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第140魔:よくわかりましたね

「アハッ、今大会一番の白熱した試合を見せてもらって、僕はとても満足だよ。――リーブルくん戦闘不能につき、勝者は監禁の魔女、沙魔美くん。コングラチュレーション」

「本当に言った!?」

「アハッ、噓嘘。冗談だよ冗談。魔法使いジョークさ」

「あ、そう……」


 魔法使いジョーク笑えねえな。


「この試合は僕が特に注目してる試合なんだから、キンクリなんてせずに、砂被りでじっくり見させてもらうよ」

「……」


 オーゼットは見て取れるくらいワクワクしながら、前のめりになって闘技場に立つ沙魔美とリーブルを見つめた。

 まあ、この試合が最注目なのは確かにそうだろう。

 どう考えても無敵としか思えないリーブルに対して、沙魔美はどう戦うのか?

 思いがけずマヲちゃんが勝ってくれたことで、沙魔美がここを勝ち上がれさえすれば、決勝戦は最悪どちらかが棄権すれば平和に事が収まる。

 つまり、これが事実上の決勝戦みたいなものなのだ。

 ――頼む、沙魔美。

 何とかお前も勝ってくれ。


「アハッ、それじゃ準備はよろしいかな二人共?」

「ふっふっふ、アタシはいつでも大丈夫だよ。ま、そこのお嬢ちゃんには早々に降参することを勧めるけどねえ」

「フフフ、ご心配はご無用ですわお局様。もう今は私みたいなナウなヤングの時代なんです。そのことを思い知らせてさしあげましょう」


 その言い方はナウなヤングじゃないだろ。

 前々から怪しいと思ってたけど、マジでアラフォーなんじゃないだろうな?


「アハッ、差し詰め超ベテラン対超新星の対決といったところかな? 果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか。運命の準決勝第二試合――始め」


 ――沙魔美!




「でやああああ」

「「「っ!?」」」


 え。

 何を血迷ったのか、沙魔美は徒手空拳でリーブルに突っ込んでいった。

 動きも魔法を使ってない時みたいにヘロヘロで、傍から見たらおばあちゃんみたいだ。

 ……いや、ひょっとして沙魔美のやつ、マジで一切魔法使ってないんじゃないかこれ!?


「フフフ、こっちが強くなったら力を吸われるなら、始めから弱ければ吸われる心配もないってわけよ!」

「「「っ!?!?」」」


 ……なっ。

 何だその謎理論は!?


「ふっふっふ、確かに今利己主義の天秤エゴイズムライブラを使ったら、むしろお嬢ちゃんを有利にしちゃうねえ」


 リーブルの頭の天秤は、思いっきり右側に傾いている。

 それはつまり、現状圧倒的にリーブルのほうが沙魔美より強いことを表している。

 そりゃそうだ。

 今の沙魔美はおばあちゃん並みの身体能力しかないんだから。

 今利己主義の天秤エゴイズムライブラを使ったら、逆にリーブルの力が沙魔美に移ることになってしまう。


「でも、だったら使わなければいいだけの話だよねえ」


 ビシィッ


「キャアアアアアッ!!」

「沙魔美ッ!?」


 リーブルはにわかに無慈悲な鞭マーシレスウィップを取り出し、それを容赦なく沙魔美に振るった。

 現状障子紙並みの耐久しかない沙魔美は、その一撃だけで大怪我を負い、後方に吹っ飛ばされて仰向けに倒れた。

 ホント何をやってるんだあいつは!?

 バカなのか!?

 俺の彼女は真正のバカなのか!?

 生身で突っ込んだら、リーブルが利己主義の天秤エゴイズムライブラを使うとでも思ったのか!?

 それで力が均等になった瞬間に、沙魔美のほうは魔法で身体能力を強化して、そのままリーブルを攻撃する。

 確かにRPGのボス戦とかであれば、そういう戦法が通じることもあるだろうが、生憎これは高い知能を持った異星人との戦いだ。

 相手が現状自分よりも弱ければ、わざわざ利己主義の天秤エゴイズムライブラを使ってくれるわけがない。

 そんなこともわからなかったのだろうか、沙魔美は……。

 あいつは普段はそこそこ頭が切れるくせに、たまにとんでもない大ポカをやらかす時があるからな。

 まさかこんな大舞台でそれを晒してしまうとは思わなかったが……。


「ふっふっふ、これは早くも勝負あったってところかねえ? この調子だと、大方の予想通りこの大会もアタシの優勝だろうから、今のうちに創造神様に、アタシが優勝した時の優勝商品を伝えておくよ」


 っ!


「アハッ、何だいリーブルくん。ちょっと気が早いとも思うけど、聞くだけならやぶさかではないよ」

「ふっふっふ、それはねえ――そこの坊やさ」

「……え」


 リーブルはあろうことか、俺のことを指差してきた。

 ファッ!?


「坊やはこのお嬢ちゃんの彼氏なんだろう?」


 リーブルは倒れている沙魔美を顎で指しながら聞いてきた。


「あ、ああ、そうだけど」

「ふっふっふ、アタシは人の大事にしてるものを奪うのが趣味なんだ。宇宙海賊だからねえ」

「……!」

「だからアタシが優勝したら、坊やを。そういうのもアリなんだろう? 創造神様」

「アハッ、もちろんだよリーブルくん」

「そ、そんな!?」


 ノーズェが敗けて、とりあえず俺の引っ越しの心配はなくなったと思ったら、思わぬ伏兵がいやがった!?

 もう何なの俺のこのピー〇姫体質は!?

 このペースでいけば、本家のピー〇姫よりもピンチ回数上回るんじゃないの!?


「……堕理雄は誰にも渡さない」


 っ!!

 しめた!

 そういえば俺が誰かに奪われそうになったら、これが発動するんだった。


「堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない」


 沙魔美は幽霊の様にユラァと立ち上がり、全身から禍々しいオーラを放ち出した。

 とはいえこれも、何度見ても慣れないな……。


「堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない堕理雄は誰にも渡さない……そして……よしよし待ちなポストをしてるオタクは許さないよしよし待ちっていうのは例えば普段SNSとかに推しキャラの落書きとかしかアップしてない絵描きの人が『最近友達から一緒に同人誌作ろうよって誘われてるんだけど誰も私の描いた同人誌なんて興味ないですよね~?』ってポストすることなの内心では描く気満々のクセに誰かから『そんなことないです! 〇〇さんの同人誌楽しみにしてます!』ってコメントされるのを待ってるのねこういうやつに限って実際に同人誌を作ってそれが売れたら『はわわわ~私なんかの本がこんなに売れちゃって本当に恐縮です~』みたいな形ばかりの謙遜をするのよ内心は『計画通り(ニヤリ)』と思ってるクセにこういうのホント嫌いなの絶対に絶対に絶対に許せないのおおおおおおお!!!!」


 だから長えよッッ!!!!


 ドウッ


 沙魔美から恒例の衝撃波が飛んできた。


 背中が膨れ上がり、そこからコウモリの様な羽が生えてきた。

 頭にも歪な二本の角が生えた。

 犬歯が伸びて、獣の牙の様になった。

 そして、瞳の色が血の様な深紅に変わった。


 もう何度も目にした、悪魔の様な姿だった。

 これぞ沙魔美の壊錠、伝説の戦闘形態ダークデストロイフォトジェニックディアボロス。


「ふっふっふ、なるほどなるほど。うちのターラスをイジメてくれた、ゴスロリのお嬢ちゃんがなってたのと同じ、スーパーモードってところかねえ? 確かに凄まじい力だ。ホラ、アタシの天秤がこんなに振り切ってるよ」


 リーブルが言う通り、天秤が左側に大きく傾いている。

 ……だが。


「もちろんその力も、均等にさせてもらうけどねえ」


 ガコンッ


 案の定その天秤は、すぐさま水平にされてしまった。

 途端、沙魔美から発せられている威圧感が、俺でもわかるくらい抑えられた。

 くっ!

 やはり利己主義の天秤エゴイズムライブラの前では、壊錠でさえ無力なのか……!?


「フフフ、でもこれはどうかしら? 伝説の奥義ワンコゼメサソイウケスパダリレーザー!」


 ズドウッ


 うおっ! まぶしっ!


 沙魔美は力が均等になったことなどお構いなく、伝説の奥義ワンコゼメサソイウケスパダリレーザーをブッ放した。

 その瞬間、またしてもリーブルの天秤が左側に大きく傾いた。


「ふっふっふ、だから無駄だって」


 ガコンッ


 だが、それさえも利己主義の天秤エゴイズムライブラによって均等にされてしまう。

 伝説の奥義ワンコゼメサソイウケスパダリレーザーは、見るからにか細くなった。


「こんな感じかい?」


 ズドウッ


 うおっ! まぶしっ!


 そして今度はリーブルの左手から伝説の奥義ワンコゼメサソイウケスパダリレーザーが放たれ、沙魔美のそれと衝突して相殺された。

 キャリコと戦った時と、まったく同じ展開だ……。

 リーブルに勝つことは不可能なのか……?


「チィッ! ハアアアアアッ!!」


 沙魔美はリーブルに突貫していった。

 そして目にも見えない速さで、拳のラッシュを繰り出した。


「ふっふっふ、若いねえ」


 が、リーブルは左手だけで、それらを全て受け止めた。


「そおら!」


 ビシィッ


「キャアアッ!!」

「沙魔美ッ!!」


 そして無慈悲な鞭マーシレスウィップでカウンターを浴びせ、沙魔美の肩口を斬り裂いた。


「まだまだあッ!!」


 リーブルは文字通り無慈悲な鞭の連打を沙魔美に浴びせた。


「アアアアアアアアアアアッ!!!」

「沙魔美ーーー!!!!」


 全身血まみれになった沙魔美は、その場で膝を突いた。

 ……沙魔美。


「沙魔美、もういい! 降参してくれ!! このままじゃお前が死んじまう!!」


 それだけは……。

 それだけは俺は耐えられない……!


「い……やよ……」

「っ! ……沙魔美」

「それだけは絶対に嫌……。私は絶対に降参しないし……、堕理雄を誰にも渡さない……。大丈夫……、ここからちょちょいと逆転するから……、パスそばでも食べて気楽に見ててよ……」

「沙魔美……」


 嘘だ。

 沙魔美は今にも倒れそうな程、満身創痍なはずだ。

 だが、気を失う程の激痛に耐えながら、それでも諦めずに前を向いている。

 ――俺の彼女は何てカッコイイんだ。

 不意に溢れ出てきた涙で、俺の視界は歪んだ。

 ……いや、今は沙魔美に惚れ直してる場合じゃない。

 沙魔美が諦めていないなら、俺も沙魔美が勝つための活路を考えなくては!

 何かないか……。

 何かリーブルに勝てる策は……。


「ふっふっふ、若いっていいねえ。これも愛の力ってやつかねえ」


 ……愛?

 ……そうだ、愛だ。

 先程マヲちゃんがノーズェの畜城を瞬殺したことで、すっかり頭から抜け落ちていたが、ノーズェが畜城を発動した際のオーゼットとの遣り取りが、俺はずっと引っ掛かっていた。

 あの時オーゼットは、ノーズェに何と言った?

 ――確か、『君と僕は、だよ』と言ったはずだ。

 そしてその直後、ノーズェは畜城を発動させた。

 ――そうか、そういうことだったのか。

 それが、畜城なのか――。


「沙魔美!!」

「え?」


 俺は会場中に響く程、声を振り絞って叫んだ。


「大丈夫!! 俺は誰のものにもならない!! 俺は一生、だ!! 俺は一生、!!!」

「――!! ……堕理雄」


 沙魔美の纏う雰囲気が、極めて異質なものに変わった。


「堕理雄……。堕理雄……。ああ、堕理雄……。そうね、堕理雄は一生、私だけのものでいてくれるのね……。堕理雄は一生、私だけを愛してくれるのね……。私は一生、堕理雄を独占していいのね……。嬉しい……。嬉しいわ堕理雄……。私は今、この世に生まれてきてから一番幸せよ……。愛してる……。堕理雄愛してるわ……。愛愛愛愛してる……。愛愛愛愛愛愛愛愛してる……。愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛してるわああああああああああああああああ」


 ズドウッ


 うおっ!?

 沙魔美から凄まじい圧を伴った衝撃波が飛んできた。

 ……どうやら成功したみたいだ。


 沙魔美の背中の羽が超巨大化し、それが機械化して二足歩行の青いドラゴン型のロボットのようになった。

 そのドラゴンロボの全身には、丸太のように太い鎖がいくつも巻き付けられており、それらの鎖の先端は、ドラゴンロボの左腕の先に垂れ下がっていた。

 そしてドラゴンロボは、右手に生えている爪だけが、異様に長く伸びていた。


 その禍々しくも雄大な形貌は、まるで動く城のようだった。


「フフフ、これが私の畜城、伝説の支配形態【サクリファイスイルルーラー】よ」

「「「!!!」」」


 ……やはりそうだったのか。

 おそらく壊錠の発動条件は、『渇望すること』だったんだ。

 エストなら『イケメンをはべらせたい』。

 ノーズェなら『友達が欲しい』。

 そして沙魔美なら『俺を独占したい』。

 それらの心の底からの渇望がエネルギーとなって、壊錠を発動させるのだ。

 となれば、畜城の発動条件は一つしかない。

 壊錠で渇望したことを、『叶える』ことだ。

 そうして心が満たされた時に、初めて畜城が発動するのだろう。

 そりゃ沙魔美が一人で修行していても、畜城が会得できなかったわけだ。

 ――沙魔美の畜城には、俺が必須だったのだから。

 ……しかし、オーゼットは当然その仕組みを把握していたはずだよな?

 それなのに俺を修行場から連れ去ったということは、察するにこうして土壇場で沙魔美の畜城を発動させることで、場を盛り上げようという魂胆だったんだな。

 ……まったく、創造神様の酔狂には、ほとほと参る。


「アハッ、美しい。美しいね沙魔美くん。やっぱり僕は畜城が発動した瞬間が、一番心が踊るなあ」


 オーゼットは手を叩いて狂喜している。


「……ふっふっふ、確かにこりゃ桁外れの力だ。アタシも一万年生きてきたけど、ここまでの力にはお目にかかったことはないね」


 リーブルの天秤は、これ以上ないくらい左側に傾いている。


「――だが、アタシの利己主義の天秤エゴイズムライブラの前には、全ての力は均されるよ!」


 っ!

 ……そうだ。

 畜城を発動したまではいいが、それは利己主義の天秤エゴイズムライブラを破ったことにはならない。

 むしろこれで力を均されてしまったら、リーブルも畜城の多大なる力を手にすることになってしまう。

 何か手はあるのか、沙魔美……?


「フフフ、一つ忠告してさしあげますわお局様」

「あ?」

「――利己主義の天秤エゴイズムライブラは使わないのが身のためですよ。もしも使えば、あなたは

「「「っ!」」」

「なっ!? ……フン、このアタシがそんなチンケなハッタリに屈するとでも思ったのかい?」


 リーブルは射抜くような眼で沙魔美を睨みつけた。


「いえいえ、御身を慮っての発言だったのですが、受け入れていただけないのでしたら致し方ありませんね。どうぞ、利己主義の天秤エゴイズムライブラを使ってください」


 さ、沙魔美!?

 本当に大丈夫なのか!?


「くっ! 言われなくとも目に物見せてやるさ! 利己主義の天秤エゴイズムライブラ!!」


 ガコンッ


 天秤は無慈悲に水平なった。

 嗚呼!

 こ、これでもう、お終いだ……。


「ふっふっふ、あっはっは、あーっはっはっはっは!! これは凄い力だねえ!! まるで神にでもなった気分だよ!! これならアタシは、誰にだって勝てる!! これならアタシは――」


 ボキンッ


「――え?」


 ――その時、リーブルの天秤が、音を立てて根本から折れた。


「なっ!? こ、これは!? ……ガハッ」

「「「!!!」」」


 リーブルは吐血して、その場にくずおれた。

 な、何が起きたんだッ!?


「フフフ、だから言ったでしょうお局様? あなたの身体では、畜城の力を受け入れきれなかったんですよ」


 っ!!

 そうか……。

 畜城のエネルギーのあまりの強大さに、リーブルの身体がオーバーフローしたってことか。


「そ、そんな……。そんなことがあるはずがない……。アタシは一万年も生きてきて、星の数程の人間から力を奪って奪って奪い続けてきたんだ。……でも、こんなことは一度だってなかった」

「フフフ、まあそのお気持ちもわかりますよ。私だってこれ以上ないってくらい最高のB漫画を描いたつもりでも、次の日にはあっさり私なんか足元にも及ばないどちゃシコなB漫画を見つけて、絶望に打ちひしがれるなんてことがよくありますから」

「え? B漫……画?」


 そこで出てくる例えがB漫画なところが沙魔美だな……。


「さて、と、ではせっかく畜城をお披露目できたんですから、最後は私の最高必殺技でシメさせていただきますね」

「何だって……? う、うわっ!?」


 沙魔美が【S・I・R】の左腕をリーブルにかざすと、左腕から垂れ下がっていた数々の鎖が伸び、リーブルを雁字搦めに拘束した。


「くっ! クソッ! クソクソクソオオオオオオオ!!!」


 【S・I・R】のドラゴンの口が大きく開き、その照準がリーブルにセットされた。


「こ、このアタシが……このアタシがああああああああああああ!!!!!!」

「伝説の究極奥義ワンコゼメサソイウケスパダリゲコクジョウオソイウケベーコンレタスバーガーバスター!」


 チュドボオオオオオオオオオゥ


 ドラゴンの口から極大のエネルギー波が放出され、リーブルに降り注いだ。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 それによって闘技場を覆う程の煙が巻き上がった。

 そして煙が晴れると、そこにはぽっかりと広大な穴が開いていた。

 な、何て威力だ……。

 これが、畜城の力か。


「よいしょ、っと」


 沙魔美は【S・I・R】の左腕の鎖を巻き取った。

 すると穴の中から黒焦げになったリーブルが引きずり出された。


「が……がふ。がは……」

「フフフ、何とか息はあるみたいね。私も大分力を吸われてたからね。マックス威力だったら、塵も残らなかったわよ」


 オイオイ大分吸われた上でこれだったのかよ。

 やっぱ畜城トンデモねーな。


「ク……ソ……化け物、が……」


 リーブルはゆっくりと瞼を閉じた。

 どうやら気を失ったらしい。


「リーブル様ああああ!!」


 ターラスの悲痛な叫びが、会場に響いた。


「アハッ、今大会一番の白熱した試合を見せてもらって、僕はとても満足だよ。――リーブルくん戦闘不能につき、勝者は監禁の魔女、沙魔美くん。コングラチュレーション」


 今度こそオーゼットは、その台詞を適切なタイミングで使った。

 確かに今回は、薄氷を踏むような中での勝利だった。

 結果的にリーブルがオーバーフローしたから勝てたようなものの、あそこでもしリーブルが畜城の力を受け入れきれていたとしたら、その時点で沙魔美の敗けは確定していたことだろう。

 とはいえ、勝利は勝利。

 これで決勝戦はマヲちゃんと沙魔美の身内対決になったのだから、ある意味いままでよりは気楽に見ていられるな。


「フフフ、休憩は必要ないから、このまますぐに決勝戦を始めましょうよ、マヲシスター。……いや、

「「「っ!?!?」」」


 何ッ!?


「ふ……ふふ……、よくわかりましたね、東の魔女さん……」

「「「!!!!」」」


 俺は絶句した。

 俺の真後ろに座ってるマヲちゃんの口から、が聞こえてきたからだ。

 そ、そんな……、まさか……。


 次回、「オーワングランプリ優勝者決定!?」。デュエルスタンバイ!

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