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第8話 〇〇しないと出れない部屋

「良い感じだね」




「ええ! こんなにスムーズにモンスターを倒せているなんて……初めてのことですわ!」




 ボク達はダンジョン地下五層まで進み、コウモリや吸血グモ、スライム達を次々と亡骸に変えていった。これまでにもなく、順調にダンジョン攻略が進んでいった。




 ――しかし、ボク達は慢心していた。




「か、カナ!」


「え? って、きゃあ!」




 ボクはダンジョン内に生じていた異変に気付くのが遅れてしまった。




 ダンジョンの床の色が一部分だけ色が薄くなっていた。綺麗な正方形の形で。




 ボクが声をかける前に、カナはその色違いの床を踏んでしまった。




 その瞬間、ボク達は光に包まれた。




「う……カナ。大丈夫?」


「……ええ。ポルカこそ大丈夫?」




 ボクはゆっくりと目を開けた。




「ここは……部屋?」




 ダンジョンの中では無いかのような空間が広がっている。




 宿屋の部屋の中のような空間で、部屋の中にはベッドが一つ置いてある。宿屋の部屋と違う所は、窓が一つもないこと。




「とりあえず出ましょうか。あれ? 扉が開きませんわ」




 カナは扉を開けようとするも、ビクともしない。




 ――これは、恐らく冒険者が仕掛けた罠。


 ボクは注意深く周囲を見渡した。




 そして、扉の上の壁に文字が刻まれているのに気付いた。




「カナ、そこに何か書いてある……って、ええ?」




 ボクはそこに書かれている文字を読んだ瞬間、戸惑ってしまった。




 ――イチャイチャしないと出れない部屋。




「え……イチャイチャって……」




 ボクは思考を巡らせた。イチャイチャするって……何をすればいいの?




 急にボクの想像力が掻き立てられる。あれやこれやと、カナとのめくるめく甘い甘いひと時が脳内に展開されていく。そして、その妄想が加速すればするほどボクの思考力は溶けていく。




「カナ……ふひひ……って、わあ!」




 ボクは急に温かく、甘い香りに包まれた。




「か……カナ?」


「こうしないと出れないのでしょう?」




 ボクはカナに抱きしめられている。




「ほら、ポルカも抱きしめてください」


「う……うん」




 ボクもカナを抱き返した。




 お互いの熱と鼓動を感じる。そして、その鼓動、脈動を感じると共に、自分の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。




「ふふふ、ポルカ。ドキドキしてるのですか?」




 耳元でカナが悪戯っ子のような声で囁いてきた。




「か……カナこそ!」




 ボクは必死になって言い返した。




「ええ。ドキドキしてますわよ……」




 カナは腕を放し、ボクの目を見つめてきた。そして頬に手を当てて、顔を近づけてきた。




「ねえ、どこまでやれば条件を満たせるのですかね?」




「え……そんなの、わかんないよ……」




「ふふふ。ポルカ可愛い」




 ボクは頭が回らなくなってきた。ボクもカナも目がとろんとして、溶けてしまいそうになっている。




 もういいや。何も考えず、このまま快楽に溺れてしまおう。




 そんなボクの心の中で生じた誘惑の言葉に従い、ゆっくりと目を閉じた。




 そして、カナの唇を迎えるために、顎を少し上に向けた。




 ――しかし、そんな甘い雰囲気をぶち壊す者が現れた。




「おや? 誰か引っかかっていると思ったら『握力ゴリラ令嬢』か」




「あなたは……!」




 開かなかった扉を難なく開き、部屋の中に入ってくる女冒険者。




「荒くれ女冒険者のズーレ……」




 ――冒険者ギルドで、ボクからカツアゲしようとした荒くれ女冒険者だ。




 ウェーブがかった黒髪の長髪に日に焼けた小麦色の肌。カナと同じくらいの長身で、胸も大きい。上半身は水着のような布面積が少ない装いで、下半身の紫色のロングスカートは左右に太腿あたりまで切れ目が入っており、目のやり場に困ってしまう。




「おや? 見ない顔だな。って、一瞬少年かと思ったらとんでもない美少女じゃないか! こんな上玉見た覚えないぞ。おいおい、お前さん良い女囲ってるじゃねえか」




 ズーレは舌なめずりして、ボクをいやらしい目つきで見つめてきた。




「ポルカに手出しはさせませんわ」




「別に、お前さんでも良いんだぜ。このズーレと寝てくれよ」




 ズーレはカナの手を取った。しかし、カナはその手を振りほどけなかった。




「気付いたか? この部屋はあたしがスキル【ルーム・クリエイト】で作った空間なんだよ。この空間内ではあたしが絶対。あたし以外の者は弱体化する。二人ともこれからあたしに身も心も捧げることになるのさ。あはははははははははははははは!」




 ズーレは自分の胸を揉みながら頬を赤らめ、艶っぽく笑った。




「ポルカには手を出さないでください!」




 ズーレはペロリと舌なめずりし、カナの頬に手を当てた。




「いいよ。その代わり、あたしを楽しませてくれよ?」




 その言葉にカナは目を瞑った。




「ちょっと待って!」




 ボクは声を張り上げた。カナはこんな奴の毒牙にかかっていいわけない!




 何としてでも助けないといけない! 策は思いついていないけど、何とか時間稼ぎをしないといけない!




「なんでこんなことをするのさ! そういう……えっちな事をしたいのなら、娼館に通ってるような男達を相手にすればいいだろ!」




 ズーレはカナの頬から手を放し、ボクに近づいてきた。そして、ボクの頬をゆっくりと撫でまわした。




「そんなの決まっているだろ? 『リリィ覚醒』をするためさ」




 ――『リリィ覚醒』とは、冒険者にもたらされる奇跡の一つ。




 ダンジョン内で女性同士の絆が強く結びついた時に新たな力が目覚めると言われている。最強冒険者のイクリプス姉妹はこの現象により、自身のスキルをより強いものへと進化させたのだと冒険者達の間で噂されている。




「このダンジョンはね……祝福してくれるんだよ。こういう人間と人間との『交わり』をね。まだ男性同士、異性同士でこの現象が発生したことは確認されていない。なら、まずはとことん女同士で試してみないとなあ」




「まさか、今までもこのトラップを使って色んな女性たちと」




「気になるかい? あたしは経験豊富だよ」




 ズーレはいやらしい手つきで右手の指を動かして見せてきた。そして、ボクの両手と両足を縄で縛った。




「このダンジョンは地上の世界とは違う理が作用している! イクリプス姉妹の目の下の印を見たことがあるかい? それが力の象徴さ。力を手にした冒険者はダンジョンより刻印が刻まれる。そして、大いなる力を手に入れるのさ! あはははははははは!」




「でも、今までキミは成功したことないんだろ? なら別の方法を考えた方がいいだろ!」




 ズーレは手足を縛られて動けないボクを見下ろしながらニヤリと笑った。




「何より気持ちいんだよ。この快楽に溺れるやり方がねええええ! あはははは!」




 ボクは話が通じないことを理解した。そして、絶望に引きずり込まれそうになった。




「さあ、私達の熱く、激しく絡み合う姿を見るんだね」


「やめろ!」




 ズーレはゆっくりと再びカナに近づいた。




 嫌がって顔を背けるカナの顎を掴み、自分の方に向かせるズーレ。




「安心しな。じきに気持ち良くなる」




 そう言ってズーレはゆっくりとカナに顔を近づけた。




 ボクの心臓が激しく鼓動する。嫌な汗が全身から噴き出す。




 ――なんとかしないと!




 だけど、両手両足も動かせず、部屋の力で上手く力も出せない。




 なんとかしないと、カナが目の前で……目の前で……!




 ボクは為す術が無いことを認識しながらも、脳をフル回転して解決方法を探す。だけど、見つからない。ボクは悔しくて、情けなくて涙が込み上げてきた。




「やめろ……やめろ……」




 だけど、ボクの声は届かない。現実は残酷で、どれだけボクが強くこの現実を変えたいと願っても、何も起こることは無い。ボクは感情を爆発させ、心の奥底から湧き上がるエネルギーを全て使い、叫んだ。




「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



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