目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

第30魔:お兄ちゃん

「女性用成人向け漫画雑誌『バッキンガム・レジェンド』編集長、雷場らいば瑠美るみがお送りする前回のあらすじ。私、雷場瑠美は女性用成人向け漫画雑誌『バッキンガム・レジェンド』の編集長。バッキンガム・レジェンドは業界最大手の漫画雑誌。その編集長である私は誰もが羨む存在……な・は・ず・な・の・に。私の心には常に靄が掛かったようで気が晴れない……。それもそのはず、本当はバッキンガム・レジェンドの編集長は、高校時代の同期である長集ながあつあみがなるはずだったのよ! 編は美人で頭も良くて、高校時代は常に私の一歩上を行く存在だった。今の会社に二人で同期入社してからも、ライバルとして切磋琢磨してきたのに、バッキンガム・レジェンドの編集長に任命されたのは、私ではなく編だった……。またしても私のプライドは、編にズタボロに引き裂かれたのよ! でも本当の地獄はその後に待っていた……。何と編は編集長の座を辞退して、新参者の漫画雑誌『バラローズ』の出版社に転職したの! 噂では、諸星つきみという漫画家の才能に惚れ込んで、バラローズに移ったらしいけど、それじゃ今までずっとあなたを追い掛けてきた、私の気持ちはどうなるの!? 見てなさい、編。私の力で諸星つきみをバッキンガム・レジェンドに引き抜いて、今度はあなたのプライドをへし折ってやるわ! そして、異世界に来た堕理雄達は、世界に平和をもたらすことはできるのかしら? それでは後半をご覧あれ」

「わざわざ異世界までお疲れ様です! 家までは帰れますか?」

「私を舐めないで! 編の絶望にまみれた顔を見るまでは、私は絶対に諦めないわ!」

「……」


 この人も相当拗らせてるな。


「堕理雄、何やってるの? そろそろワープするわよ」

「あ、ああ」

「じゃあ四天王に向かって、トウッ」


 沙魔美が昭和仮面ラ〇ダーの様にジャンプして地面に着地すると、俺達は先程見た四天王の一人の、目前に移動していた。


「なっ!? 何だお前達は!? どこから入ってきた!? 俺が伝説の魔王軍四天王の一人フォービジーニャッポリートイフリートと知っての狼藉か!?」

「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ」


 ドウッ


「ブッチッパ!」

「はいお疲れちゃーん。次はどこかしら、菓乃子氏?」

「えーと、北西に八十キロくらいのとこかな」

「じゃあその辺に向かって、トウッ」

「ぬおっ!? 貴様ら何者だ!? ここは伝説の魔王軍四天王の一人カンクリニャッポリートバハムートの自室だぞ! あっ、これは違うんだ! この美少女フィギュアは決して俺の趣味ではなくて――」

「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ」


 ドウッ


「ブッチッパ!」

「菓乃子氏、次」

「はい、南西に九十キロ」

「トウッ」

「どんだけ〜。私は伝説の魔王軍四天王の一人コロッケエイトビートゴブリンよ〜。背負い投げ〜」

「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ」


 ドウッ


「ブッピガン!」

「はいおしまい。これで魔王の城の封印が解けたわね」


 雑ゥー!

 四天王の扱い雑ゥー!

 これはいくらなんでも可哀想だろ!?

 最後のやつだけ、何かいろいろおかしかったし……。

 暇な読者の方は、最後のやつのツッコミどころを探してみよう。


「ピッセさん! 敵を倒すのは、私がお兄さんを守るくだりをやってからにしてくださいよ! これじゃ私の出番がないじゃないですか!」

「やかましいのお、相変わらず胸も器も小さいやっちゃで」

「なっ! あなたまで私の胸を侮辱するつもりですか!?」

「文句の一つも言いたかったら、せめてEカップくらいにはなってから言えや」

「クソがあああ!!!」

「まあまあ真衣ちゃん落ち着いて」


 そんなこと言ったら、俺なんてクソの役にも立ってないんだからさ。

 まあ、安全に勝てるなら、それでいいじゃないの。


「さあみなさん、最終決戦に向けて体力を回復させておきましょう。今回はカツ丼にしましたよー」

「おっ、サンキューお嬢」


 大して体力は減ってないけどね。

 それに、これも四天王の肉で作ったんだよね?

 ……気にしたら負けか。

 どれどれ。

 パクリ。

 ……。

 やっぱりウマい!!!

 よし! ここに、二号店を開こう!(妙案)




「フウ、美味しかった。ご馳走様。じゃあちゃっちゃと世界を平和にして、二次会でも行きましょっか。二次会行く人ー?」

「沙魔美、一応まだラスボスが残ってるんだから、油断はするなよ」

「アラアラ、相変わらず空気が読めないわね堕理雄は」

「お前に言われたくねーよ!」

「はい無視ー。菓乃子氏、魔王の城はどこかしら?」

「えーと、ここから東に五十キロくらい行ったところかな?」

「ではラスボスのところに、トウッ」


 俺達はいかにも魔王の間といった、おどろおどろしい雰囲気の場所に着地した。

 目の前には禍々しい玉座があり、そこには――


 ブカブカのマントを羽織った、角が生えた幼女が体育座りしていた。


 ファッ!?




「ふええ、おねえちゃん達だれー? アタチのことイジメに来たのー?」

「……」


 ……そうきたか。

 なるほどね。

 ここまでが順調に来過ぎだと思っていたが、ラスボスを幼女にすることによって、俺達の気力を削ぐ作戦(?)だったんだな。

 確かに幼女を殴るのは気が引ける。


「ハン、舐めんなよ。こちとら元、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンやぞ。幼女ごときに手加減なんかする玉か」

「おい! ピッセ!」

「アアン!? 幼女だと?」

「「!」」

「小娘の分際でわらわを幼女扱いとは、片腹痛いわ。わらわはこう見えて999歳であるぞ」

「「!?!?」」

「あっ、イッケナーイ。今のはナシね! ふええ、お願いだから、アタチのこと殴らないでー」


 ……。

 ロリBBAキター!!!

 遂にロリBBAまで出やがった!

 何かこれはいろいろと、業が深すぎるだろ!?


「……ふざけおって。BBAがそんなキャラ作りしとんの、キモすぎるわ。せめて苦しまんように、一撃で屠ったるわい!」

「待てピッセ! 迂闊に動くな!」

「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」


 ビシィッ


「グアァッ!」

「! ピッセ!!」


 伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウは、見えないバリアの様なものに弾かれ、ピッセは後方に吹っ飛ばされた。

 何だ今のは!?


「ふええ、おねえちゃんが怖かったから、物理障壁を張らせてもらったよ。これでアタチのことは、誰も殴れないよー」

「な!?」


 物理障壁!?

 そんなチートなものを!?

 ……いや、チートなのはお互い様か。

 それに、物理攻撃が効かないなら、魔法で攻撃すればいい。

 もう幼女の見た目には惑わされない。やっぱりこいつは、紛うことなき魔王だ。

 やってしまえ沙魔美!


「フフフ、満を辞して私の出番の様ね。カマセも、文字通りかませうおとして、十全な仕事をしてくれて感謝するわ」

「う、うっさいわい……。ピッセや……言うてるやろ……」

「ハイハイ。で? BBA魔王さん、最後に何か言い残すことはあるかしら?」

「……アタチの名前はマヲだよ、おねえちゃん」

「ではマヲおばあちゃん、また来世でお会いしましょう」


 沙魔美は指をフイッと振った。


 が


 何も起こらなかった。


「……アラ?」


 沙魔美は再度指をフイッと振った。


 が


 やっぱり何も起こらない。


「アラ? アラ? おかしいわね?」

「言い忘れてたけど、この城は強力な封魔結界が張ってあるから、アタチ以外の人は魔法は使えないよ」

「えっ」


 えっ。

 マジで?

 それはちょっとズルくない!?

 魔法の使えない沙魔美なんて、ただのジコチューなポンコツだぞ!?(彼氏の言葉とは思えない)


「……そんな……。ラスボスを華麗に倒して目立つために、敢えてここまでは出番を周りに譲ってきたのに……。これじゃ私、ただのアッシー君(死語)じゃないの!?」


 それは百パー、お前が悪い。

 本当に沙魔美は持ってる力が絶大な分、すぐ油断して足を掬われる展開が多いよな。

 いや、今はそんな分析をしてる場合じゃない。

 物理攻撃も効かず、魔法も使えないんじゃ、ハッキリ言って打つ手なしだ。

 こんなのチートどころか、最早バグじゃないか。

 クリア不可能の欠陥品だ。

 いったいどうしろっていうんだ……。


「ウフフ、これでアタチに勝てないことはわかったでしょ? でも念のため、おねえちゃん達の動きは封じさせてもらうね」

「えっ!?」


 マヲが指をパチンッと鳴らすと、地面からヌルヌルした無数の触手が生えてきて、俺以外の女性陣を全員縛り上げた。

 なっ!?


「キャアアッ! 私、触手で責めるのは好きだけど、責められるのは嫌なのよおお!」

「あっ! 沙魔美氏! この触手、服を溶かしてくるよ!」

「くっ、しかもエネルギーまで吸い取られとる! 全然力が入らん……」

「悪しき魔女! あなたのせいでこうなってるんですから、何とかしなさい!」

「うーん、流石にこの触手は、食材には向かないですかねー」


 服を溶かす触手キター!!

 こんなの完全に昭和のエロゲーじゃねーか!?

 この光景を読者に映像で見せられないのが残念だぜ!(錯乱)


「くっ、いっそ殺しなさい!」


 お前もなんだかんだ「くっころ」してノリノリじゃねーか、沙魔美。


「ウフフ、これで残ってるのは、おにいちゃんだけだね」

「っ!」


 マヲから禍々しいオーラを感じ、俺は思わず一歩身を引いた。


「何で逃げるの? やっぱりおにいちゃんも、マヲのことイジメるつもりなの? アタチはただ、おにいちゃんと遊びたいだけなのに……」

「くっ……」

「……堕理雄……逃げ……て……」

「沙魔美!」


 クソッ!

 何やってんだ俺はっ!

 自分の彼女一人守れないで、それでも男かっ!


「ウオオオオッ!!」

「! ……おにいちゃん」


 俺は剣を抜いて、全力でマヲに斬り掛かった。


 ビシィッ


「くあっ!」


 当然の如く俺の剣も物理障壁に弾き飛ばされ、俺はその場に倒れ込んだ。


「う、うう……」

「堕理雄!」

「……なんでなの? なんでみんなアタチのことイジメようとするの? アタチが何したっていうの? ……もういい……もういいよ。もう怒ったから全部全部全部全部ぶっ壊しちゃうんだからあああああ!!!!」

「キャアアア!!」

「ぐああああ!!」

「っ! みんなっ!!」


 突然触手の力が強まり、みんなが一層苦しみ出した。

 何てことだ!

 俺が下手にマヲを刺激してしまったばっかりに!

 ……。


 バキッ


「え……おにいちゃん?」

「ふうー」


 俺は自分で自分の顔面を思い切り殴った。

 ……イッテー。

 でもこれで少しだけ落ち着いた。

 ごめんみんな。

 あと少しだけ我慢してくれ。

 必ず俺がみんなを助けるから。

 ……考えろ。考えるんだ。

 どんな窮地にだって、必ず活路はあるはずだ。

 俺はそれを、麻雀を通じて親父から教わっただろ。

 何かヒントはないか。

 マヲの今までの会話の中にヒントは……。


「……おにいちゃん? どうしたの? お顔大丈夫?」

「……!」


 ……そうか。

 そんな簡単なことだったのか。


「マヲちゃん!」

「えっ?」


 ギュウッ


「! おにいちゃん!?」

「……もう大丈夫だよ、マヲちゃん」

「!」


 俺は剣を捨て、できるだけ優しくマヲをハグした。

 予想通り、攻撃ではないなら、物理障壁は発動しなかった。


「大丈夫。俺はマヲちゃんのことをイジメたりはしないよ。マヲちゃんが遊びたいなら、いくらでも一緒に遊んであげる。だからもう、大丈夫だよ」

「お、おにいちゃん……おにいちゃん、おにいちゃん……。ふえええ……ふえええええええ……アタチ、ずっと寂しかったのおおお。300年前に、怖い勇者のオジサン達がアタチのことイジメて、無理矢理アタチを閉じ込めて、300年間ずっと一人で、ホントにホントに寂しかったのおおおお」


 やっぱりそうだったか。

 この子の言ってたことは、全部そのままの意味だったんだ。

 確かに理由はどうあれ、300年間も一人で封印されてたら、そりゃ寂しいよな。

 この子は本当に、ただ誰かに遊んでほしかっただけだったんだ。


「うんうん、そうだね。辛かったよね。寂しかったよね。でももう大丈夫だよ。俺達はマヲちゃんの友達だ。だから、お願いだから、みんなの拘束を解いてくれないかな?」

「……そうしたら、みんなでアタチと遊んでくれる?」

「ああ、約束する」

「……わかった」


 マヲが指をパチンッと鳴らすと、無数の触手はスルスルと、地面に戻っていった。


「ハアハアハア……し、死ぬかと思たわい」

「でも私、ちょっと触手齧ってみたんですけど、タコみたいな食感だったんで、酢の物とかにしたら美味しいかもですよ」

「お嬢……流石やな」


 よかった。

 何とかみんな無事だったみたいだ。

 溶けた服も、ギリギリコンプライアンスに引っ掛からないくらいには、原型を留めている。


「堕理雄!」

「沙魔美」


 沙魔美が号泣しながら俺に抱きついてきた。

 前もこんなことがあったけど、一応あの時とは立場が逆になったかな。


「どうだ? 俺も少しは役に立っただろ? もうピー〇姫とは言わせないぜ」

「バカ! またそうやって無茶して……本当に心配したんだから……」

「……ごめんな」


 ……こいつもいつもこうやって、しおらしくしてれば、可愛いんだけどな。


「……おにいちゃん」

「ん? ああ、ごめんよマヲちゃん。約束通り今からみんなで遊ぼう。みんなもいいよな?」

「……まあ、堕理雄が言うなら、少しくらいなら……」

「しゃーないな。年寄りの世話も、若者の勤めやからな」


 ……俺達からすれば、ピッセも十分年寄りなんだけどな。

 怒りそうだから、言わないけど。


「じゃあ何して遊ぶ? マヲちゃん」

「私、たけのこニョッキがやってみたい!」

「え?」


 もしかして、この世界で流行ってるの?

 まあ、いいか。


「よし、いくぞみんな! たけのこ、たけのこ、ニョッキッキ!」


 こうして世界に平和が訪れたのだった(イイハナシカナー?)。

 ちなみにこれは余談だが、意外と菓乃子は、たけのこニョッキが強かった。




「もう行っちゃうの? おにいちゃん」

「ああ、ごめんよマヲちゃん。俺達はこの世界の住人じゃないんだよ。でも大丈夫。うちのアッシー君に頼めば、いつでもここに来れるからまた来るよ」

「ホント!?」

「堕理雄、あなた今私のこと、アッシー君って言った?」


 ……お前がさっき、自分で言ったんだろ?


「……ねえ、お兄ちゃん」

「ん? 何だいマヲちゃん」


 あれ?

 『お兄ちゃん』がひらがなから、漢字になったぞ?


「お兄ちゃんがこの世界に来てる間は、アタチのこと、お兄ちゃんの妹にしてくれる?」

「えっ」

「なっ!? ダメですよ! お兄さんの妹は、私だけです!」

「……堕理雄、後でちょっと、話あるから……」


 ……。

 第一妹と、第一夫人からの圧が凄い。

 ともあれ、勇者はロリBBAの妹を手に入れた。

 まったく、ロリBBAは最高だぜ!!(言ってみたかっただけ)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?