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第132魔:お久しぶり

「オーワングランプリですって……」


 沙魔美は眉間に皺を寄せた。


「フン、何で私がそんなものに出なきゃいけないのよ、バブ君」


 ついにあだ名がバブ君になってしまった。

 それだと入浴剤みたいになっちゃわない?


「アハッ、もちろん辞退しても構わないよ。嫌々参加されても面白くないからね」

「え」


 え。

 そうなの?

 てっきり強制参加だとか言われると思ったのに。


「ただ、優勝者には商品として、で、何でも一つ願い事を叶えてあげることになってるんだけど、それでも辞退するかい?」

「「っ!」」


 何だと……。

 それは随分と太っ腹だな。

 自分のことを魔法使いだなんて言うオーゼットのことだ。

 叶えらえる範囲とは言いつつも、大抵のことは叶えられるのだろうから、実質ドラ〇ンボールみたいなもんだなこれは。


「ところでノーズェくん、君は優勝したら何を叶えてほしいんだい?」


 っ!


「ふ……ふふ……、そうですね……私はやっぱり、『この方とお友達になりたい』……ですかね」

「「っ!?」」


 ノーズェが俺のほうを暗い瞳で見つめながら言った。

 マジかよ……。


「もちろん……そうなった暁には、この方には私の星に移住していただきますけど……。ふ……ふふ……」

「「っ!?!?」」


 えーーーー!!!!


「フザけんじゃないわよッ!! そんなの私が死んでも許さないわッ!!!」

「ふ……ふふ……、それはオーゼット様がお決めになることです……」

「アハッ、まあまあ二人共、落ち着いて落ち着いて。――というわけだよ沙魔美くん。堕理雄くんをノーズェくんに取られたくなかったら、君がオーワングランプリに出場して優勝するしかないってことさ。それでも辞退するかい?」

「……クッ」


 ……うわあ、またかよ。

 また俺はピー〇姫ポジなのかよ。

 いい加減ワンパターンで飽きてきたよこのポジション。

 たまには俺もマ〇オの側になりたいよ。

 ……いや、それはそれで大変そうだから嫌だな。


「……チッ、バブ君の手のひらの上で踊らされるのはいい気はしないけど、今回だけは乗ってやるわよ。堕理雄に手を出そうとした以上、そこの陰キャ女も、私の手でブチのめさないと気が済まないしね」

「ふ……ふふ……」


 ノーズェは不敵な笑みを浮かべた。

 てか、お前もゴリゴリの陰キャだぞ沙魔美。

 友達菓乃子しかいないし。


「アハッ、これで沙魔美くんの出場も決まったね。これは楽しくなりそうだ。――でも、ノーズェくんに勝つのは難しいかもしれないね」


 っ!


「な、なんでよ!?」

「ノーズェくんには、僕が直々に『畜城ちくじょう』を授けたからさ」

「畜城!?」


 何だそりゃ!?

 言葉の響き的に、ただならぬものを感じるが……。


「……あの、一つだけいいかな?」

「堕理雄……!?」

「アハッ、何だい堕理雄くん。僕に質問かい?」

「ああ」


 こうなった以上は例によって俺が沙魔美にできることはほとんどないが、それでも忍者として、少しでもこいつから情報を引き出しておかなければ。


「あんたは一体何者なんだ? さっきは俺達の親みたいなもんだって言ってたけど」


 そう。

 そこがある意味一番のキモだ。

 このオーゼットという得体の知れない美少年は、如何なる存在なのか。

 それがわからないことには、対策も立て辛い。


「アハッ、そうだね。確かに君達にはそれを知る権利があるよね。――そうだな、その前に一つ、僕から堕理雄くんに質問をしようと思う」

「え?」


 俺が質問される側になるの?

 質問を質問で返すと、吉良〇影にメッチャキレられるぞ?


「――『魔法』って、何だと思う?」

「っ!?」


 ……『魔法』。

 魔法が何かだって?

 そんなのちゃんと考えたこともなかったな。

 魔法は魔法だしな……。


「……さあね。超常的で、不可思議な力だとしかわからないよ」

「アハッ、なるほどね。――でもね、魔法は別に、んだよ」

「え」

「言わば魔法は、みたいなものなのさ」

「「っ!?!?」」


 オーゼットの発言には、沙魔美も面食らっている。

 実は沙魔美も、使っておきながら魔法の仕組みについては詳しくは知らないのかもしれない。

 俺達の大半が、スマホの内部構造を知らないまま使っているのと同様……。


「科学というのは『1+1=2』というのを前提に成り立っているだろう?」

「え? ああ……」


 オーゼットは尚も続ける。


「それに対して魔法は、1+1が『3』になったり、『4』になったりするのさ」

「「っ!?」」


 何言ってんの!?

 急に哲学的な話になってきて、頭がついていけないんだけど!?


「ここでポイントになるのが、『魔力』だ」

「……魔力」

「そう。堕理雄くんも知っての通り、魔法を使う際は魔力が必要なんだけど、ことによって、法則がねじれ、超常的なことが起きたように見えるだけなんだよ」

「「っ!」」

「結局は魔法も、科学の一種なのさ。ただ、大半の人間は『魔法』の存在自体を知らないだけだ」

「……」

「だが、今からに、僕だけが魔法の存在に気付いた」

「「っ!!!」」


 ご、5億年前だって……!?

 じゃあ、オーゼットは……。


「そこで僕は、魔法を使っていろいろなことを実験したんだ。その一環が、僕の身体を不老不死にすることだった」

「……」


 つまり、オーゼットは5億歳ってことか……?

 オイオイ、今まではキャリコの5000歳が最年長だったのに、一気に桁外れの最年長者が出てきたぞ。

 インフレが甚だしいな。


「でも程なくして、僕の故郷の人間は僕以外絶滅してしまってね。僕の知る限り、人間はこの世に僕一人になってしまった」

「そんな……」


 それは……寂しかっただろうな。


「だから僕は銀河中を駆け回って、各地の生き物をさせたんだよ」

「「っ!!!」」


 な、何だって……。

 じゃあ、こいつは俺達にとって――。


「アハッ、だから僕は『親』みたいなものだって言ったのさ。僕の可愛い子ども達」

「――!」


 オーゼットはゾッとする程の妖しい笑みを浮かべた。


「よく猿が人類に進化した確率は、数千億分の一だなんて言われることもあるけど、それだけ低い確率だ、本来ならそんなことは起こらないはずだったんだよ。僕がしない限りね」

「……」


 とてもにわかに信じられる話ではないが、何故だか俺は、オーゼットの言っていることが嘘だとは思えなかった。

 俺達の中の本能が、創造主とも言えるオーゼットの言葉を受け入れているからなのかもしれない。

 ――だが、何故だろう。

 俺の心の中に、暗い靄のようなものが広がっているのは。

 これは意図的に人類が作られたということに対する、無意識の内の嫌悪なのか?

 まるで自分達が実験サンプルみたいだと知らされたことによる、根源的な恐怖なのか?

 ――しかし、冷静になって考えてみれば、人類も他の生物達に対して、品種改良などを長年に渡って繰り返してきたのも事実だ。

 それもオーゼットが人類にしたことと一緒だと言われれば、俺には何も言い返せない。

 これも、蛙の子は蛙ってやつなのだろうか……?


「他にも地球以外の惑星では、いろんな生物をヒト型に進化させたものだよ。魚だったり、山羊だったり――無機物をヒト型にしたこともあったね」

「なっ!?」


 それってつまり、ピッセやキャリコ達の先祖も、俺達同様オーゼットに作られた生物だったってことか!?

 ――なるほど。

 前からやけに異星人達が地球人と似た容姿をしていると思っていたが、そういうことだったのか。

 オーゼットによって意図的にそう作られていたのだとすると、それも当然だ。

 ある意味俺達は全員、『家族』みたいなものだったんだ。


「そして今から一万年程前、僕は満を持して『魔女』の製造に取り掛かることにした」

「「っ!!」」


 ……魔女。


「僕は魔法を使う術は知っていたけど、自らの中に魔力を貯蔵しておくことはできなかった」

「貯蔵……?」


 どういうことだ?


「実は魔力というのはね、この世の全ての空間に満ち溢れているものなんだよ。目に見えないだけでね」

「「っ!」」

「だけど普通の人間は、その魔力を体内に貯めておくことはできないんだ。僕を含めてね。だが魔法を使うためには、一時的に魔力をどこかに貯蔵しておかなければならない。車を走らせるためには、タンクにガソリンを溜めなければならないようにね」

「……」

「だから僕は魔法を使う際は、このステッキを魔力の貯蔵庫代わりに使っているんだけど」


 オーゼットは手に持っているステッキを、フリフリと振った。

 そうか、だからさっきオーゼットは沙魔美の魔法を解除する際に、あのステッキでコツンと地面を突いたのか。

 きっとあれが魔法発動のスイッチなんだ。


「これだと何かと効率が悪くてね。何とか体内に魔力を貯めておけないかと苦心した末に開発したのが、『核苞かくほう』ってわけさ」

「……核苞」


 それってエストが自分の身体から取り出した、魔力の源って沙魔美が言ってたやつか。

 あの時沙魔美は核苞をエンジンに例えてたけど、正しくはガソリンタンクの役目も担ってたわけか。


「そして核苞を、銀河中の四つの一族にだけ植え付けたんだ。――でも、何故か核苞は女の子にしか遺伝しなくてね」

「っ!」

「だから僕は僕以外の魔法を扱える存在を、『魔女』と呼ぶことにした。――こうして出来上がったのが、東西南北の魔女ってわけさ」


 これにて昔話はお終いとばかりに、オーゼットは両手をパンと合わせた。

 ……それが魔女のルーツってことか。

 言われるまで気付かなかったが、確かに今まで魔法を使っていたのは、全員女の人しかいなかった。

 それは核苞を保有できるのが、女の人だけだったからなのか。


「フーン、なるほどね」


 っ!?

 が、珍しく黙って話を聞いていた沙魔美から発せられた言葉は、何とも気のないものだった。

 結構な衝撃事実を語られたと思うのだが、沙魔美には思うところはないのだろうか?


「ま、そんなことけどね」

「さ、沙魔美!?」

「アハッ、流石沙魔美くん」


 オーゼットは心底楽しそうな顔をしている。


「別に私達のルーツがどうだろうが、そんなことは毛程も興味ないわ。私が興味があるのは、B漫画業界の行く末だけよ」


 それもどうなんだ沙魔美!?

 まあ、その姿勢はプロのB漫画家としては立派なのかもしれないが……。


「私達が生まれてきたのがあなたの意図したことだろうが、単なる偶然によるものだろうが、そんなのどっちでも大差ないわ。大事なのは今、この時、私達がこの世界に生きているということだけよ。それとも、『よくも私達を弄んだわね!』とでも言ってほしかったのかしら、バブ君?」


 沙魔美は腕を組んで(胸を強調して)、オーゼットを見下ろしながら言った。

 こいつは本当に……。


「アハッ、それもそれで面白いと思ったのは本音だけどね。――どうやら僕が思ってた以上に、娘達は強く育ってくれてたみたいで、お父さんは嬉しいよ」

「フン、残念ながら私にショタ属性はないから、あなたにそう言われても萌えないわね」

「アハハハッ、では本題に戻そうか。肝心のオーワングランプリの日程だけど――」


 あ、そうか。

 オーワングランプリの話をしてたんだった。

 話が壮大になりすぎて、すっかり失念していた。


「開始は、今から二時間後とする」

「なっ!? に、二時間後!?」


 それじゃほとんど準備なんかする暇ないじゃないか!


「君ならだろ、沙魔美くん?」

「フン、そうね」

「沙魔美!?」


 沙魔美は腕組み姿勢のまま、何でもないことのように言った。


「因みにあなたはその大会には出場しないのバブ君?」

「アハッ、僕は主催者だからね、出場はしないよ。それに僕が出たら――から面白くないしね」

「「っ!」」


 大した自信だな。

 まあ、オーゼットは俺達にとって、神様とも呼べる存在だ。

 それくらいの実力差はあって当然か。


「だから沙魔美くんの一番のライバルは、やはりノーズェくんになるだろうね。ま、、選りすぐりの戦士を用意してるから、楽しみにしててよ」

「……フフフ、面白いじゃない。全員私がワンパンで蹴散らして、つまんない大会だったってSNSで叩かれるような状況を作ってやるわよ」


 なんでお前はいつもそういう言い方しかできないんだ……?

 完全に台詞が悪役のそれだろ……。


「アハハハッ、それもいいかもね。ではこれを渡しておくよ」

「え?」


 オーゼットは懐からチケットのようなものを取り出し、沙魔美に向かってトランプ投げみたいに飛ばしてきた。

 沙魔美はそのチケットを、人差し指と中指だけでキャッチした。


「……これは?」

「オーワングランプリの会場への入場券さ。そのチケットに念じれば、僕が造った特設会場までワープで運んでくれるから、準備が出来次第、来ておくれ」

「……わかったわ」

「ただし、遅刻した場合は不戦敗にするから、気を付けてね」

「言われるまでもないわよ、バブ君」

「アハッ、では、僕達は先に行って会場の準備をしておこうか、ノーズェくん」

「グー……グー……。ふがっ!? あ、そ、そうですねオーゼット様……」


 寝てたーーー!?!?!?

 どうりでノーズェの声が一切聞こえないなと思っていたら、立ったまま寝てやがったよこいつ!?

 どうやら魔女の中の核苞には、神経を図太くする作用もあるらしい(ホントかよ)。


「アハッ、それでは二時間後に。シーユー」

「ふ……ふふ……、しーゆー」


 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、オーゼットとノーズェは煙みたいに消え失せた。


「……なあ沙魔美、本当に大丈夫なのか? ノーズェはオーゼットから『畜城』とかいうのを授かったって言ってたぞ? それがもしも壊錠かいじょうよりも上の、スーパーサ〇ヤ人3的なものなんだとしたら、お前に勝ち目はないんじゃ……」

「……」


 沙魔美は神妙な顔をしている。

 ……え。

 こいつまさか。


「オイ、まさか……まったくの無策だなんて言わないよな?」

「……大丈夫。策は今から考えるわ」

「それを無策って言うんだよ!?」


 本当にこいつはいつもいつも!

 その場のノリだけでカッコつけた態度取りやがって!

 こっちは人生懸かってんだぞ!?


「オーホッホッホッホ! どうやらワタクシの出番のようですわね!」

「「!!」」


 この鼻につく笑い方は!


「お久しぶりですわね東の魔女さん。ご機嫌はいかが?」


 振り返るとそこには、例によってヘタオにお姫様抱っこされたエストが、ドヤ顔を浮かべていたのだった。


 次回、「今度こそオーワングランプリ開幕!?」。デュエルスタンバイ!

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