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【幕間】打ち上げの後は、やっぱり……するのよね?

 赤の門の外に出ると、四人組はまだそこにいた。

 ずっと同じ体勢で、助けてくれと叫んでいる。


 野次馬に囲まれたまま、探索者組合の職員が抱えて移動させようとしているけど、どんなに頑張っても動かせないみたい。額に汗を掻き、苦悶の表情を浮かべている。


「ねえ、あたし達が門に入ったら動けるようになるんじゃなかったの?」

「ん? ……そんなこと言ったっけ」


 綴人はあらぬ方を見ている。

 この態度、絶対に知っててやったはず……というか、これも彼の固有ユニーク能力スキルによるものだとしたら、あたしなんか足元にも及ばない。転移魔法は不意打ちするには便利だけど、ネタが割れたら対策され易いし。


 だけど、彼はあたしの力を手放しで褒めてくれた。それに彼は自分の力をひけらかしたりしないし、探索者として目立とうともしない。


 エロ漫画家、茶川綴人。

 彼には欲というものがないのかしら。


 動けない四人組を横目に、探索者組合に足を運んで魔石を提出する。

 ソファ席で暫く待って報酬を受け取ると、横で「おぉ……」と彼が声を漏らす。あたしにとっては大した金額じゃないけど、彼にとってはそうじゃないのよね。


「本当にいいの? 全部上げてもいいんだけど」


 テーブルの上に報酬を置き、キッチリ半分にする。


「いい。これだけあれば資料がたくさん買えるからな」

「あんたさ、先に家賃支払っておきなさいよね」

「ふふふ、案ずるな。実は今月の家賃は既に払い終えている! 俺は誠実な人間に生まれ変わったのだ!」

「胸を張って言うことじゃないし、それって当たり前のことだからね」

「そうともいう」

「……じゃあ、打ち上げでもする?」

「打ち上げ? 何のだ?」

「何のって、初陣成功を祝ってに決まってるでしょ」

「なるほど、確かにそうだな! じゃあ今日はパーッと飲んで食べるか! そうと決まれば早速コンビニに行くぞ!」

「まさかコンビニで済ませるつもり?」

「未成年を連れて居酒屋に行くわけにもいかないからな、それに俺は酒を飲まないし」

「あんたって……ヘンタイのくせに変なところで真面目よね」

「変態紳士だからな」

「褒めてないからね?」


 肩を竦めつつも、あたしは脈が早まるのを感じている。

 コンビニで打ち上げ用の食べ物や飲み物を買うとしたら、打ち上げする場所は当然、彼のアパートよね。


 探索一回分の御返しってことで、彼が描く漫画のモデルになる約束もあるし、もしこのままついていったらその場の流れで……。


 いやいや、前に変態が付くけど一応紳士だし。

 それに大切なクランメンバーだから信用するべきだし、何より打ち上げを提案したのはあたしだ。


 うん。

 背を任せる仲間なのだから、信頼するべきだよね。


「ほら、乗れ。時間は有限、時は金なりだぞ」


 自転車に跨り、後部座席に乗れと催促される。

 あたしは言われるがままにお尻を乗せると、彼の肩に手を置いた。


「振り落とされるなよ」

「安全運転しなさいよね」


 互いに言い合い、彼の漕ぐ自転車でコンビニへと向かう。

 ちょっとだけ、期待に胸を膨らませて。


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