目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第139魔:期待しててね

「アハッ、では準決勝を始める前に、幕間劇として玉塚歌劇団の三人に『真夏の夜の夢』を上演してもらうよ。よろしくね、三人共」

「ハッハー! お任せください支配人! 我々が最高の舞台をご披露いたしましょう! いくぞ、琴子、咲羅!」

「「はい、座長!」」


 ここにきてまさかの玉塚歌劇団投入!?

 ここまで一切玉塚さん達の台詞がなかったと思ったら、思いがけない大抜擢じゃないですか。

 これで一気に玉塚歌劇団も宇宙まで名が知れ渡ってしまったな……。


「パスそばいかがですか~? スパシーバ名物、出来立て熱々の、美味しいパスそばですよ~」

「未来延ちゃん!?」


 未来延ちゃんもここぞとばかりにパスそばを観客席で売り歩いている。

 てかどこで作ってきたのそれ!?

 未来延ちゃんも一切台詞がなかった分、ここで存在をアピールしているのかもしれない。

 キャラが増えすぎるとこういう時大変よね。


 まあ、ここから先は尚一層の激戦が展開されることは必至だろうから、最後の息抜きだと思って、暫し浸らせてもらうか。




「アハッ、素晴らしい舞台だったよ。どうもありがとう玉塚歌劇団の諸君」

「ハッハー! グラッツェ!」


 と、思ったら、玉塚歌劇団の舞台は全カットであった。

 キンクリを喰らった気分だ……。


「いやー、地球の食べ物は珍しいのか、パスそばも飛ぶように売れましたよ。普津沢さんもお一つどうです?」


 未来延ちゃんが俺のところにもパスそばを持ってきてくれた。


「ありがとう未来延ちゃん。でも俺今、財布持ってないんだけど」

「それならご心配なく。普津沢さんのバイト代から引いておきますよ」

「俺のバイト代から引いておくの!?」

「アッハハー、冗談ですよ、冗談。これはサービスです、どうぞ」

「……どうも」


 未来延ちゃんの冗談はわかりづらいよ。


「アハッ、それではみんなも気になっているであろう、準決勝第一試合の組み合わせを発表するよ」


 っ!

 遂に決まるか、対戦カードが。

 そして第一試合のカードが決まれば、自動で第二試合のカードも決まる。

 理想はノーズェとリーブルが潰し合ってくれることだが……。


「まず一人目は――」


 オーゼットは抽選ボックスに手を入れた。


「ふむふむ。――ノーズェくんだね」

「「「!」」」

「ふ……ふふ……、お任せくださいオーゼット様……。今回も私のコミュ力の高さをご覧に入れます……」


 お前のコミュ力はみゃー姉以下だろ!?

 それにコミュ力の高さを競う大会じゃねえからこれ!


「アハッ、楽しみにしてるよノーズェくん。さて、そのノーズェくんのお相手は――」


 オーゼットは続け様に抽選ボックスに手を入れた。

 頼む!

 リーブルであってくれ!


「アハッ、これは面白い対決になったね――マヲくんだ」

「「「!!」」」

「ふええ? アタチー?」


 くっ!

 ……マヲちゃんだったか。

 ということはリーブルの相手は沙魔美か。

 これは大分厳しい状況になったな……。

 正直言ってマヲちゃんも沙魔美も、ノーズェやリーブルに勝てるイメージが俺には湧かない。

 これは最悪、決勝はノーズェとリーブルで戦うなんて可能性も……。

 ――いや、何を弱気になってるんだ俺!

 俺がそんな及び腰になってたんじゃ、勝てるものも勝てないだろ!

 どの道俺にできるのは、応援することだけなんだ。

 今は力の限り、マヲちゃんを応援しないと。

 ……でも。


「マヲちゃん、危なくなったら、すぐに棄権していいからね」


 死んでしまったら元も子もない。

 ただでさえノーズェと戦った相手は、死ぬ危険が極めて高いんだ。

 だからこそ、最悪の事態だけは避けなくては。


「フハハ、心配するでない兄よ」

「え?」

「わらわはあの陰気娘にとってとも言える存在じゃ。わらわの勝利は、ほぼ約束されたも同然じゃよ」

「そ、そうなの!?」


 俺にはとてもそうは見えないけど、マヲちゃんがそこまで言うなら、信じるしかないか……。


「……わかったよ。俺も応援するから、頑張ってきてね」

「フハハ、兄が応援してくれるなら百人力じゃわい」

「アハッ、いやはや、君達の兄妹愛には僕も胸を打たれっぱなしだよ」


 オーゼットがにこやかにそう言った。

 ……こいつ。


「それじゃ、いよいよ準決勝を始めるよ」


 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、マヲちゃんとノーズェが闘技場に転送された。


「アハッ、この試合はとても面白い結果になる予感がするよ。準決勝第一試合――始め」


 ……マヲちゃん。

 死なないでね。




爆飲爆食オーダーイーター!」

「「「っ!!」」」


 マヲちゃんは今回はのっけから爆飲爆食オーダーイーターに変身した。

 確かにノーズェ相手に、力を出し惜しみしてる余裕はないもんな。

 それが正答だろう。

 だが、いくら爆飲爆食オーダーイーターでも、ノーズェの返り血を浴びたら一巻の終わりなことには変わりない。

 それなのに、マヲちゃんはどう戦うつもりなんだろう?


「ふ……ふふ……、あなたも……私とお友達になりましょう……」


 ノーズェの左眼から伸びている薔薇の茎で出来た大蛇が、大口を開けてマヲちゃんに襲い掛かった。

 危ない! マヲちゃん!!


「フハハ、


 バクンッ


「「「!!!」」」


 マヲちゃんの腹部の巨大な口は、大蛇を一口で喰いちぎってしまった。

 ぬあっ!?


「ああああっ!」


 喰いちぎられた切り口から、鮮血が噴き出てきた。

 何ッ!?

 あの薔薇の茎にも、血管が通っているのか!?

 その噴き出た血は、雨のようにマヲちゃんに降り注いだ。

 マ、マヲちゃんッ!!


「フハハ、


 バクンッ


「「「!?!?」」」


 マヲちゃんはその血の雨を、一滴残らず呑み込んでしまった。

 な、何をしているんだマヲちゃん!?!?

 その血に触れたらその時点で敗け確定なんだよ!?

 それなのに、自らその血を呑んでしまうなんて……!?

 これじゃただの自殺行為だ!!


「ふ……ふふ……、呑みましたね……私の血を……。これであなたの敗けです……。死にたくなければ……降参したほうがいいですよ……」


 そうだ!

 悔しいが、ここは降参すべきだマヲちゃん!


「フハハ、何を的外れなことを言っておるのじゃ。わらわはこうして、ピンピンしておるぞ?」

「…………え」


 え?

 おや?

 確かに……。

 ターラスがあの血を浴びた時はすぐに不幸が降りかかっていたが、今のマヲちゃんにはその様子がまったくない。

 どういうことだ……?


「初戦でわらわは言ったであろう? わらわの爆飲爆食オーダーイーターが喰ったものは、と」

「…………あ」


 っ!!

 そうか。

 ってことは……。


「つまりわらわはお主の血を一滴も吞み込んではおらんのじゃ。ただわらわの口を通して、どこかに移しただけじゃ」

「そ……そんな……」


 ただでさえ青白いノーズェの顔が、更に蒼白になった。

 うおおお!!

 マヲちゃんがノーズェの天敵だと言っていたのは、こういうことだったのか!!

 これならノーズェの血も怖くはない!

 勝ったなガハハ!


「フハハ、今度はわらわがお主の言葉をそっくりそのまま返してやろう。――お主の敗けじゃ。死にたくなければ、降参したほうが身のためじゃぞ」

「あ……ああ……あ」


 たちまちノーズェの眼に、大粒の涙が浮かんだ。


「そんな……敗けちゃう……。私が敗けちゃう……。試合に勝てない私には……何の価値もないのに……。このままじゃオーゼット様にも嫌われちゃう……。そうしたら私は……また独りぼっちになっちゃう……。嫌……独りは嫌……。独りは嫌……。独りは嫌……。独りは怖い……。独りは怖い……。独りは怖い……。嫌……。嫌……。嫌……。嫌……。怖い……。怖い……。怖い……。怖い……。嫌……。嫌……。怖い……。怖い……。嫌……。嫌……。怖い……。怖い……。嫌……怖い……嫌……怖い……嫌……怖い……嫌……怖い……嫌あああああああああああああああ」


 怖いのはこっちだよッ!?


「アハッ、大丈夫だよノーズェくん」

「…………え」


 っ!!


「君と僕は、だよ」

「――――!」


 なっ!?


「あ……ああ……あ」


 っ!?

 何だ……!?

 ノーズェの雰囲気が……!?


「満たされていく……。私の中が満たされていく……。私の中がオーゼット様で満たされていく……。私は独りじゃない……。私は独りじゃない……。私にはオーゼット様がいる……。私には死ぬまで一生お友達のオーゼット様がいる……。ああ……満たされる……。満ちていく……。満ち満ちていく……。満ち満ち満ち満ち満ちていく……。満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ち満ちていくわああああああああああああああああ」


 ズドウッ


 うわっ!?

 ノーズェから凄まじい圧を伴った衝撃波が飛んできた。

 こ、これは……、まさか……。


 ノーズェが乗っている亀のぬいぐるみが更に巨大になり、機械化して亀型のロボットのようになった。

 そして左眼だけでなく、ノーズェの全身から無数の薔薇の茎が生えてきて、それぞれが大蛇の姿を形作り、神話に出てくるヤマタノオロチを彷彿とさせた。


 その禍々しくも雄大な形貌は、まるで動く城のようだった。


「ふ……ふふ……、これが私の、伝説の滅亡形態【ジェネシスナイトメアブラッドダイヤモンド】です……」

「「「!!!」」」


 こ、これが畜城……。

 何て威圧感だ……。

 こんなもの……誰も……。


「フハハ、

「……え?」


 バクンッ


「「「!!!!!!」」」


 マヲちゃんはノーズェを【G・N・B】ごと一口で丸吞みにしてしまった。


「ご馳走様でした」


 うええええええええええ!?!?!?!?

 いやいやいやいやいや!!

 俺が言うのも何だけど、今のはノーズェが勝つパターンだったんじゃないの!?

 畜城を見せたノーズェがマヲちゃんを圧倒して、「畜城スゲェ!!」ってなる流れだったんじゃないの!?

 今の今まで散々引っ張っておいて、まさか畜城が瞬殺されてしまうとは、誰が予想しただろうか!?


「アハッ、だから僕は最初に言っただろ?って」

「っ!?」


 そんな……!?

 オーゼットはこの結果を予測していたってのか!?

 ……あんなにノーズェのことを大事な友達だなんて言っておいて、結局オーゼットにとって、ノーズェは実験動物ラットの一人に過ぎなかったってことなのかよ。

 俺の隣で無邪気な笑顔を浮かべている美少年は、俺達とはまったく違う生き物なのだということを再認識し、背筋が寒くなった。


「……フン、何よ。あれだけ大口を叩いておいて、ただのカマセキャラだったんじゃないの、あの陰キャ女は」


 そう零す沙魔美の横顔は、少しだけ寂しそうに俺には見えた(ちなみに沙魔美はまた真衣ちゃんを抱っこして、真衣ちゃんの頭を胸置きにしている)。

 とはいえ、マヲちゃんが勝ってくれたのは僥倖だ。

 後は沙魔美さえリーブルに勝ってくれれば、とりあえず俺の身の安全は保証される。


「頑張れよ沙魔美。応援してるからな」

「フフフ、任せてちょうだい。次の話の一行目は、バブ君の『アハッ、今大会一番の白熱した試合を見せてもらって、僕はとても満足だよ。――リーブルくん戦闘不能につき、勝者は監禁の魔女、沙魔美くん。コングラチュレーション』っていう台詞から始まるから期待しててね」

「それはキンクリしすぎじゃね!?」


 果たして本当にその台詞から始まるのか!?


 次回、「オーワングランプリ準決勝第二試合終了!?」。デュエルスタンバイ!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?