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19.新年早々やらかしてくれるんだから

 後片付けを終わらせると、いよいよ宝探しゲームの始まりだ。

 ジャンはコムリコッツの短剣を、鞘ごと外して皆に見せた。


「家の中にこの短剣を隠して、一人ずつ探し当てるゲームだ。早く探し当てた人ほど、トレジャーハンターの適性があるってことになる」

「「なんだ、そんなの簡単じゃない」」


 アンナとアリシアがシンクロして言葉を放った。

 二人とも、自信満々に胸を張る。


「言うほど簡単じゃないと思うぞ。部屋数も多いし、隠し場所はいくらでもあるからな」


 グレイはぐるりと家の中を見回した。この広い家に短剣程度の大きさならば、隠すのも簡単だ。


「探られたくない場所もあるだろうし、そこは除外した方がいいね。アンナの部屋とグレイが使っている部屋は除外、筆頭の部屋も除外だ」

「え! 私の部屋も除外しちゃうの!?」

「見られたくないものとかあるだろ」

「別にないわ、平気よ」

「……俺が嫌だから。じゃあ、探す順番を決めよう」

「私は最後がいいわ! 真打ちは最後に登場するものよ!」


 アリシアが自身満々に言い、「どこからそんな自信が出てくるかな……」と言いながら、ジャンは残りの二人に目を向けた。


「筆頭は最後に決定だ。俺たちはどうする?」

「私が最初でもいいかしら」

「もちろん。ならグレイが二番目、俺が三番目でいいか。アンナは隠し終えるまで、自室で待っててくれる」

「わかったわ」


 アンナが部屋に行くと、三人は隠し場所を探し始めた。

 最終的に、普段使わない二階のクローゼットに置いてある、木箱の中に入れたのだが、アンナはスタート直後にまっすぐそちらへと向かっていく。


「見つけたわ」


 クローゼットを開けた直後、まだ木箱に触れてさえもいないのにそう言って、アンナは微笑んだ。


「ここでしょう?」


 アンナが開けるとジャンの短剣が姿を現す。

 すぐに見つけるだろうと思っていたジャンですら、この早さには驚きを隠せなかった。


「予想以上だな。まさか、こんなに早く見つけるとは思わなかった。二分も掛かってないよ」

「すごいわ、アンナ! さすがロクロウの娘ね!!」

「そんなにわかりやすいのか?」


 グレイの問いに、アンナはにっこりと笑う。


「これは特別わかりやすいのよ。指輪とかお財布だと、ここまで明確にはわからないわ。さすがコムリコッツ族の遺産よね」

「そんなもんか……よし、次は俺だな」


 今度はグレイが部屋で待っている間に、アリシアが「私が隠すわ!!」と張り切って、キッチンの床収納庫へと隠す。普段はマットで隠されているから、気づかれない場所だ。

 グレイを呼び、出てきた彼は、三人の顔を順番に見つめた。


「誰が隠したんだ?」

「秘密よ!」

「アリシア筆頭か」


 そう言うと、グレイは居間の方へと足を向けた。しかしニコニコしているアリシアを見て、すぐに戻って違う部屋に入ろうとする。

 それを何度か繰り返した後、


「この部屋だな」


 と、グレイはキッチンに当たりをつけた。

 棚を開けたり、テーブルの下を覗くグレイに、余裕の顔を見せるアリシア。

 しかし、ある場所に来ると一瞬だけ顔色が変わる。


「ここになにかあるのか?」


 訝ったグレイが、足元のマットを捲った。そこには床下収納の扉がある。


「ここか」


 扉を開けて、グレイは短剣を発見した。

 むむうっとアリシアが口を尖らせ、ジャンがすぐさま懐中時計を確認する。


「十六分だな」


 恋人が予想以上の早さで見つけたので、アンナは単純に喜んだ。


「すごいわ、グレイ! あなたもトレジャーハンターの適正があるんじゃない?」

「いや、俺は筆頭の顔を見て推測しただけだ。それがなければ難しかったと思うぞ」

「ええ? 私、顔に出てた??」

「バレバレでした」

「なんだ……もう、母さんったら」

「むうう」


 今度はジャンが探す番である。

 アリシアが隠し場所を知っていると顔に出てしまうからと、アリシアとジャンを一緒の部屋へと押し込んだ。

 あれこれと悩んで絶対わからない場所に隠したのだが、ジャンは結局五分ほどで短剣を探し出したのだった。


「ジャンも私たちの顔色を見て判断したの?」

「まさか。長い間こいつと一緒にいるせいかな……呼ばれた気がしただけだ。遺跡に行っても、呼びかけられる気がすることがある」

「ジャンも遺跡に行ったことがあるの?」

「たまにね」


 そして最後は真打ちアリシアである。

 自信満々だった彼女は──


「本当にこの家に隠したの!? 見当たらないわよ??」


 家の中の物を全部引きずり出し、一時間経っても見つけられず、最後には悔しそうにギブアップをしたのだった。


「んもう、母さんったらこんなに引き出して……片付けるの大変じゃない!」

「だって、まさかテーブルの脚に縛り付けてあるだなんて思わないじゃないのぉ! ずるいわ」

「ずるくないわよ。みんな母さんに配慮して、わかりやすいところにしたのよ! あそこを見逃すなんて、信じられないわ!」

「むうううっ」


 アリシアが引き出してぐっちゃぐちゃにした物を、全員で片付ける羽目になったのだった。

 特にアンナは顔をむっつりとさせて、怒りをじわじわと溢れさせる。


「まったく、母さんは新年早々やらかしてくれるんだから……」

「すぐ見つかると思ったのよぅ」

「トレジャーハンターの才能ないよ、筆頭。知ってたけど」

「あっはは、本当ね! でもここまでとは思ってなかったわぁ」

「もう。本当に、いつもどこから自信が湧いてくるのよ……」


 トレジャーハンターの才能など皆無であるというのに、短剣を一瞬で見つけられると思い込んでいた母親を見て、アンナは息を吐いた。


「あ、ダメよ、アンナ! 溜め息は!」

「はいはい、天使様が見ていらっしゃるから、溜め息を吐きたくなった時ほど笑って差し上げろ、でしょう?」

「あーっはっは!! その通りよ! ほら笑いなさい! あーっはっはっはっはぁ!!」

「ふふっ、もう」


 アンナはくすくすと笑い、アリシアは満足げに太陽のような笑みを見せた。

 ジャンは慣れているので平然と二人を見ているが、グレイは初めて見る光景に唖然とする。

 そんなグレイを見て、アンナは苦笑いを向けた。


「母さんの前では溜め息厳禁なのよ。うちの家は代々、幸せの神様や天使様の奇跡の話が好きみたいで。溜め息を吐きたくなった時ほど、こうして笑うの。慣れてね」

「……慣れるのか、これ……」


 大きな声で明るく笑い続けるアリシアを見て、絶対に彼女の前で溜め息は吐くまいと誓うグレイであった。


 片付けに時間が掛かり、終わった時にはもう夕食の時間である。

 皆で食事の用意をすると、また食卓を囲んで食べ始めた。


「せっかくの休みだったのに、片付けで終わっちゃったわねぇ」

「もう、誰のせいよ」

「まぁいいじゃないの! おかげでいらない物も処分できたじゃない」

「私はいいけど、グレイとジャンに謝ってよ母さん。二人の大事な休暇を台無しにしちゃったんだから」


 娘に怒られたアリシアは珍しくしゅんとして、グレイとジャン、交互に目を向けた。


「ごめんなさいね、グレイ……」

「俺はどこになにがあるかわかってよかったですよ。この家のこと、もっと知りたいと思ってたんで」

「ジャンも」

「別に……いつものことだから」


 二人の受け入れの言葉を聞いて、アリシアは一瞬で笑顔を取り戻した。


「ふふっ、二人は優しいわね」

「二人とも甘やかし過ぎよ。また母さんが調子に乗っちゃうわ」

「いいじゃない、調子には乗るものよ!」

「……まぁ、母さんだものね」


 アンナは結局苦笑いであっさりと受け入れた。色々とぶっ飛んでいる母親を気にしても、どうしようもないことをわかっているからだ。

 そんないつも突拍子もない行動と発言をするアリシアを見て、グレイはふと思い出した。


「そう言えば去年、アリシア筆頭は遺跡に行くって言ってたけど、大丈夫だったんですか?」

「今ここにいるから大丈夫だったんでしょ」

「身も蓋もない言い方するなよ、アンナ……」


 会話をぶった切るアンナに、グレイは乾いた笑いを向ける。


「あはは、あの時は結構大変だったのよね! まぁジャンがいてくれたから、なんとかなったわ」

「ジャンが一緒に行ってくれてたのね。ありがとう。母さんは無茶するから、大変だったでしょう」

「まぁね。筆頭は全然懲りてないみたいだけど」

「だって、楽しかったじゃない!」

「あなたがそう思ってるなら、それでかまわないよ」


 色気のある視線をアリシアに向けて、うっすらと笑うジャン。

 そんな人がアリシアの部下で、アンナはホッとしていた。


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