ボクはきっかけを与えただけさ。それにしてもあの状態のアルフレッドをあっさり倒すとは、君も中々やるみたいだ」


「勝負しようぜ。邪神の一派にはまだ上がいるんだろ? このまま逃げ帰って上司に怒られないのか?」


「はっはっは。そうだね。せめて手土産の一つでも持ち帰らないと怒られてしまいそうだ」


「氷結将軍レーマだったか。属性が役職名についているってことは、灼熱とか雷撃とか、他の属性の将軍もいるんだろ?」


「誰かが喋ってしまったか。ノーコメントだ。やはり予定変更だ。今君たちと戦うのは得策ではない。レーマ将軍に確実な報告をせねばならないからね。さらばだ、また会おうッ」


 赤鬼の体が光に包まれ、フワフワと上空に昇っていく。


 俺は直ぐに魔法を発動して追撃したが、その体をすり抜けて空へと消えた。


「くっ。逃がすかよっ」


 飛行魔法を発動。直接とっ捕まえようと手を伸ばすも、もの凄い速度で上昇してあっという間に消えてしまった。




























「逃がしませんッ」


「なにっ⁉」


 俺の手が空中を切ったすぐ後、虹色の鎖が赤鬼を縛る。


 俺は何が起こったのか分からず、一瞬固まってしまったのだが、鎖から感じる魔力によって直ぐに理解する。


「神力、解放ッ、浄化ノ光ッ!」


「うわぁああああっ」


 赤鬼が叫ぶ。目いっぱいの神力を腕に込めて小さな体を掴み上げる。


「ぐわっ、こ、これはっ、精霊の……おのれっ、まさか」


「ナイスだエミリアッ」


 撤退したと思っていたエミリアが精霊魔法で赤鬼を拘束した。


「くそぉお、こうなったらっ。アルフレッドォオオオオオ!」


「なにっ」


 空間が引き裂かれ、さきほど倒したはずのアルフレッドの悪魔形態が不意打ち気味に襲い掛かってきた。


 視界の脇には兵士達に拘束されているアルフレッドが写る。


 ということは、こいつは変身したアルフレッドの力だけを抽出した分身ってところか。


 邪神はなんでもありだな。


「まだ熟成が足りないが仕方あるまい。グランドデビルの体を使ってボクが相手をしてあげよう」


 赤鬼の存在感が一気に増大し、溶け込むように体が一体化していく。


 青白い体の模様が赤黒い体色に変わっていく。ますます禍々しい様相に変わってしまった。


 しかも邪神の気配が一層色濃くなり、魔力も闘気も凄まじい事になっている。


 アルフレッドなんかより何倍も凄まじい存在感だ。


 普通に戦ってはまず勝てる気がしない。


「大丈夫ですシビルさん。エミリアちゃんの精霊魔法があります」


「なに? どういう事だ」

「とにかくエミリアちゃんの所へ」

「わ、分かった」


 ミルメットの助言でエミーの元へ。コイツには何か考えがあるのか。

 確信めいた表情で俺を誘導した。


「エミーッ」


「シビルちゃんっ」


 俺は直ぐさまエミーの元へ飛ぶ。


「体大丈夫か?」

「うん。シビルちゃんのアイテムのおかげ」


「おい貴様、監禁から解放されたばかりのエミリアに何をさせるつもりだ」


 ガイスト公爵はエミリアに無理やり引っ張られてきたのだろう。

 焦りと若干の疲労が顔に出ている。


 せっかく助け出して安全な場所に避難しようとしたのに危険ば現場に無理やり出て行こうとする娘には気が気でないだろう。


「アイツを倒すにはエミーの力が必要だ。おいミルメット、どういうことか説明できるんだろうな」


「初めましてエミリアちゃん。女神の使い、妖精族のミルメットです」

「あなたがシビルちゃんのそばにいた不思議な魂さんの正体なんだね」

「およ? 私の存在感じてましたか?」


「ええ、シビルちゃんのそばに、ずっと」

「ちょいちょいっ! 怖いですよエミリアちゃんっ。ミルメットは健全な妖精さんです。いかがわしい男女の感情はナッシングですぜっ」


 何故だか凄い勢いで言い訳を始めるミルメットだが、何をそんなに怯えて居るんだ?


「おいミルメット。今は戦闘中だぞ。対抗手段があるなら早くしろ」


「がってんでいっ。エミリアちゃん、スピリットリンカーで精霊魔法の進化形が使えるようになっている筈です。あの邪神族に対抗するにはエミリアちゃんの力が必要です」


「本当かエミー?」

「うん。ついさっき、首輪から解放された時に新しい魔法が頭に浮かんできたみたい」


「それです。精霊魔法の真骨頂。シビルさんの潜在能力の全部を引き出せるのはエミリアちゃんの精霊魔法しかありません」


「分かった。シビルちゃん、アイツの気配、今まで一番マズい。でもシビルちゃんなら絶対勝てるよ」


「エミーの力ならそれが出来るようになるってことだな」

「うん。きっと大丈夫」


「ああ、俺はエミーを信じてる」




『ごちゃごちゃ喋っているヒマはないよっ。君たちは1人も生かしておかない。邪神様のために犠牲になってもらおう』




「赤鬼の邪気がドンドン高まってる。これはいよいよ気合いを入れないとな」


「シビルちゃん、私の全部を託すね」


 ゲームにおける最終版、エミリア最後のパワーアップイベントがある。

 魔王との決戦時、最終形態にパワーアップする魔王の猛攻に苦しめられた主人公達は、どんどん追い詰められていった。


 そんな折、精霊魔法最後の奥義を駆使して、自らを犠牲にして主人公達に奇蹟のパワーアップをもたらし、魔王の持つ暗黒のバリアを打ち破ることができる。


 だが、そのせいでエミリアは力を使い果たして最終決戦に参戦できなくなるというイベントだ。


 周回することでまた違ったイベントになったりもするが、基本的にこの自己犠牲によってようやく魔法討伐が達成されるというのが、マド花における正史となる。


 だけど、多分これはそれよりも遙かに凄まじいパワーアップだ。


 背中に当てられた手の平から入り込んでくる熱い魔力が全身を包んでいく。


 スピリットリンカーによって繋がったヒロイン達全員の思いが籠もっており、命を削るよりも遙かに高いエネルギーが籠もっていた。


「これが私の全部。私の全てをシビルちゃんに託します」


 さあ、反撃開始だ。

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