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第18話 敵はルナティタス

――――それから数刻後のこと、小屋で眠っていた全員が目を覚まし、さっそく今後の方針について小さな机を囲んで話し合うことになった。


 オルタシアはというと身体が動かせないほどの疲労が残っていたため、ベッドに横になったままで話をすることになった。


 オルタシアの第一声で話し合いが始まる。


「まず、我々は今の現状を把握し、今後の動きについて、確認しなければならないな。グロータスが吐いた情報は確かか?」


 視線でミナを見ると彼女は頷いた。


「はい殿下。団長が予想していたことと大体あっています」


 グロータスが持っていた情報はルナティタスの命令で、フェレン聖騎士団が動いた、ということだった。


 つまり、アルデシール王国の女王が命じたわけではなく、彼の独断だったということだ。マルトアの殺害命令も彼の指示によるものだと言い残した。


 次に最近、勢力を増していた星空教会について聞き出したことを皆に伝えるように言うと、彼女が話し始めた。


どうやらその組織はここ三ヶ月の間で急激に力をつけた組織らしい。


王都でも夜になるとランプを手に祭壇に向かい、空を見上げて祈りを捧げる姿がよく目撃されているらしく、国民からも信仰者が増えており、今では国の一大宗教になっているそうだ。


彼ら曰く、星空に祈りが届けば、星女神が迷う暗い闇から星の明りで正しく導いてくれるそうだ。


その星空教会にどういう経緯か不明だがフェレン聖騎士団が教会の守護として配置されることになったようだ。


それが世界全体の話なのか、アルデシールの騎士団だけなのかもまだここでははっきりしていない。


 が、少なくとも星空教会の最高司祭はルナティタスであるということはグロータスによってわかっている。


謎を秘めたこの組織は何を目指しているのか、何が目的なのかも定かではないが、ルナティタスは何かを企んでいるだろうという推測だけは成り立つ状況だ。


そして、大きな支配力を保持しているルナティタスこそ、今回の事件の中心にいる人物。つまりはオルタシアにとっての敵というわけだ。


「つまり我々の敵はルナティタスということだな?」

「はい。アルデシールを動かしているのはルナティタスだと思われます」

「あの男、こそこそとなにかをしているとは思っていたが……」


正直、これまでずっと政治に関しては関わろうとも考えようともしていなかったが、ルナティタスという男の存在は大臣らの中でもよく噂になっていた。


女王でさえ頭が上がらない存在だと耳にしたこともある。まさか裏であれこれと画策し暗躍していたなんて思わなかった。


(―――私はあまりにも周りを見てなかったんだなぁ……)


そう後悔してしまう。戦いが好きで、戦場しか目を向けていなかった結果が、この状況なのだと思うと悔しくて自分に怒りがこみあげて来る。


自分のことは自分が一番よくわかっている。自分の行いを危険視し、警戒していたつもりだった。


暗殺者を差し向けられることも考えてはいたが、まさか、白狼騎士団の団長マルトアが暗殺されるとは思いもしなかった。


今でも信じられない。どっかから、やぁ、みたいな呑気な声を出しながら彼がやって来るのではないかと思ってしまうほどだ。


「オルタシア殿下……これからどうすれば?」


リルがそう不安の言葉を吐いた。それは当然の質問だったかもしれない。オルタシアは迷うことなく言う。


「この手で、この手で、あのタヌキの首を切り落としてやる」


 怒りが混じった震える声でオルタシアは右手を天井に突き出して、ゆっくりと握り潰すかのように拳にした。


その姿を見た全員が彼女の瞳の奥にある燃え盛るような闘志を感じ取り、ごくりと息を飲む音が聞こえてきた。


その言葉の通り彼女は本気で戦おうとしていることが窺えたからだ。


その決意に答えるようにして、リルが立ち上がり、真剣みを帯びた顔で告げる。


「あたしもオルタシア殿下と共に戦います!」

「殿下、このミナは死ぬまであなた様へお供いたします。ルナティタスを地獄に落としてやりましよう」


二人の意思を確認したオルタシアは大きく頷いた。


シンゲンはそこで素朴な疑問を抱いた。


もし、ルナティタスを倒したとして、そのあとのことは考えているのか、と。


彼女らは今、復讐心に駆られている。しかし、大切なことを忘れているのだ。


それは、国を安定させること。シンゲンには政治には疎いが、これだけはわかっている。誰かが国の頂点に立たなけいけないことを。


「あの質問していいか?」


場違いそうにシンゲンは手をあげた。三人の視線が向けられ、拒否されなかったので、自分の考えを述べることにした。


「もし、ルナティタスを倒したとして、それからどうするつもりなんだ?」


先の話過ぎて、現実味がない問いにリルはそれに腕組みをして、んーとうなり声を上げながら答えた。 


「そうだな。全然考えていなかったけど、あたしはそう。マルトア団長の墓を作って、修道女にでもなるさ」

「え? リルがっ?!」


意外だったのかミナは大きな驚きの声を上げた。


「なによ、その反応?!」


リルはむっとした。


「いや、実は私もそう考えていたところなの。墓を作りたいってね。どうせなら立派なものを作ろうと思っているの。それで毎日祈るつもり、亡くなった団長に祈りを捧げようと思ってるのよね」


彼女にとってそれが、一番したいことだった。ミナは眉を寄せる。


「でも、リル、あなた、じっとできるの?」


心配そうな顔をする。いつも動き回ってせかせかと仕事をこなしている彼女を知っていたからこそ、静かな教会で、祈りを捧げる彼女が想像できなかった。

きっと我慢できなくてすぐ外に飛び出してしまうに違いないと思っていたからこそ、余計に。


「できるわよ!!」


だが、それを否定された。少しムキになって言う。そんな二人のやり取りにシンゲンは呆れたような顔をした。


「……そういう話じゃなくてさ、この国は誰が導くんだって話だよ」


彼はこの国の未来を考えていた。だから聞いた。それに二人はあぁ、と声を出し顔を見合わせて、考え込む。二人からの答えが出る前にオルタシアが感情の籠っていない声音で言った。


「そんなことこの私が知ったことじゃない。マルトアの復讐が―――」

「それじゃあ、ダメだ」


オルタシアは言葉を遮られたことで、不快に思ったのかシンゲンを睨みつけた。


それにシンゲンは怯まず、言葉を続けた。


「復讐で、国の指導者を殺しておいて、そのままにするなんてダメだ。国を導く必要がある。それが、国の指導者を殺した者の責務だ。というより、あんた王女なんだろ?」

「王女ではない。私は将軍だ」


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