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【第十五話】俺達のクランからお前を追放する! とドヤ顔で告げたいお年頃

 名前を呼ばれた楓音は、一度目を合わせるも、興味がないのかすぐに逸らした。

 おい、楓音よ。名前を呼ばれたぞ。返事はしなくていいのか。


「赤の門の隠し通路を見つけたんだろ。俺らより若いのに中々やるじゃん。でもまあ、やっぱソロだと限界もあるよな」


 おっと。どうやら無視されたと思っていないのか、それとも気にしていないのか。五人組のリーダーと思しき男子が得意気に楓音に話しかける。


「俺らさ、ずっと五人で行動してたんだけど、今日こいつをクランから追放する予定だったんだよ」

「……え、……ボク?」

「お前以外に誰がいるんだよ。足手まといなの気付いてなかったのか」


 仲良し五人組と思われたが、俺の予想は外れだったらしい。一人、小柄な女子が今まさに所属しているクランを追放されようとしている。


「なあ、聞いてくれよ。こいつさ、ダンジョンで全く役に立たないんだよ。防御魔法しか使えないんだぜ? 俺らが欲しいのは君みたいに攻撃できる奴なのにさ」


 楓音を加える為にわざわざ一人追放しなくても、六人組で行動すればいいだけの話なのに、四人で残りの一人をケタケタと笑い者にしている。実に胸糞悪い連中だ。


「ってことでさ、ちょうど枠が一つ空いたし、俺らと一緒にクランを組まないか」

「先客」


 そう言って、トントン、とテーブルを指で叩いて俺の存在を知らせる。

 勿論、一緒にソファ席で寛いでいるのだから見えないはずもない。つまり、彼らにとって俺はお呼びじゃないってことだ。


 しかし楓音のおかげで……いや、楓音のせいで、五人全員の視線がこちらへと向く。


「先客って、まさかこのおぢさんのこと?」

「ウケるんですけど」


 五人組の……否、既に四人組となった中の女子二人が声を出す。

 俺はおじさんではない、まだ二十歳だ。


「どうも~」


 ヘラヘラした顔を作って手を挙げる。そして小さく会釈をしてみせる。

 しかしすぐに興味を失ったのか、彼らは再び楓音へと目を向けた。


「こいつと行くのか? 得物の一つも持ってないけど、もしかして魔法が得意とか言わないよな?」


 こいつ呼ばわりか。腰巾着とか言われないだけマシだけど、もう少し年上を敬ってほしいものだ。


「こう言っちゃ悪いけどさ、俺達のクランに入った方が探索も捗ると思うぜ? だからそんな野郎さっさと追放しちまえよ」


 お前は追放系のライトノベル大好き野郎かな。

 もっとエロ本を読め。そしてもっともっと変態に成り下がるべきだ。


「おあいにく様、彼はあたしよりも強いから」


 四人組によるクラン加入のお誘いに対する、楓音の答えが出た。

 隣でその台詞を聞いて、苦笑いする俺。すると四人組は大笑いした。


「御剣楓音、君って確かランク十一位だったよな? こいつが君より強いって冗談にも程があるだろ」

「まあいいじゃん。どうせ潜る門は同じだし、入口で待ってようよ」


 待ち伏せするつもりか。

 四人組は楓音に挨拶をした後、組合の外に出ていく。面倒な奴らに絡まれたものだ。


「……きみはどうするんだ?」

「あ、ボク……すみませんでした」


 一方、一人残されたボクっ娘は、クランから追放されて呆然と立ち尽くしていた。声をかけると我に返って謝ってくれたが、別にこの子が悪いわけじゃないからな。


 俺達の許をトボトボとした足取りで離れると、そのまま姿を消した。


「それにしても、有名人は大変だな」


 ようやく二人きりになった。

 疲れを溜息に変換しつつ、俺は隣の女子に声をかける。


「有名人って?」

「お前だよ」

「あたしが?」

「今、一番旬なランカーだろ。取材も受けてたじゃないか」

「……あれは適当にあしらったら勝手に捏造されただけよ。マスコミって、ホントに迷惑ばかりかけてくるから大嫌い」

「それには同感だ。俺も安眠を邪魔されたからな」


 マスコミの被害者がここにも一人。

 そうこうしている中に、探索許可が下りた。


「さあ、入りましょう」

「御剣楓音とゆかいな仲間たちの初陣戦だな」

「恥ずかしいから口に出さないでちょうだい」

「クラン名だぞ? 堂々と言えばいいんだよ」

「あんたは自分の名前が付いてないからいいでしょうけど、あたしは恥ずかしいのよ」

「俺だって“ゆかいな仲間たち”枠だぞ? 恥ずかしくて身悶えしてるからな」

「御剣楓音とドヘンタイな仲間たちに改名した方がいい気がしてきたわ」

「じゃあ今から申請し直すか」

「絶対にやめて!」


 探索者組合を後にして赤の門の前に行くと、予想通り四人組が待っていた。

 さすがにここまでくるとストーカーの一歩手前だな。俺が言えた義理じゃないが、今の中に対処しておいた方がいいだろう。


「やあ来た来た、一緒に入ろうぜ」

「お断りよ」

「おいおい、つれないこと言うなよ」


 四人組の一人が、楓音の肩を馴れ馴れしく触ろうと手を伸ばす。

 だが、その手が止まった。


「……ん、え、あ? なんだこれ……? か、体が……動かない!」

「ぐっ、俺も……⁉」

「わたしも!」

「なんで? なにこれ⁉」


 突然の出来事に、四人組は戸惑いの声を荒げる。

 目の前で見ていた楓音は、目を細めて四人組を見た後、俺へと視線を移した。そんな目で見るんじゃありません。


「さあ、絡んでくる奴もいなくなったことだし、魔物退治に行きますかね」

「ねえちょっと、これってあんたが何かしたの?」

「かもしれないな。まあ、俺達が赤の門に入ったら動けるようになるんじゃないか?」

「……ふうん?」


 それ以上は追及せず、楓音は赤の門の前へと歩を進める。

 他にも探索者や野次馬がいるが、遠巻きに見ているだけで話しかけてはこない。


「ダンジョン内でも付きまとわれたら面倒だよな」

「その心配はないでしょ。あたしたちが行くのは隠し通路で、そこに入るには圏内じゃないと許可が下りないもの。彼らが圏内なら話は変わるけどね」

「あー、隠し通路か……あるといいけど」

「はあ? あるでしょ」

「いや、まあそうだな」


 言葉尻が弱くなるが、仕方あるまい。


「じゃあ、今日は一日背中を任せるから……よろしく、綴人」

「お、おう」


 茶川じゃなくて、綴人呼びか。

 ふいに名前を呼ばれると驚いてしまう。


「ところで……あんたさ、ほんとに武器無くても大丈夫なの?」


 と思ったが、普段はあんたと呼ぶつもりのようだ。

 まあそんなもんだよな。気にするだけ時間の無駄だ。


「この前、拳銃みたいなの使ってたけど……今日は持って行かないの?」

「心配するな。俺の武器はここにある」


 そういって、頭を指でトントンと叩く。


「は? ……まさか頭脳が武器とか言わないでしょうね」

「半分正解かな。俺の武器はズバリ、妄想力だからな!」

「ヘンタイね」

「違う! いや、違わないけど!」

「妄想でどうやって魔物と戦うのよ」

「見てれば分かるよ」


 肩を竦めると俺と、肩を落とす楓音。

 彼女の横に並び立ち、共に赤の門を潜った。


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