話がひと段落したボクと“オボロさん”は、玄関前の庭へ移動した。そこではミカ・イクリプスや他の『アカツキ』のメンバー。そして、カナが戦闘特訓をしていた。
「戻ったのねアンタ達! それにしても、ずいぶん長かったわね!」
ボク達に気づいたミカ・イクリプスが声をかけてきた。
「ええ。とても有意義な時間だったわ」
ボクとオボロさんは沢山情報共有できた。オボロさんとはものの考え方が近いと感じ、正直親近感を覚えた。
元々、冷たい感じで近寄りがたい印象を抱いていたけど、今回の交流のお陰で印象が大きく変わった。
「オボロ。アンタがそんな満足そうな顔しているの珍しいわね」
「ポルカさんのアイテム開発能力が非凡だったから。とても参考になったの」
「ふーん。良かったわね!」
ボクは庭の方へ視線を移した。すると、ちょうどカナが戦闘訓練を行っている所だった。
――他のサポーターから支援魔法を受けた状態で。
オボロさんとの会話で、カナとの関係についてモヤモヤしていた感情を忘れることができたが、この光景を見てしまったため、再び暗い気持ちになってしまった。
「ミカ。カナの動きが良くなったわね」
「そうね! まだまだだけど、オボロの言う通り成長を感じるわ。まあ、スキルに恵まれなかったとしても、ずっと私達と訓練してきたからね。並の冒険者に負けるような育て方はしてきていないわ!」
ボクは空を見上げた。今にも雨が降りそうになっている。雲全体が灰色に染まってきた。
「やあ! はあっ!」
剣を上手く使いこなし、懸命に戦うカナ。支援魔法で強化されているために、動きもこれまで見たことが無いような、熟練した冒険者のような立ち回りをしている。
「ボクが居なくても、戦えるじゃん」
ボクは思わず呟いてしまった。そして、その言葉は隣に居たイクリプス姉妹にも聞こえてしまっていた。
「この世界、誰だって替えが効くわ。自分だけが特別なんてありえない」
「……うん」
オボロさんに厳しいことを言われてしまった。交流する前だったら反発心で無視することもできたかもしれない。だけど交流し、少しでも心を通わせてしまった相手だから、その言葉がボクの心にズシンと響いた。
「アンタねえ! 言い過ぎよ。それに……『誰だって替えが効く』というのは間違っている。なんてったって、この私は特別よ。私は冒険者の中の王! 特別は存在するの!」
「あーはいはい」
オボロさんは自分の姉に対して、とても呆れたような表情を向けた。
「ねえ! 適当に受け流しているんじゃないわよ! キイイイイイイ!」
「うるさい」
ミカ・イクリプスはオボロさんの両肩を掴み、前後に揺らした。それに対してオボロさんは無表情でゆさゆさと揺らされてる。
「こんの生意気な妹め! 姉であり冒険者の王である私を敬いなさい!」
「ちゅ」
「ひああああああああああああああああ! 何すんのよこんな公衆の面前で!」
突然オボロさんは姉にキスをした。完全に妹に手玉に取られている姉。ボクはそんな二人の姿を見て、少し心が軽くなった。
「はあはあはあ……とにかくね、ポルカ! アンタはちゃんとカナのことを見なさい!
あの子はこれまでずっと武器を使わずに握力強化のスキルを活かすために素手で戦ってきた。
だけど、今日初めて剣を使いだした。
聞くところによると、アンタがあの子に剣を使うようにアドバイスしたらしいじゃない!
アンタとカナがどうやってパーティとして協力しているのか私は知らないけど、アンタは確実にあの子の力になっているわ!
それも、私達でも気づかなかった方法で。うじうじしてるんじゃないわよ!」
「なんだ。ちゃんと言葉使えるんじゃない。いきなり『自分が王』とかふざけたこと言うから、言語能力を失ったのかと思ったわ」
「もおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 元はと言えば、アンタの言葉遣いが全然なって無かったからでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「そんなことないわ」
オボロさんは静かに微笑み、ボクの方を見て言った。
「ポルカさんならちゃんと受け止めて、自分で答えにたどり着くはずよ」
暴れていた“ミカさん”は静かになり、オボロさんを意外そうな顔で見た。そして、恐る恐るボクの方を見て、尋ねた。
「そうなの?」
「……うん。その……オボロさん、ミカさん。ありがとうございました」
ボクは二人に対してお辞儀した。
そんなボクの態度に目を丸くしたミカさんとオボロさんはお互い顔を見合わせ、そして微笑んだ。
「あれ? 三人とも仲良くなったんですの? 良かったですわ」
訓練を終えたカナが汗を拭きながらボク達に近づいてきて、キョトンとした顔で言った。
「……うん。おかげ様で」
「それは良かったですわ!」
ニッコリと眩しい『完璧な』笑顔をカナは見せた。
再び空を見上げたボクは、灰色の雲間に隠れた太陽が光芒を放っているのに気付いた。