「アハッ、リーブルくんのお相手は――キャリコくんだね」
「「「!!」」」
「ンフフフ、左様ですか」
キャリコは意気揚々と立ち上がった。
「ウオオオオオオッ!! スゲーなキャリコ!! あのリーブル様と戦えるなんて!! ――嗚呼! でもオレはどっちを応援すればいいんだあああッ!!!」
例によってラオがやかましく吠えている。
ラオって獅子ってよりは、どっちかと言うと犬みたいだよな。
「ハハッ、てことは次はウチと自分のリベンジマッチってわけやな。今度こそどっちが上か、白黒つけようや、魔女」
っ!
「フフフ、初めて会った時にあれだけ黒焦げの焼き魚にしてあげたのに、まだ懲りてないみたいね。――いいわ。今度こそあなたを亡き者にして、菓乃子氏は私の彼女だってことを証明してやるわよ、カマセ!」
「ピッセや! それに菓乃子はウチの女や! 自分なんかに渡さんわ!!」
「ちょ、ちょっと二人共! こんなところで変な争いはやめてよ!」
親の顔より見た光景。
――しかし、まさか沙魔美とピッセが戦うことになってしまうとはな。
この二人が戦うのは、ピッセが地球に来た時以来だ。
今まではゴ〇ウとベジ〇タよろしく、ずっと共闘してきたからな。
あれから二人共更に強くなったみたいだし、今戦ったらどちらが勝つかは、俺には読めないな……。
「ああああああああ姐さあああああんッ!!! オレ喉が潰れるまで応援しますんで絶対勝ってください姐さああああああああああんッッ!!!!」
だからうるさいぞラオッ!!
その前にお前はお母さんの応援をしてやれよ!
「アハッ、ではゲット・レディ――」
オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、闘技場のノーズェとターラスが観客席に転送され、その代わりリーブルとキャリコが闘技場に送られた。
そして闘技場に飛び散ったノーズェの血液なども綺麗サッパリ消え去った。
……そうだな、少なくとも
まったく、ほとほと厄介な魔法を使うよなノーズェは。
「ふ……ふふ……、オーゼット様、私頑張りました……。褒めてください……」
「アハッ、そうだね。流石は僕が見出したノーズェくんだ。――よくやったね、僕も鼻が高いよ」
「ふ……ふふ……、ふふふふふふふふふふ……」
ノーズェは不気味な程顔をニヤニヤさせている。
てかノーズェは壊錠したままだけど、それ解除してくれないの!?
デカい亀もメッチャ幅取って通路を妨げてるし、何よりまだノーズェの身体から血が滴ってて気が気じゃないんだけど!?
すぐ隣に座っているオーゼットは怖くないのか……?
まあ、オーゼットが怯えてる姿なんて、それこそ想像も付かないが。
「ンフフフ、それでは一万年も宇宙海賊のトップとして君臨してきた方の力、存分に
キャリコはメガネを光らせた。
完全にマッドサイエンティストの顔になっている。
「ふっふっふ、あんたの噂もアタシはよーく知ってるよ伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴート」
が、流石はリーブル。
鷹揚な態度でキャリコの挑発に応じている。
「ンフフフ、それは光栄ですわ」
「でも、アタシのことはいくら研究しても
「? どういうことでしょう?」
「アタシの能力はいくら研究したところで、
「「「っ!」」」
……オォウ。
そこまで言い切るか。
大した自信だ。
「ンフフフ、ンフフフフフフ。それはそれは――とっても楽しみです」
キャリコはオモチャを前にした子供みたいに嬉々としている。
普段は極めて冷静に振る舞っているキャリコだけど、きっとこっちが本当のキャリコの姿なんだろうな……。
「アハッ、今回もドラマチックな激闘を期待しているよ。では第三試合――始め」
「ンフフフ」
試合開始の合図と共に、キャリコは手元のタッチパネルを素早く操作した。
すると、キャリコの全身を仮面ラ〇ダーみたいなカッコイイスーツが覆った。
ニャッポリート!?
あ、あれは!?
「ンフフフ、これぞ私が開発した伝説の戦闘用特殊スーツキュイイインジャキイイインブジュワアアアアンです」
ネーミングセンスはキャリコだからしょうがない!
だが、伝説の戦闘用特殊スーツキュイイインジャキイイインブジュワアアアアンだと……!?
見たところ、それこそ仮面ラ〇ダーみたいに戦闘能力を劇的にアップさせる効果がありそうだが……?
「ふっふっふ、なるほど、確かに大した戦闘力だ。アタシの天秤がこんなにも振り切ってるよ」
ん? 天秤?
……ああ、確かに言われてみれば、リーブルの頭に乗っている天秤みたいなオブジェが左側に大きく傾いている。
あれが何だっていうんだ?
ひょっとして、相手の戦闘力をあれで計測してたりするんだろうか?
だとすると、天秤の右側がリーブルの戦闘力で、左側が今のキャリコの戦闘力ってこと?
それじゃ圧倒的にキャリコの戦闘力のほうが上ってことになっちゃうけど、なんでリーブルはあんなに余裕なんだろう……。
「ンフフフ、本番はこれからですよ。では――検証スタート!」
「っ!」
キャリコは無数の残像を辺りに散らばせながら、リーブルに突っ込んでいった。
あのスーツにはあんな効果もあるのか!?
あれじゃキャリコがどこから攻撃してくるかは読めないじゃないか!?
――だが、その時だった。
ガコンッ
「「「っ!?」」」
リーブルの頭の天秤が、音を立てて水平になった。
「なっ!?」
その途端、キャリコの残像が一つ残らず消滅したのだった。
何が起きたんだ!?
「くっ! これは……。くおおおおおっ!」
が、キャリコはそのまま疾風迅雷とも言うべき驚異的なスピードで、嵐のような拳のラッシュを繰り出した。
「ふっふっふ、だから
「っ!」
しかしリーブルはキャリコのその拳を、全て両の手のひらで一つ残らず受け止めている。
あのスピードを物ともしないとは、伝説中の伝説の宇宙海賊の名は伊達じゃないな……!
だが、さっきから何か違和感があるんだが、いったい何だろう?
「くうっ!」
キャリコは後方に跳んで、リーブルと距離を取った。
「ハアアアアアッ!!」
そして両手を広げて前方に突き出すと、そこからエネルギー波のようなものをリーブルに向かって放った。
オイオイマジでドラゴ〇ボールみたいになってきたな!?
一応これはギャグ小説だったはずなんだけど……。
「ふっふっふ」
が、リーブルも同様に両手を広げて前方に突き出すと、キャリコとまったく同じエネルギー波を放出し、それが闘技場の中央で衝突して、相殺されたのだった。
そんな!?
リーブルもエネルギー波が出せたのか!?
……いや、恐らくこれは。
「ンフフフ、そういうことですか。――私の能力を、
「「「!!」」」
……そう。
まさしく奪ったという表現が相応しい気がした。
恐らくリーブルの能力は、相手の戦闘能力を奪って自らの力とするというものなのではないだろうか?
いかにも海賊らしい能力だ。
そしてそれならリーブルが永年宇宙海賊のトップに君臨していた理由も、一万年以上も生きている原因も説明が付く。
ひょっとするとリーブルは、
つまりリーブルはデスノ〇トの死神の如く、誰かから寿命を奪い続ける限り、半永久的に生き続けることができるのでは……?
だが、何だろう。
それでも尚、俺の中で違和感が拭えないのは……。
「……いえ、違いますね」
っ?
キャリコは自らの仮説を否定するように、首を左右に振った。
「能力を、
均す?
どういうことだ?
「ふっふっふ、流石は伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴートだねえ。こんなに早くアタシの能力を正確に看破したのは、一万年も生きてきてあんたが初めてだよ」
「……ンフフフ、それはどうも」
そう言うキャリコだが、明らかにいつもの余裕がなくなっている。
「――その通り、アタシの能力名は『
「「「!?!?」」」
つまり……どういうことだってばよ?
「アハッ、無粋を承知で、僕から解説するとね」
「っ!」
無粋を承知でオーゼットが解説してくれるらしい。
「例えばキャリコくんの力が100で、リーブルくんの力が60だったとするだろう?」
「……ああ」
「となると二人の力の平均は80。だから二人の力が共に80になるように、キャリコくんの力を20だけリーブルくんに
「っ!?」
「リーブルくんは僕が
「……」
なるほど。
俺が感じていた違和感の正体がわかった。
リーブルがキャリコの力を奪った際、キャリコの頭の天秤が
単純に相手の力を奪って自らの力にプラスしたのであれば、天秤は右側――つまりリーブルの側に傾いていたはずだからだ。
だからリーブルは、自分の能力をそんな便利なものじゃないなんて卑下していたのだろう。
でも、実際これでは力を対等にしただけで、相手よりも強くなったわけではない。
誰とでも対等になれる代わりに、誰の上にも立てない。
それなのに、リーブルは宇宙海賊の頂点に立っている。
これは明らかに矛盾していると言えよう。
――恐らくまだ何か秘密があるのだ、リーブルの能力には。
「ふっふっふ、じゃあそろそろこの試合もお開きにしようかね」
リーブルが右手を振ると、リーブルの右の手のひらから光る鞭のようなものが伸びてきて、リーブルはそれを掴んだ。
な、何だありゃ!?
「ンフフフ、私はまだまだあなたを研究していたいんですが、もう少しお付き合いいただけませんか?」
「残念だけど気が短いんだよアタシは。この『
「ンフフフ」
見たところただの光っている鞭にしか見えないが、あれのどこが最強の武器なんだ?
「面白いですね。その鞭の性能、是非とも目の前でじっくり観察させてください!」
キャリコが両手を天に掲げると、空から二本の大振りなドリルが降ってきて、それがキャリコの左右の腕にそれぞれ装着された。
ウオオォ!
ドリルは漢のロマン!!(キャリコは女だが)
「ンフフフ、これが私のリーサルウェポン、伝説のドリル兵器ギュルルルヅドドドジュンジュワ~です!」
最後のとこだけ何か毛色が違くない!?
もうキャリコのネーミング何でもアリだな……。
が、キャリコが伝説のドリル兵器ギュルルルヅドドドジュンジュワ~を装着した途端、リーブルの天秤がまたしても左側に大きく傾いた。
「お覚悟を!」
キャリコは伝説のドリル兵器ギュルルルヅドドドジュンジュワ~を前方に突き出し、それを高速回転させながらリーブルに突貫していった。
「ふっふっふ」
ガコンッ
「「「っ!!」」」
しかし、リーブルの天秤は再度音を立てて水平になった。
すると、伝説のドリル兵器ギュルルルヅドドドジュンジュワ~は見るからにか細く萎縮した。
「なっ!?」
「ふっふっふ」
リーブルは左手だけで伝説のドリル兵器ギュルルルヅドドドジュンジュワ~を受け止めた。
やはり力が対等になっているだけに、お互い致命傷は与えられないようだ。
――が。
ビシィッ
「アアアアッ!?」
リーブルが
何っ!?
「キャリコッ!!?」
「母様ッ!!?」
「お母さんッ!!?」
「ママッ!!?」
キャリコの娘達も、皆一斉に身を乗り出した。
さもありなん。
今現在キャリコとリーブルの力はまったくの対等になっているはずなのに、リーブルの攻撃だけが一方的に致命打になるのは完全に矛盾しているからだ。
「ふっふっふ、これが
「「「っ!!?」」」
何てチートな武器なんだ!?
よくRPGとかに、相手の防御力を無視してダメージを与えられる武器とかがあるけど、それと似たようなものか……?
オイオイマジかよ。
リーブルが
つまりリーブルは、
こんなの過去最高にチートだろ!?
これじゃ誰もリーブルには勝てないじゃないか!
「ふっふっふ、とどめだよ!」
リーブルは怒涛の如く鞭の雨をキャリコに降らせた。
「アアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「キャリコーッ!!!」
「母様ーッ!!!」
「お母さーんッ!!!」
「ママーッ!!!」
娘達の悲痛な叫びも虚しく、キャリコの伝説の戦闘用特殊スーツキュイイインジャキイイインブジュワアアアアンは為す術なく木端微塵に破壊されてしまった。
後には全身血まみれのキャリコだけが残された……。
だがそれでも尚、キャリコは倒れず、震える足で立っていた。
「ふっふっふ、悪いことは言わないから降参しな。そうすりゃ命までは取らないよ」
「ンフフフ……、ンフフフフフフ……」
「――?」
「……面白い。……まだまだこの世には、こんなにも
「……」
虚ろな眼を向けているキャリコだが、その口元は歓喜で歪んでいるように見えた。
「……これだから研究はやめられない。……これだから人生は――」
「…………ふっふっふ、これはこれは――大した女だねこの子も」
リーブルは
――キャリコは立ったまま気を失っていた。
「……キャリコ」
「……母様」
「……お母さん」
「……ママ」
キャリコの四人の娘達は、みんな悔し涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「アハッ、今回はリーブルくんが流石の貫禄を見せつけてくれたね。――キャリコくん戦闘不能につき、勝者は伝説中の伝説の宇宙海賊リーブルくん。コングラチュレーション」
オーゼットは盛大に紙吹雪を撒き散らした。
「……さて、と、次はウチらの番やな魔女」
「……そうね、カマセ」
「……ピッセや」
形式上はキャリコの上司にあたるピッセと、かつてキャリコと死闘を繰り広げた沙魔美。
両者共、今のキャリコの敗北に、それぞれ思うところがあるようだった。
とはいえ、準決勝に勝ち上がれるのはどちらか一方のみ。
実に一年半ぶりとなるこの二人の対戦は、果たしてどちらに軍配が上がるのであろうか……?
次回、「オーワングランプリ第四試合、宿命の対決、ピッセ対沙魔美!?」。デュエルスタンバイ!