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第36話 霊を食べる男

 都会から田舎に移住してきた青年、俊夫としおは、不思議な力があり、ただ霊感が強くて見えるだけでなく、人に憑いている霊や、その辺にいる霊まで「食べる」ことが出来るという。村人たちは皆誰一人として、その話を信じてはいなかった。


しかし、ある日村人の邦男くにおが俊夫に肩をポンと叩かれ、俊夫が何やら食べたようなので、邦男が俊夫に聞いてみた。

「わしに、何か憑いていたか?」

俊夫は

「肩に、霊体2体は重かったでしょう。もう大丈夫です。僕が食べましたから。」

邦男は驚き、肩を動かしてみて

「肩が軽くなった!肩、上がらなかったのに上がる!!」

とたいそう喜び、家に帰った邦男は家族に、俊夫の不思議な力の話は本当だった、と話した。


噂は村全体に広まり、俊夫の家には村人たちが次々に訪れていた。

「あんた、腰重かったろ?そりゃあ、霊体5体も背負ってたら…。」

「霊体ってどんな味がするんだ?」

「ああ、結構旨いんですよ。」

「そうなのか…。ああ、腰がすごく楽になった。ありがとうよ!」

「いやいや、お安いご用。」

村人たちは、

「最近はよく眠れるようになり、体調もすこぶるよくなったんだ。お前さんのお陰だ。」

「私も子どもは出来ないと諦めかけていたのに、授かることが出来たよ…。」

と皆俊夫に感謝の言葉を述べた。


 祖母も霊感が強く、見える人ではあったが、俊夫のように霊体を「食べる」なんてことは出来なかった。


しかし、俊夫にも「食べれない」霊体があった。それは、生き霊だ。生き霊だけはどうすることも出来なかった。


しかしながら、村人たちは自分たちに取り憑いた霊体、その辺にいる霊体を次々と俊夫に食べてもらったお陰で、身体も楽になり、村には平穏が戻ってきたかのように思えた、と祖母の日記には記されていた。


その記録では、まるでこの後に起こる村の災厄を暗示していたかのようだった。


もう、日記は祖母が亡くなった時に棺の中に入れて燃やしてしまったが、日記は、次は母親に引き継ぐべきだったのだろうか?


それは今となっては、誰もわからない。




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