「女性用成人向け漫画雑誌『バラローズ』編集長、
「ついに編集長御自らあらすじを!? むしろ本編より、そちらの話のほうが気になるんですけど! どこの星色ガー〇ドロップですか!?」
「ハハハ、若いうちは何事も経験よ少年、頑張りなさい」
「はあ……」
「何油売ってるのよ堕理雄、衣装合わせするわよ」
「あ、ああ」
開演まであと15分、俺達は体育館のステージ裏で準備に追われていた。
てか、劇って体育館のステージでやるのかよ!?
こんな全校生徒の前で!?
俺はてっきり教室内とかで、こぢんまりやるのかと思ってたんだけど……。
ただでさえ演劇の経験なんて皆無な上、一度も練習なしの完全ぶっつけ本番なので、現時点で既にフラグが100本くらい立っている。
正直もう帰りたい……。
でも乗り掛かった舟だし、真衣ちゃんのためにも、ここは腹を括ってやれるだけのことをやるしかない。
幸い俺は王子役だから、出番は最後のほうに少しだけなのでまだマシだが、他の演者が
頼むから、今日だけは無事に終わってくれ!(フラグ)
俺は慣れない衣装にむず痒さを覚えながらも、何とか着替えを終えた。
「アラ、流石堕理雄ね。王子様の格好が肌に吸い付く(?)様だわ。荊で出来た牢屋とかに監禁したら、さぞかし絵になるでしょうね(ウットリ)」
「ウットリするな。……わかってるよな沙魔美。今日は未来ある若者達の前での公演なんだからな。くれぐれもいつものノリは発揮するなよ(フラグ2)」
「わかってるわよ。私が今まで一度でも、堕理雄の言い付けを守らなかったことがあったかしら?」
「むしろ一度でも守ったことがあったかよ……」
……いや、あるにはあるな(4話等)。
でもこいつの場合、テンションが上がるとすぐ周りが見えなくなるからな。
油断は禁物だ。
いつも思っていることだが、沙魔美程自分の欲望にのみ忠実に生きている人間は、他にいないのではなかろうか。
一ミリも羨ましいとは思わないが。
ちなみに沙魔美は案の定というか、当然というか、魔女の王妃役だった。
これに関しては誰も異論はあるまい。むしろ堂に入り過ぎて、怖いくらいだ。
まあ、噓か本当かはわからないが、前に白雪姫の魔女はご先祖様だって言ってたしな。そういう意味でも、王妃役は適任だ。
煌びやかだがいかにも闇がありそうな王妃の衣装を身に纏った沙魔美は、まさしく魔女そのもので、これならご先祖様も、草葉の陰でサムズアップしていることだろう。
「ど、どうかな堕理雄君? 私変じゃない?」
「菓乃子」
菓乃子が全身をキラキラした鏡の様な素材であしらった、ワンピース姿で現れた。
菓乃子は魔法の鏡役か。
いろんな意味で眩しいぜ。
「うん、とってもよく似合ってるよ」
「本当? 嬉しい!」
「うおっ!?」
菓乃子が急に俺の腕に抱きついてきた。
俺の二の腕辺りに、菓乃子の形の良い胸が、ふにゅっと押し付けられている。
どうしちゃったんだ菓乃子!?
お前はそんなキャラじゃないだろ!?
……いや、思えば先日の『ピッセ事変』以降、菓乃子の様子は少しおかしかった。
何と言うか、前より積極的になったと言うか……。
あの時、沙魔美と二人でボソボソ何か言っていたが、それが関係しているのだろうか?
ハッ! そうだ!
それよりも菓乃子!
沙魔美の前でこんなことしてたら、俺も菓乃子も消し炭にされるぞ!?
早く離れるんだ!
……あれ?
沙魔美のほうを恐る恐る覗き見ると、沙魔美は「やれやれ、しょうがないわね」みたいな顔で俺達を見守っていた。
オイどうした!?
ジャイ〇ンより心が狭いことに定評のあるお前が、何で急に映画版のジャ〇アン並の器のデカさを披露してんだよ!?
マジであの時、お前達に何があったんだ!?
ここまで豹変されると逆に怖いぞ!
「さあ、堕理雄、菓乃子氏、そろそろ開演よ。ゴー・ショウ・オン・マストよ!」
「ショウ・マスト・ゴー・オンな」
俺、この劇が無事に終わったら、姉さんの結婚式に出席するんだ(フラグ3)。
……姉さんいないけど。
『むかしむかしあるところに、白雪姫という大層美しいお姫様がいました』
幕が上がると同時に、スピーカーから未来延ちゃんの声が聞こえてきた。
ナレーションは未来延ちゃんか……。
また一つ不安要素が増えたな。
舞台上には沙魔美と菓乃子が立っている。
二人共頑張れよ。
俺は舞台袖で、二人を見守ることにした。
『しかし、白雪姫の継母の王妃は、自分こそが世界で一番美しいと信じて疑いませんでした。王妃は今日も魔法の鏡にこう尋ねました』
「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」
「はい、それは王妃様です」
「そうよねそうよね、やっぱりそうよね。愚問だったわね。じゃあ鏡さん、もう一つ質問よ」
「えっ?」
えっ?
「鏡さんの一番好きなBカップリングはなあに?」
「えっ!?」
えっ!?
沙魔美いいいい!!!!
早くもドデカイのブッ込んでんじゃねーよ!!
高校生の前なんだぞ!? わかってんのか!?
「あ、あの、沙魔美氏」
「どうしたの? あなたは何でも真実を答えてくれる、魔法の鏡でしょ? 早く教えてちょうだい」
「…………諸星つきみ先生の『兄さんと僕の
「わかるオブわかる。やっぱ双子の兄弟は
「……」
菓乃子おおおお!!!!
うちのバカが本当に申し訳ない!!
後でガチ説教しておくから!
『しかしそんな日々も永くは続きませんでした。白雪姫が益々美しく成長していったある日、王妃はまた鏡に尋ねました」
「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」
「はい、それは白雪姫です」
ブチュウッ
「!?」
おファッ!?
沙魔美が菓乃子に突然キスをした。
何やってんだ沙魔美いいいい!!!!
さっきから俺、絶叫しかしてねーぞ!?
「さ、沙魔美氏……何を……」
「もう一度聞くわよ。この世で一番美しいのはだあれ?」
「そ、それは白雪ひ――」
ブチュウッ
「!?!?」
二回目ー!!!!
菓乃子おおおお!!!!
もう逃げてくれ菓乃子おおおおおお!!!!!!
「もう一度聞くわよ。この世で一番美しいのはだあれ?」
「…………それは王妃様です」
「よろしい」
話終わっちゃったじゃねーか!!
お前、絶対許さねーからな!!
『しかし念のため王妃は、ヤ〇ー知恵袋でも同様の質問をしてみたのですが、そこで返ってきた答えは、何と”白雪姫”でした』
未来延ちゃん!!
若干無理があるけど、ファインプレーだよ!
「何ですって!? おのれ、あの小娘め! こうなったら……猟師! 猟師はどこ!」
「へい、お呼びでやすかマスター」
クズオが猟師だった。
まあ、これも妥当だろうな。
「あなたは今すぐに、白雪姫を社会的に殺してきなさい」
「ガッテン承知の助!」
社会的に殺しても順位は変わんなくない?
もう細かいところにツッコムのは疲れたから、別にいいけど。
『王妃の命を受けた猟師は、森に散歩に来ていた白雪姫に話し掛けました』
舞台の中央に真衣ちゃんが登場した。
ここまでの流れがアレだったので、若干浮かない顔だが、ここからは真衣ちゃん次第だから頑張って!
「ハァハァハァ、お嬢ちゃんカワイイねえ。今からオジサンの家で、一緒にメイドインア〇スのアニメ見ない?」
「ヒッ」
もしもしポリスメン?
はい事案。
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……(月並感)。
てかなんでメイドインア〇スなんだよ。
名作だけど、小さな女の子と観るアニメじゃないだろ。
可愛い絵柄に騙されてウッカリ観たら、トラウマになるぞ。
「ち、近寄らないで!」
グシャッ
「はうっ」
真衣ちゃんの金的が、クズオにクリティカルヒットした。
うわぁ。
自業自得だけど、あれはちょっと同情するわ。
『何とか猟師から逃げた白雪姫は、そのまま森の奥に入って行きました。そして猟師は王妃に、白雪姫は始末したと嘘の報告をしました』
「マ、マスター……ご命令通り、白雪姫は始末いたしやした……」
「ご苦労様、これは報酬よ」
グシャッ
「はうっ」
沙魔美の金的が、クズオにクリティカルヒットした。
なんでだよおおおお!!!!?
それは流石に可哀想だろ!?
『一方その頃、白雪姫は森の奥で7人の小人と出会いました』
「よおツルペタの嬢ちゃん、こないなとこで何やっとるんや?」
「ツルペタ!? ……実は私、継母に命を狙われてるんです」
「そりゃあ災難やったのお。よかったらウチらんとこで一緒に暮らすか? ウチは小人のリーダーのピッセや」
「えっ、いいんですか」
「私はサブリーダーの伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの長男です」
「私は書記の伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの次男です」
「私は会計の伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの三男です」
「私はいきものがかりの伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの四男です」
「私はコンシェルジュの伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの五男です」
「ヒャッハー! 死にてーやつは前に出ろ! 俺が伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの末っ子だ! デストローイ!!」
末っ子だけキャラ浮きすぎだろ!?
ついに六つ子が全員揃ったと思ったら、とんでもねー隠し球が出てきやがった!
末っ子だけモヒカンでムキムキのマッチョ野郎だし。
トゲトゲが付いた肩パットもしてるし。
絶対こいつだけ血繋がってないだろ!?
「…………じゃあ、今日からお世話になります」
……妥協した。
まあ、人生には妥協も必要だからね、しょうがないね。
『こうして白雪姫は7人の小人達と共に、楽しく暮らすようになりました。そんなある日、王妃はまた魔法の鏡に尋ねました』
「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」
「……はい、それは――」
ブチュウッ
「!?!?!?」
まだ言ってねーだろーがー!?
お前さては、菓乃子とチューしたいだけだろ!?
なんで俺は一日三回も、今カノと元カノのチューを見せつけらんなきゃいけねーんだよ!!
「…………それは王妃様です」
「よろしい」
よろしくはない。
お前マジで後でビンタだかんな。
『ところがその日のネットのトレンドワードは、”この世で一番美しいのは白雪姫”でした』
GJ! MI・RA・NO!
この世界、IT系だけ発達しすぎじゃね? とか思ったら負けだぜ!
「なあんですってえ!!? おのれ、こうなったら私自ら息の根を止めてやるわ!」
『王妃は魔法で老婆に変身して森に出向き、白雪姫に話し掛けました』
「ちょっとそこのツルペタのお嬢さん」
「ツルペッ!? ……何でしょうか、怪しいお婆さん」
「ホッホッホッ、私は全然怪しい者じゃありませんよ。お近付きのしるしに、この毒リンゴをお一ついかがですか?」
「えっ」
毒リンゴって言っちゃったよ!!
わかったぞ! さてはお前、端から真面目にやるつもりなかったな!?(今更)
「いや……毒リンゴはいらないです……」
「そう仰らずに! 騙されたと思って! 一口だけ、先っちょだけでいいんで!」
「えぇ……」
えぇ……。
お前毒リンゴのまま押し通すつもりなのかよ。
これで白雪姫がそのリンゴ食べたら、ただの超絶ドジっ子になっちゃうじゃないか。
「……じゃあ……一口だけ」
……そうだよね。
話の進行的にはそう言うしかないよね。
可哀想な白雪姫。
できれば今すぐ
『白雪姫がリンゴを一口齧ると、リンゴに仕込まれていたインフルエンザウイルスにより、白雪姫は死んでしまいました』
「ぐふあっ」
バタリッ
インフルエンザ怖ー!!
みんなも家に帰って来たら、手洗いうがいはしっかりやろうね!(戒め)
「オーホッホッホッ! これで一番美しいのはこの私よ! ついでに白雪姫のSNSのアカウントを乗っ取って、『今起きた』とか、『これからランチ食べる』とか、クソどうでもいいことばっかりポストして、世界中につまんないやつだと思わせてやるわ!」
お前最低だな!
もう俺、沙魔美とは別れようかな……。
『満足した王妃は城に帰って行きました。そして白雪姫の死体を見つけた7人の小人は、大層悲しみ、白雪姫を棺の中に眠らせました』
「惜しいやつを亡くしたな。これはウチらからの餞別や、あの世で楽しんでくれ」
『そう言って小人達は、棺にプレ〇テ2を供えました』
また出たプレ〇テ2!?
この間も見たぞ!?
実は流行ってるのか……?
『しかしここで、満を持して王子様が通り掛かったのです』
満を持してとか言わないで!
……ついに出番がきてしまったか。
最早観客の視線が痛すぎて出血しそうだが、真衣ちゃんのためにも覚悟を決めていくしかない!
俺は意を決して、舞台に躍り出た。
「おお、これは何と美しいお姫様だ。小人さん達、是非このお姫様を私の妻として迎えさせてください」
「えっ、マジかジブン。この子もう、死んでんねんぞ」
「え、いや、それは、そうだけど」
『それは心配いりません。王子様は死体に欲情する、特殊性癖の持ち主だから問題ナッシングです』
「あ……そういうことなら、な……」
「え、ちが……」
何故だよMI・RA・NOー!!!
ここまで数々のピンチを救ってきた英雄が、なんで俺の時だけ牙を剥いてくるんだよ!
信用してた俺がバカだったYOー!!!
『美しい死体を前に、自分の欲望を抑えきれなくなった王子様は、思わず白雪姫にキスをするのでした』
「……オオウ」
ジーザス。
本当なら美しい話のはずが、これでただの変態野郎の暴露日記になってしまった……。
だがここまできたら、あと一歩だ!
あとは真衣ちゃんにキスをするフリをして、白雪姫が生き返ってハッピーエンドだ。
俺はゆっくりと真衣ちゃんの顔に、自分の顔を寄せた。
その時だった。
真衣ちゃんが急に俺の肩を掴み、強引に俺の唇を真衣ちゃんの唇に引き寄せようとした。
なっ!?
それは流石にマズいよ真衣ちゃん!!
でももう、間に合わない!!
ブチュウッ
……嗚呼。
やってしまった。
あれ?
でもこの唇の感覚は……。
俺はゆっくりと目を開けた。
するとそこには
「まだまだ胸が直滑降のお子様には、王子様のキスは早いわよね」
「……沙魔美」
王妃様が勝ち誇った顔で微笑んでいた。
『なんということでしょう、実は白雪姫は、二重人格である王妃のもう一つの人格だったのです。愛する王妃様のキスで、主人格だった王妃の人格が甦り、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
会場中が割れんばかりの拍手に包まれた。
中には感極まって泣いている子もいる。
君達大丈夫か!?
感動を感知するセンサー、ブッ飛んでんじゃないの!?
ふと舞台袖を見ると、真衣ちゃんが血の涙を流しながらこちらを睨んでいた。
……いろんな意味で、本当ごめんね。
「今日は本当にお疲れ様でした。とってもいいお芝居でしたよ」
「あ、それはどうも……」
公演後、生先先生が俺のところに来て労いの言葉をかけてくれた。
100%お世辞だろうが、そう言ってもらえたら少しは報われる。
「ところで、夜田さんのお兄さん」
「はい?」
生先先生は怪しい笑みを浮かべて、俺の耳元に顔を寄せて言った。
「約束通り、頑張ったご褒美をあげますから、この後一人で体育倉庫に来てくださいね」
「……体育倉庫」
イケナイことする気でしょう?
エロ同人みたいに!
エロ同人みたいに!