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第20話

 山肌にポッカリと空いた穴。ゴツゴツとした岩に囲まれ、穴の奥はどこまでも闇が広がっている。

 ここに集まったのは、剣聖騎士団フロッティ・ナイツのメンバー十人。


 ロビンやマーガレット、デヴィットやルーシーの姿もあった。今日は冒険者として来ているため、全員が万全の装備を身につけている。

 銀の鎧をまとったロビンが穴を見つめ、ふっと微笑む。


「さあ、始めようか」


 魔法使いのルーシーが前に出て、先が湾曲した木の魔杖まじょうをかかげる。


「光の聖霊よ。我が声に応え、闇を照らせ!」


 杖の先から光があふれ、穴は手前から順々に明るくなっていく。岩肌がかすかに発行していた。

 ロビンは中を確認し、大丈夫だと後ろのメンバーに伝える。


 十人全員で穴に入り、洞窟内の坂を慎重に下りる。ロビンのとなりにはマスタング商会から借りた従魔『リカルド』がいた。

 まっすぐに前を見て、胸を張って歩いている。

 何とも頼もしい姿だ。後ろを振り返れば、剣聖騎士団フロッティ・ナイツのメンバーも、それぞれが自分の従魔と一緒に歩いていた。


 そのほとんどがマスタング商会から買うか、借りるかした個体。

 ダークウルフにレッドホーク。ゴブリンやカーバンクルなど、様々な従魔が冒険者に付き従う。

 ロビンは隣を歩くリカルドに目をやった。


「よろしく頼むよ、リカルド」


 端正な顔立ちのダークウルフは、まるでこちらの言葉を理解しているかのように、小さく頷いた。


 ◇◇◇


 いま潜っているのは、グラスコで一番高い山『マナルス』のふもとにある迷宮。

 希少な鉱物や魔法石が採れることから、領主の指示の元、日々開拓が進んでいる。しかし、深い階層には強力な魔物が巣食い、二十三階より下に行けずにいた。


 魔物さえ討伐できれば、鉱夫が活動する拠点を作ることができる。

 剣聖騎士団フロッティ・ナイツのメンバーは洞窟を歩き続け、二十四階層に辿り着いた。

 ロビンが手を上げ、一行を止める。


 無言のまま手の動きだけで指示を出す。マーガレットの従魔、ゴブリンとリカルドが前に出る。

 ダークウルフとゴブリンは斥候せっこう役だ。

 行く先に危険があれば、いち早く知らせてくれる。ゴブリンはキョロキョロと辺りを見回しながら、短剣を片手に一歩、また一歩と前に進む。


 そんなゴブリンの腰巻を、リカルドがガブリと噛んだ。

 何をしているのか分からなかったが、リカルドが「アウッ、アウッ!」と鳴き声を上げる。

 何か見つけたようだ。

 ロビンとマーガレットが見に行くと、足元の岩が崩れかかっていた。


「危ない! こんなとこ落ちたら、二度と上がってこれないよ」


 マーガレットは苦笑して、地面を蹴り付けた。ゴロゴロと岩が崩れ落ち、底の見えない穴が出現する。

 ロビンは穴を覗き込み、思わず顔を歪める。


 ――なるほど、確かに落ちたら命はないな。


 リカルドに目を向け、クシャクシャと頭を撫でる。


「お手柄だ。リカルド、お前がいなかったら、真っ逆さまに落ちてたかもしれない」


 褒められたリカルドは、当然とばかりに胸を張った。その後もリカルドの活躍は続いた。

 危険な場所を的確に見抜き、嗅覚によって魔物の接近を感知する。


 戦闘では敵を翻弄ほんろうしつつ、ロビンを含む剣聖騎士団フロッティ・ナイツのメンバーをサポートした。

 機敏な動きに、敵の骨を砕く強靭な牙。

 奮闘ふんとうするリカルドを見て、ロビンたちは舌を巻く。


「本当に優秀な従魔だ。親方が自慢するのもよく分かる」


 オークを斬り捨てたロビンは、剣をさやに収めた。周囲には何体ものオークが血を流し、倒れている。

 二足歩行の豚の魔物。この迷宮に巣があるのだろう。


 普段なら、この数を相手にするのは少々骨が折れるが……ロビンはかたわらに立ち、尻尾を振るリカルドに目を向ける。


 ――やはり、この子のおかげか。


 このまま行けば、二十四階の魔物を一掃できるかもしれない。ロビンが希望を持って前に進もうとした時、迷宮の奥からただならぬ気配がした。

 リカルドも通路の先を睨んで、うなり声を上げる。


「何だ!?」


 岩場の向こうから現れたのは、三体の影。

 筋骨隆々の体躯、緑の肌に皮鎧を着こみ、斧や剣を持っている。あれは冒険者から奪ったものか?

 顔に泥を塗り込んだ異質の魔物。


「……ハイオーク!」


 ロビンは剣を構えながら、ギリッと歯噛みする。ハイオークは上位の魔物だ。

 オークとは比べものにならないぐらい強い。

 近づいて来たハイオークは、優に二メートルは超えている。威圧感も半端ではない。剣を握る手に力がこもる。


「Bランク以下の冒険者は下がれ! 従魔も後ろに!!」


 これほど強い魔物に対抗できる従魔は、このパーティーにはいない。自分たち上位冒険者が前に出なければ。


「デヴィット!」

「おうっ!!」


 大柄のデヴィットが盾と大剣を構え、ハイオークの前に立つ。ロビンやマーガレット、ルーシーが武器を敵に向け、戦闘態勢を整えた。

 次の瞬間――


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 洞窟内に響き渡る咆哮。

 体がビリビリと震え、ロビンたちはたちまち気圧けおされてしまう。

 一体のハイオークが走り出した。デヴィットは盾をかかげ、地面を蹴って相手とぶつかり合う。

 力と力の勝負。だが、デヴィットは力負けし、弾き飛ばされてしまった。


「うわっ!」


 地面に背中を打ち、ゴロゴロと岩肌を転がって壁に激突する。


「デヴィット!!」


 A級冒険者のデヴィットが相手にならない。

 ここまで強い魔物がいるのは予想外だ。そもそもハイオークは、迷宮のもっと奥に住み着く魔物。こんな浅い階層に出てくるなんて。

 ロビンは剣を構えてまま一歩下がる。


 逃げるか? いや、ハイオークの身体能力は人間の遥か上。

 足で勝てるはずがない。迎え撃つしかない。この戦力で!

 覚悟を決めたロビンを嘲笑あざわらうかのように、ハイオークの一体は斧を振り上げ、突っ込んで来た。


 ――やるしかない!!


 ロビンが踏み込もうとした刹那、横から影が飛び出す。

 何だ!? と、驚き目を向ける。視界に映ったのは、ハイオークに襲い掛かる一匹のダークウルフだった。

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