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第138魔:した覚えないけど!?

「アハッ、両者共、心の準備はいいかな?」

「――オウ」

「フフフ、今すぐさ〇なクンのモノマネをしたら手加減してあげるけど、どうするカマセ?」

「ピッセや! ――手加減なんか無用や魔女。どの道ウチが勝つんやさかい、精々悔いがないように全力でこいや」

「フフフ、言うじゃないの。――それじゃあ、バカップルがイチャイチャしているのを横目に、一ヶ月も修行に明け暮れた私の力を見せてやるわよ! 滅びなさいッ!!」


 闘技場で相対したピッセと沙魔美の間に、バチバチと火花が散った。


「あ・ね・さん! あ・ね・さん! あ・あ・あ・あ・あ・ね・さん!!」


 三三七拍子のリズムで応援するのはやめろよラオ。

 気が散ってしょうがない。

 因みに観客席に戻されたキャリコは、すぐにラオ達の手で伝説の回復薬テンテンテレテンを打たれすっかり回復したのだが、意識が戻ると一も二もなく端末に何かを一心不乱に打ち込み始めた。

 大方先程のリーブルとの戦闘記録を取っているのだろう。

 まったく、今さっきまで死にかけてたってのに、科学者って人種のバイタリティは計り知れないな。


「……ピッセ。……沙魔美氏」


 っ!

 菓乃子が震える手で天に祈りを捧げながら、ピッセと沙魔美を交互に見つめている。

 どちらを応援していいのかわからず、心を痛めているのかもしれない。


「菓乃子。菓乃子はピッセを応援してあげなよ」

「っ! 堕理雄君……」

「沙魔美のことは菓乃子の分まで俺と真衣ちゃんが応援しておくからさ。ね? 真衣ちゃん」

「え?」


 沙魔美がいなくなり、再度俺の隣の席を独占できてご満悦な真衣ちゃんに、俺は水を向けた。


「あ、そうですね。悪しき魔女は人望ゼロですから、私とお兄さんくらいにしか応援してもらえないでしょうし、しょうがないから応援しますよ、この私が。ですから菓乃子さんは遠慮せず、彼氏の応援をしてあげてください」

「ちょ、ちょっと真衣ちゃん! ピッセは別に彼氏じゃないから……!」


 真衣ちゃんの中でもピッセは菓乃子の彼氏って立ち位置になってるのか。


「……うん。でもありがと、堕理雄君、真衣ちゃん。じゃあ私はコッソリピッセの応援をさせてもらうね」

「ああ」

「どうぞどうぞ!」

「アラ!? 何かしら……、今物凄く嫌な予感が私の脳裏を掠めたんだけど!?」

「「「……」」」


 小声で話していたので俺達の声は闘技場までは聞こえていないはずだが、人望ゼロの魔女のこういう勘は相変わらず神懸かっているようだ。


「アハッ、そろそろ制限時間いっぱいで待ったなしといったところかな。それでは第四試合――始め」


 ――宿命の対決の幕が、ここに切って落とされた。




「やっておしまい! 伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴン!」


 っ!?


「全国の女子小中高大学生の皆さ~ん! みんなのアイドル、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンでやすよー!」


 ま・た・お・ま・え・か!!

 お前は何回カマセドラゴンになれば気が済むんだ!?

 女の子の範囲も完全にアウトだし!!

 ストライクゾーン広すぎだろ!?

 ……あれ?

 でも何か、クズオの身体がちょっと光ってないか?


「オオッ! マスター、何か今日はアッシ身体の内側から、力が溢れてくる気がしやす!」


 何!?


「フフフ、そりゃそうよ。一ヶ月の修行で、私の魔力は飛躍的にアップしたんだもの。召喚獣のあなたにもその魔力が分け与えられてるから、今のあなたなら引きこもりお兄さん並みの炎が吐けるかもよ」

「ほ、本当でやすか!?」


 マジかよ!?

 だとしたら、畜城は会得できなかったとはいえ、修行は決して無駄じゃなかったってことだな。


「オーホッホッホッホ! これも全てワタクシの計算通りですわよ! まったく、ワタクシのコーチとしての才能が、自分でも怖いですわ!」

「流石でございやすエスト様。エスト様の深謀遠慮にはつくづく頭が下がる思いでありやす」


 嘘つけ絶対たまたまだろ。

 そもそもお前らはずっとイチャイチャしてただけなんだから、沙魔美の魔力が上がったのは沙魔美自身の努力の賜物だろうが。

 沙魔美は同人活動とかもそうだけど、やると決めたことに対する集中力(いやどちらかと言うと執着力)が、良くも悪くも常軌を逸しているところがあるからな。


「さあ! カマセをミディアムレアな焼き魚にしてあげなさい、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴン!」

「ピッセや!」


 焼き魚でミディアムレアってあんま聞いたことなくない?

 絶対ミディアムレアって言ってみたかっただけだろ。


「ピッセさん! あなたに恨みはないでやすが、そのドエロメイド服、燃やさせていただきやすよー!」


 お前それキャリコと戦った時も言ってただろ!?

 なんでいつも服だけ燃やそうとすんだよ!?


「遅いわ」

「「え?」」


 なっ!?

 クズオが炎を吐こうと息を吸い込んだ刹那、ピッセはクズオの足元まで一瞬で距離を詰めていた。


「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」


 ドウッ


「ごべらっぱー!!!」

「伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴーン!!」


 クズオは派手に吹っ飛ばされて、空の彼方に消えていった。

 あいつのカマセフラグの回収率半端ねーな!?

 最早様式美と言っても差し支えないかもしれない。

 しかし、いくら炎の威力が上がっているとはいえ、喰らう前にブッ飛ばしてしまえば問題ないとでも言わんばかりのピッセの行動の迅速さには、いつもながら類稀なる戦闘センスを感じるな。


「あ・ね・さん! す・ご・い! す・ご・い・は・あ・ね・さん!!」


 無理して三三七拍子で応援することはないんだぞラオ?


「チッ、まだよ! 縛り上げなさい! 伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンズ!」

「「「「「「どうも、私達六人が伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンズです」」」」」」

「何やと!?」


 ピッセを円形に取り囲むように召喚された六つ子は、髪の毛を伸ばしてピッセをグルグル巻きにして拘束した。

 しかも六つ子も身体が少し光っている。


「クッ、マジか!? これ、ウチの力でも千切れんぞ!?」


 ファッ!?

 六つ子の髪の毛ってそんなに強度あったっけ!?


「フフフ、これも私の魔力が上がった成果よ。今や伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンズの髪の毛は、ドリ〇ンが使っていたアラミド繊維のワイヤー並みの強度を誇っているわ」


 それだと空手の達人だったら素手でも切れないか?


「フンッ、だったらこうするまでやッ!」

「っ!?」


 ピッセはその場でフィギュアスケートの選手みたいに、高速で回転した。


「「「「「「う、うわあああ!?」」」」」」


 ゴチンッ


「「「「「「がふっ」」」」」」


 結果、髪の毛が巻き取られる形になった六つ子は、ピッセを中心に吸い寄せられ互いの頭をぶつけ合い、その場で気絶してしまったのだった。

 ピッセが完全に主人公ムーブしてるぜ!


「フウ、ま、ざっとこんなもんやろ」


 拘束が緩んだピッセは、六つ子の髪の毛を振り解いた。

 ――が、その時。


「隙アリッ!」

「っ!?」


 ピッセの真後ろにワープした沙魔美が、右手の伸ばした爪を振り下ろした。

 まさか沙魔美のやつ、六つ子ははなから囮にするつもりだったのか!?


「――肘磔刑ひじたっけい


 ズンッ


「かっ……は」

「「「!!」」」


 が、どうやらピッセの方が一枚上手だった。

 ピッセは左肘を後ろに突き出し、沙魔美の左胸にそれを撃ち込んだのだ。

 沙魔美は糸が切れた操り人形みたいに、その場にくずおれた。

 あれはエストと戦った時に見せた、『磔刑』とかいう一撃必殺技!?

 気を込めた掌底を心臓に撃ち込むことで、その相手を強制的に仮死状態にするとか言っていたはずだが、まさか肘でも撃てたとは……。

 恐るべし、ピッセ。


「フム、どうやらこれは分身じゃないみたいやな」


 ピッセは仮死状態になった沙魔美の頬をペシペシと叩いて、本体かどうか確認した。

 ここで油断しない辺り、ピッセの戦闘経験の深さが窺える。

 単純な戦闘力では沙魔美とピッセはほぼ互角だったのかもしれないが、戦闘経験の差が明暗を分けたといったところか……。


「ピギャアアアアアアアッ!!! 流石っす姐さああああああああん!!! 抱いてくださあああああああああいッ!!!!」


 どさくさに紛れて抱かれようとするな。


「……ピッセ」


 菓乃子は瞳を潤ませながら、小さくガッツポーズをした。

 沙魔美が敗けてしまったのは非常に残念だが、相手がピッセでまだよかったのかもしれない。

 最悪俺はノーズェ以外の人が優勝する分には、地球から引っ越さずに済む。

 ピッセならノーズェにも勝てるかもしれないし、後はピッセに任せるとするか。


「――へへっ、どや菓乃子? ウチの活躍見とったか?」

「キャッ!? ピッセ!?」

「「「っ!?」」」


 ピッセはひとっ跳びで観客席まで帰って来た。

 呆れるくらいとんでもないジャンプ力だ。


「……うん、見てたよ。……カッコよかった」

「へへへ、せやろせやろ」


 あのー、イチャつくのは他所でやってもらえませんかね?


「アハッ、油断大敵という言葉が身に染みる戦いだったね。――。コングラチュレーション」

「「「!!!」」」


 なっ!?!?


「何やと!? なんでウチの敗けなんや!?」


 オーゼットの言葉が信じられないのか、ピッセは抗議した。

 さもありなん。

 沙魔美は確かにピッセの磔刑を喰らって戦闘不能になったはずなのに……。

 ――あれ?


「ピ、ピッセ! 闘技場を見ろ!!」

「あ? 闘技場がどないしたんや先輩? ――んあっ!?!?」


 俺は自分の眼を疑った。

 闘技場にはつい先程ピッセに仮死状態にされた沙魔美の身体の他にもう一人沙魔美がいて、その場で漫画の原稿を一心不乱に描いていたのだった。

 な、何だあれは!?


「――ああ、もう終わった? ちょうど私も区切りいいところまで描き終わったところよ」

「ど、どういうことなんやこれは!? ウチは確かに本体かどうか確認したはずや! あれは絶対に分身やなかったで!」

「いやいや、それが分身だったのよ」

「ハァッ!?」


 ……何……だと……(死神代行)。


「言ったじゃない、私の魔力は飛躍的にアップしたって。それこそ、のクオリティにできるくらいね」

「「「っ!!」」」


 ……そんな。

 つまり沙魔美は、六つ子だけでなく、囮として使ったってことか?

 ピッセが分身に磔刑を喰らわせている間に、本体の沙魔美は認識歪曲の魔法でコッソリと隠れる。

 後は勝ったと錯覚したピッセが、自分から場外に出ていくのを待つだけで勝てるってわけだ。


「ひ、卑怯だぞ東の魔女オオオオオ!!! お前も女なら、正々堂々と正面から姐さんと勝負しやがれやあああああッ!!!!」

「――いや、それは違うでラオ」

「えっ!? あ、姐さん!?」


 ピッセ……!?


「勝負の世界に卑怯もへったくれもないんは、宇宙海賊のジブンならようわかっとるはずやろ」

「そ、それは……そうですけど……」

「今回のことは確認不足やったウチの落ち度や。――でも、次は絶対にウチが勝つからな。首を洗って待っとれよ、魔女」

「姐さん……」

「フフフ、光栄に思いなさいよ。私だって正面から戦ったら、敗けはしないにしても無傷じゃ済まないと思ったからこそ、こんな手を使ったんだから」

「……フン、さよか」


 今のは沙魔美の本音なのだろうな。

 それこそピッセには、まだキャプテンシャークモードという切り札も残されていたんだ。

 いくら魔力がアップしたとはいえ、搦め手なしでピッセに勝つのは至難の業だったのは事実だろう。


「……スマンな菓乃子。ご褒美のキスは、またの機会に取っとくで」

「いや私そんな約束した覚えないけど!?」


 ……ともあれ、これで準決勝進出者が出揃った。


 ――異世界の女魔王、マヲちゃん。

 ――最凶の魔女、ノーズェ。

 ――伝説中の伝説の宇宙海賊、リーブル。

 ――そして監禁の魔女、沙魔美。


 この中からオーワングランプリ優勝者が決まる。

 果たして、優勝は誰の手に……?


 次回、「オーワングランプリ準決勝第一試合開始!?」。デュエルスタンバイ!

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