山肌にポッカリと空いた穴。ゴツゴツとした岩に囲まれ、穴の奥はどこまでも闇が広がっている。
ここに集まったのは、
ロビンやマーガレット、デヴィットやルーシーの姿もあった。今日は冒険者として来ているため、全員が万全の装備を身につけている。
銀の鎧を
「さあ、始めようか」
魔法使いのルーシーが前に出て、先が湾曲した木の
「光の聖霊よ。我が声に応え、闇を照らせ!」
杖の先から光が
ロビンは中を確認し、大丈夫だと後ろのメンバーに伝える。
十人全員で穴に入り、洞窟内の坂を慎重に下りる。ロビンの
まっすぐに前を見て、胸を張って歩いている。
何とも頼もしい姿だ。後ろを振り返れば、
そのほとんどがマスタング商会から買うか、借りるかした個体。
ダークウルフにレッドホーク。ゴブリンやカーバンクルなど、様々な従魔が冒険者に付き従う。
ロビンは隣を歩くリカルドに目をやった。
「よろしく頼むよ、リカルド」
端正な顔立ちのダークウルフは、まるでこちらの言葉を理解しているかのように、小さく頷いた。
◇◇◇
いま潜っているのは、グラスコで一番高い山『マナルス』の
希少な鉱物や魔法石が採れることから、領主の指示の元、日々開拓が進んでいる。しかし、深い階層には強力な魔物が巣食い、二十三階より下に行けずにいた。
魔物さえ討伐できれば、鉱夫が活動する拠点を作ることができる。
ロビンが手を上げ、一行を止める。
無言のまま手の動きだけで指示を出す。マーガレットの従魔、ゴブリンとリカルドが前に出る。
ダークウルフとゴブリンは
行く先に危険があれば、いち早く知らせてくれる。ゴブリンはキョロキョロと辺りを見回しながら、短剣を片手に一歩、また一歩と前に進む。
そんなゴブリンの腰巻を、リカルドがガブリと噛んだ。
何をしているのか分からなかったが、リカルドが「アウッ、アウッ!」と鳴き声を上げる。
何か見つけたようだ。
ロビンとマーガレットが見に行くと、足元の岩が崩れかかっていた。
「危ない! こんなとこ落ちたら、二度と上がってこれないよ」
マーガレットは苦笑して、地面を蹴り付けた。ゴロゴロと岩が崩れ落ち、底の見えない穴が出現する。
ロビンは穴を覗き込み、思わず顔を歪める。
――なるほど、確かに落ちたら命はないな。
リカルドに目を向け、クシャクシャと頭を撫でる。
「お手柄だ。リカルド、お前がいなかったら、真っ逆さまに落ちてたかもしれない」
褒められたリカルドは、当然とばかりに胸を張った。その後もリカルドの活躍は続いた。
危険な場所を的確に見抜き、嗅覚によって魔物の接近を感知する。
戦闘では敵を
機敏な動きに、敵の骨を砕く強靭な牙。
「本当に優秀な従魔だ。親方が自慢するのもよく分かる」
オークを斬り捨てたロビンは、剣を
二足歩行の豚の魔物。この迷宮に巣があるのだろう。
普段なら、この数を相手にするのは少々骨が折れるが……ロビンは
――やはり、この子のおかげか。
このまま行けば、二十四階の魔物を一掃できるかもしれない。ロビンが希望を持って前に進もうとした時、迷宮の奥からただならぬ気配がした。
リカルドも通路の先を睨んで、
「何だ!?」
岩場の向こうから現れたのは、三体の影。
筋骨隆々の体躯、緑の肌に皮鎧を着こみ、斧や剣を持っている。あれは冒険者から奪ったものか?
顔に泥を塗り込んだ異質の魔物。
「……ハイオーク!」
ロビンは剣を構えながら、ギリッと歯噛みする。ハイオークは上位の魔物だ。
オークとは比べものにならないぐらい強い。
近づいて来たハイオークは、優に二メートルは超えている。威圧感も半端ではない。剣を握る手に力がこもる。
「Bランク以下の冒険者は下がれ! 従魔も後ろに!!」
これほど強い魔物に対抗できる従魔は、このパーティーにはいない。自分たち上位冒険者が前に出なければ。
「デヴィット!」
「おうっ!!」
大柄のデヴィットが盾と大剣を構え、ハイオークの前に立つ。ロビンやマーガレット、ルーシーが武器を敵に向け、戦闘態勢を整えた。
次の瞬間――
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
洞窟内に響き渡る咆哮。
体がビリビリと震え、ロビンたちはたちまち
一体のハイオークが走り出した。デヴィットは盾をかかげ、地面を蹴って相手とぶつかり合う。
力と力の勝負。だが、デヴィットは力負けし、弾き飛ばされてしまった。
「うわっ!」
地面に背中を打ち、ゴロゴロと岩肌を転がって壁に激突する。
「デヴィット!!」
A級冒険者のデヴィットが相手にならない。
ここまで強い魔物がいるのは予想外だ。そもそもハイオークは、迷宮のもっと奥に住み着く魔物。こんな浅い階層に出てくるなんて。
ロビンは剣を構えてまま一歩下がる。
逃げるか? いや、ハイオークの身体能力は人間の遥か上。
足で勝てるはずがない。迎え撃つしかない。この戦力で!
覚悟を決めたロビンを
――やるしかない!!
ロビンが踏み込もうとした刹那、横から影が飛び出す。
何だ!? と、驚き目を向ける。視界に映ったのは、ハイオークに襲い掛かる一匹のダークウルフだった。