ピンポーン
はい無視。
誰だよ平日のこんな朝早くから。
今日は履修してる講義もないし、昼まで寝るって決めたんだ。
誰だろうと、絶対起きないぞ。
ピンポーン
……。
ピンポーン
ピンポーン
……。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
……真衣ちゃんだったか。
「は~い、どうしたんだい真衣ちゃ…………え」
「お兄さん! 今から私の学校に来てもらえませんか?」
そこには体操服にブルマ姿の真衣ちゃんが立っていた。
「麦茶を飲んでる余裕もない感じかな?」
「そうですね。今回もすぐに学校に向かう必要がありますので」
「あ、そう……。でもその割には、また俺のベッドに横になってるように見えるけど?」
「すいません。一番気に入ってるのは値段(元グリーンベレー隊員)なので、少しだけ休ませてください」
「それは最早まったく意味がわからないよ……。君、コマ○ドー好きだね」
「ハアァ~、この枕でいつもお兄さんが寝ているんですよね~(クンカクンカ)」
「ごめん……最近寝る位置交換したから、今そこには沙魔美が寝てるんだ……」
「ぐあっ!? なんでもっと早く言ってくれないんですか! じゃあこっちがお兄さんの……」
「真衣ちゃん、すぐに学校に向かう必要があるって言ってなかった?」
「あ、そうでした! ではお兄さんは、早く出掛ける準備をしてください」
「いや、せめて要件だけでも教えてくれないかな? その格好で大体予想はつくけど」
「はい、お察しの通り、今日は私の学校の体育祭なのです」
「やっぱりか……。あれ? でもこの間文化祭やったよね? 普通体育祭って、文化祭の前にやるものじゃない?」
「普通はそうでしょうね。でもうちの学校は、代々文化祭の後にやるのが慣例になっているんです。と言うのも、うちの体育祭は結構激しい競技が多くて……毎年怪我人が続出するので、文化祭は先にやっておくんです」
「なにそれこわい!? そんなの問題にならないの!?」
「それが何故か生徒にも保護者にもウケがよくて、特に問題にはなっていません」
「そうなんだ……」
確かに文化祭の時の雰囲気から察するに、女子校の割には大分パワフルな学校みたいだしな。
「ただ、
「そっか……確かに今時ブルマって珍しいね。もう廃止になったんじゃなかったっけ?」
「それが……うちの学校の理事長の意向で、厳としてブルマ以外の体操着の着用は認められていないんです……」
「……へえ」
その理事長とは、良い酒が飲めそうだ。
「でもさ、なんで俺が体育祭に行く必要があるの? まさか、また俺に体育祭に出場してくれなんて言わないよね?」
「もちろん違います。お兄さんには、私の
「え? 保護者? でも、親父や真衣ちゃんのお母さんは……?」
「……お父さんとお母さんは、大事な用事があって来られないらしくて……。だから、できればお兄さんに代わりに来てもらいたいなと思ったんです」
「……」
そういうことか。
確かに誰も見に来てくれなかったら、寂しいもんな。
でも親父は来ないのか。
まあ、親父に会う決心がついたと言っても、今はまだ微妙に勇気が足りないしな。
来ないと聞いて、正直ホッとした自分がいることは否定できない。
「わかったよ。俺でよければ、見学に行かせてもらうよ」
「ホントですか!」
ボッガーン
「それならマイシスターのために、私も一肌脱ぎましょう!」
「おおっ!? 沙魔美!?」
「げえっ!? 悪しき魔女!?」
沙魔美が冷蔵庫を破壊して、中から飛び出してきた。
お前今までずっと冷蔵庫の中でスタンバってたのか!?
「ごめんなさい。その前にちょっとだけお風呂に入らせてもらっていいかしら? 今にも凍死しそうなの」
「お前は、出川〇朗でも目指してるのか?」
「お兄さん! こんなバカのことは放っておいて、二人で行きましょう!」
「そんな冷たいこと言わないでマイシスター! ゴール直前で落とし穴に落ちる魔法を掛けられてもいいの?」
「ぐっ! 何て卑劣な脅しを……。もう! ニ十分しか待ちませんからね! さっさとお風呂に入ってきなさい!」
「はいはーい」
だが沙魔美が風呂から出てきたのは、それからたっぷり一時間近くが経ってからだった。
幸い学校までは沙魔美の魔法でワープしたので、体育祭にはギリギリ間に合ったが……。
「まったく! 間に合わなかったらどうするつもりだったんですか!」
「その時は私の魔法で、この体育祭の存在自体を抹消するまでよ」
「までよじゃないですよ!! 本当にあなたって人はっ!!」
……やっぱ仲良いよなこの二人。
こうして見てると、本当の姉妹みたいだ。
大分妹のストレス値が高そうだが。
それにしても、平日だというのに、結構見学に来てる保護者の数が多いな。
俺の高校は、こんなに保護者は来てなかったと思うけど。
「それはやっぱり女子校ってのもあるんじゃない? よく男親は、娘が可愛くてしょうがないって言うし」
「当然のように俺の心を読むなよ。また魔法を使ったのか?」
「使うまでもないわよ。堕理雄はホント、考えてることがすぐ顔に出るんだから」
「……そうか?」
そうなのかな。
自分じゃポーカーフェイスのつもりなんだけどな。
いつものことながら、つくづく沙魔美には敵わん。
「では私は行ってきますので、ここで見ていてくださいね、お兄さん」
「うん、頑張ってね」
「マイシスターの活躍は、この8ミリビデオカメラにしっかりと収めておくからね!」
「どっから出したんですかそれ!? てか、今時8ミリビデオカメラて!?」
「8ミリビデオカメラと言えば昔、加〇ちゃんケ〇ちゃんごきげんテレビで、視聴者に貸し出しサービスしてたわよね」
「古っ! 平成生まれにわからないネタはやめてください!」
「真衣ちゃん、開会式始まるみたいだよ」
「あっ、ホントだ。では行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
真衣ちゃんは元気に、生徒達の列に向かって走っていった。
沙魔美は真衣ちゃんの後ろ姿を、8ミリビデオカメラで撮っている。
「フフフ、この動画今度、スパシーバで上映会しましょっと」
「お前本当に、真衣ちゃん好きだよな」
「もちろんよ。私がこの世で一番大事なものは何か知ってる?」
「……さあ?」
「『家族』よ」
「……なるほどな」
沙魔美らしい。
多分沙魔美は元来、愛に飢えてるんだろう。
愛することに飢え、愛されることに飢えている。
だからその愛情を一番注げる家族という宝物を何よりも大切にし、愛情を一番注いでくれる家族という拠り所に誰よりも執着する。
その偏執的とも言える、深い、そして歪んだ愛情を向けられる俺や真衣ちゃんは堪ったものではないが、程度の違いこそあれ、どこの家庭にも似たような部分はあるのかもしれないと、ふと思った。
「あら、夜田さんのお兄さん。いらしてたのね」
「えっ」
聞き覚えのある声に振り返ると、真衣ちゃんの担任の、
ふおっ!?
「生先先生……この学校は、先生方もブルマ着用なんですか?」
「いいえ、これは私の私物です」
「あ……そうですか」
私物!?
今、私物って言った!?
教師が私物でブルマ持ってて、しかもそれを体育祭で着てくるの!?
この学校に風紀委員はいないのか!?
だが生先先生は俺の困惑など歯牙にも掛けない様子で、俺の耳元で言った。
「文化祭の時は、なんで体育倉庫に来てくれなかったの? 私ずっと待ってたのに」
「え、いや、それは……」
やっぱこの先生ヤベー!!
こんな昭和のエロ漫画に出てくるような人が、教師やってていいのか!?
口調も敬語になったりタメ口になったりだし、これも絶対計算でやってるだろ!?
「堕理雄……体育倉庫っていうのは、何のことかしら……」
「ヒッ」
沙魔美が獲物に襲い掛かる直前の、蛇の様な眼で俺を睨んでいる。
なんで俺はいつも無実の罪で、愛が重い彼女から殺意を抱かれなくちゃいけないんだ……。
「うふふ、仲が良さそうで羨ましいですね。それでは、うちの体育祭を存分に楽しんでくださいね」
「はあ」
生先先生は妖艶な笑みを浮かべながら、開会式の輪の中に入っていった。
「……堕理雄、後でちょっと、話あるから……」
「……うん」
後でちょっと話あること多くない!?
俺はちっとも悪くないのに!(血涙)
俺はキリキリと差し込む様な胃痛と戦っていたが、パーンというピストルの音で我に返ると、いつの間にか最初の競技の百メートル走が始まっていた。
「あ! 堕理雄! 次の走者はマイシスターみたいよ! 鉢巻が赤だから、マイシスターは紅組みたいね」
「そうか、応援してあげないとな」
俺は普通に「真衣ちゃん頑張れー」とエールを送ったが、沙魔美は両手に無数のペンライトを持ってオタ芸を披露し始めた。
「ウォイ沙魔美!? 恥ずかしいから今すぐやめろ! それにそれは応援のジャンルが違うだろ!?」
「何よ! 肘川のカリスマ打ち師と呼ばれた、私の華麗な舞を見たくないの!?」
「見たくないし、自分の彼女にそんな二つ名が付いていることは知りたくなかった」
いいから黙って見てろよ。
「もう、せっかく練習してきたのに。あ! マイシスターがスタートしたわ! 堕理雄、ここはやっぱり、ゴール直前でマイシスターのブルマをずり下ろすことで派手にコケさせて、
「もしそんなことをしたら、俺は一生お前を許さないからな」
「ちぇっ。あー! マイシスターが一位よ! 流石私達のマイシスターね! ああっ! ビデオカメラで撮るの忘れてた!」
あーもうめちゃくちゃだよ(呆れ)。
もういいからこいつは放っておこう。
俺は満面の笑みでこっちに手を振っている真衣ちゃんに、全力のガッツポーズを送った。
真衣ちゃんは良いことをして親から褒められた子供みたいな顔で、とてもニコニコしていた。
可愛いなあ。
俺は一人っ子だったから、真衣ちゃんみたいな妹ができて、本当に幸せだ。
これは確かに、沙魔美がちょっかいを出したくなっちゃうのも、少しはわかる気がする。
「次は借り物競争みたいね。今度こそマイシスターのハプニング映像を、このカメラに収めるわよ」
「ハプニング前提で話をするな。なんでお前はそんなに、三流バラエティ番組のディレクター気質なんだ」
「だって
「お前はどこの業界に生きてるんだよ。俺達はただの大学生だぞ」
「この時の堕理雄は、まさか自分がテレビ番組の制作会社に就職することになるとは、夢にも思っていなかった」
「勝手に変なナレーションするな! しないよ! 制作会社に就職なんて!」
どっちかって言ったら、沙魔美のほうが向いてるだろ。
……いや、そうなったら多分番組はメチャクチャになるから、やっぱり沙魔美も向いてないな。
そう思っている内に、借り物競争が始まったようだ。
しかも今回の真衣ちゃんは一組目だからもう出番だ。
頑張れ真衣ちゃん!
真衣ちゃんは誰よりも速く、お題の紙を取りに行った。
そしてお題の紙を開くと、一瞬だけ目を丸くし、その直後鼻息荒く俺のところに駆け寄ってきた。
え? 何何!? どんなお題だったの!?
「お兄さん! 私と一緒に来てください!」
「う、うん、いいけど……お題は何だったの?」
「それは……後で言いますから!」
「あ、うん、じゃあ行こっか」
俺は真衣ちゃんに手を引かれて、ゴールに全力で走った。
今回は残念ながら一位ではなかったが、真衣ちゃんはさっき以上に満足気な顔をしていた。
「ごめんね真衣ちゃん、一位になれなくて」
「いえいえ、お気になさらないでください」
「ところで、お題は何だったの?」
「……これです」
真衣ちゃんはおずおずと、お題の紙を俺に渡してきた。
お題にはこう書かれていた。
『ご飯の一番のお供と言えば何?』
そんなの人によるじゃん!?
こんなフワッとしたお題アリなの!?
それこそ三流バラエティ番組でありそうなネタだ。
てか、真衣ちゃんにとって、俺ってご飯のお供だったの?
俺、いつか真衣ちゃんに食べられちゃうのかな……。
「安心してください。私がお兄さんを食べたとしても、お兄さんは私の中で永遠に生き続けます」
何そのサイコさんな発想!?
食べるって比喩じゃなかったんだ!?
やっぱり一番ヤンデレベルが高いのは真衣ちゃんなんじゃ……。
俺はヤンデレシスターとそそくさと別れ、ヤンデレ彼女のところに帰って来た。
ハァー、俺の周りには、本当にろくなのがいない……。
「また失礼なことを考えてるわね堕理雄。あなたは自分がどれだけ恵まれた環境にいるか、イマイチ自覚に欠けているわよね」
「大変な紛争地帯にいるという自覚は、十二分にあるよ」
「なるほど、虎穴に入らずんば虎子を得ずというわけね」
「むしろ何気なく入ったほら穴が、虎の巣だったという感じなんだが……」
しかも一方通行の。
「フム、それはそうと、私はまたマイシスターの雄姿を、カメラに収めるのを忘れちゃってたんだけど、どうしたら忘れないでいられるかしら?」
「まずは病院に行こう。そして記憶障害かもしれないから、何日も掛けて検査してもらうんだ。もしくは自分がバカだということを、十二分に自覚しろ」
「なるほど、病は気からってことね。大事なのはポジティブシンキングよね!」
「お前の頭はポジティブすぎだ。何だ? お前の頭には都合の悪いことを、ろ過するフィルターでも常設されてんのか?」
「フフフ、私の頭は福利厚生が行き届いてるからね。スターバッ〇スの割引券も、毎月貰えるわよ」
「お前の頭スゲーな! 俺にも割引券分けてくれよ」
「アラアラ堕理雄、夫婦漫才の練習をしている間にも、次の競技が始まるみたいよ」
「今のは練習だったのか……」
だとしたら、さっさとコンビは解散したいんだが……。
それにしても、怪我人が続出するって言ってた割には、意外と普通の競技ばかりだな。
真衣ちゃんなりのジョークだったのかな?
「次の競技は障害物競走みたいね。でも大丈夫かしら? ワニの住む池の上を綱渡りとかあるけど、最近の女子高生は度胸あるわね」
「え……」
これだー!!!
絶対にこれが原因だ!!
オイオイこれも理事長の方針なのか!?
こんなの絶対にPTAから苦情出るだろ!?
しかもワニの池だけじゃなく、他にも地面から槍が飛び出るトラップや、巨大な鉄球に追い掛けられるゾーンなんかもある。
完全に
何だ? これゴールに古代の秘宝でも眠ってるのか?
いくらギャグ小説だからって、これは許されないだろう……。
だが俺の心配をよそに、女子高生達は目を爛々と輝かせながら、スタート地点に歩いていく。
どうしたんだ君達!? 集団催眠にでも掛かっているのか!?
しかしアナウンスに流れた内容を聞いて、俺にはその理由がわかった。
どうやら一位の選手には、スノー○ンのサイン色紙がプレゼントされるらしいのだ。
いやでも、そこまでしてスノー○ンのサイン欲しいか!?
女子高生にとってスノー○ンのサインって、命を賭ける程の価値があるものなの!?
まあ、あるのかもしれないし、俺に女子高生の価値観はわからないが、万一の場合に備えて、俺は沙魔美に魔法でフォローするように言った。
「フフフ、大丈夫よ堕理雄。女子高生はスノー○ンのサインのためだったら、範馬勇〇郎とだっていい勝負をするわ」
「地上最強の生物とも!?」
やっぱり女子高生が最強の生物じゃん。
じゃあもう、とやかくは言うまい。
俺は黙って行く末を見守ることにした。
そして実際に障害物競走が始まってみれば、俺の心配は完全に杞憂だったことが発覚した。
みんなくのいちの様な身のこなしで軽々と障害物を突破していき、むしろワニに至っては逆にチョークスリーパーで絞め落としていた。
終わってみれば全員ほぼ無傷でゴールしており、何人か傷ついている生徒もいたが、それは競技中についた傷ではなく、障害物競走の修業中に自ら負った傷だそうだ。
幽遊〇書の仙〇忍かよ……。
ちなみに真衣ちゃんはスノー○ンのサインには然程興味がないのか、安全第一で無理せず進んでいたが、他の選手がワニと格闘している間に、漁夫の利で一位でゴールしていた(教訓)。
「フフフ、若いっていいわね。私ももう一度、青春したくなっちゃったわ」
「今のを見てその感想が出てくるのはお前くらいだよ」
それにお前もまだ、19歳のひよっこじゃねーか。
「そしてもちろん今のも、ビデオカメラに撮り忘れたわ(ドヤッ)」
「せめてドヤ顔はやめろ。お前は今日何しに来たんだ? まだオタ芸しか披露してねーじゃねーか……って、オイ!」
何故か沙魔美が突然、俺の尻を撫で始めた。
何してんだこいつ!?
「いえね、例によって文字数が思ったよりかさんでしまったから、この続きは
「だからってなんで俺が撫でられる側なんだよ!」
チャンネルはそのまま!