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難攻不落のチェルノーゼム
難攻不落のチェルノーゼム
さこここ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年02月04日
公開日
6.2万字
連載中
異世界に転生したサラリーマンの記憶を持つ少年、クレイ。 平和な村に温かい家庭。 順風満帆な生活を送っていたはずが、五歳の誕生日に最弱スキルを授かってしまった事で、全てが一転する。 一年後、クレイは両親に一服盛られた末に、王都に捨てられた。見知らぬ土地、周囲の助けも期待できない……このままでは飢えて死んでしまう。 何とかしたいけど、家もないしお金もないし仕事もない。頼れるのは己の知識と最弱スキルだけ。 クレイはこの世界で、平穏な暮らしを手に入れる事が出来るのか。 ※注意 タイトル回収までゆっくりです。 ハーレムもかなりゆっくりです。 カクヨムにも連載しています。

第1話 全ての始まり

「異世界転生六年目にして、捨てられてしまった……」


 カヴァル歴五十年、春の日の事だった。

 意識が無い間に捨てられたようで、慌てて身体を起こして石の壁を背にひんやりとした石畳に座り込む。どうやらここは路地裏のようだ。


「父さん、母さん……」


 下を向いてばかりだと気が滅入るので、透き通るように真っ青な空を見上げながら独り呟く。


 どうして捨てられてしまったのか、理解はしているが納得はしていない。恐らく、アレが原因だろう、という心当たりはある。


「あら、これ安いわねぇ」

「いらっしゃいー! 新鮮なガルーダ村の野菜だよー!」

「気をつけろ、馬車が通るぞー!」


 ふいに聞こえたざわめきの方をチラリと見れば、手が届くところに普通の生活が溢れかえっていた。


 買い物をするおばちゃん、客を呼び込むねじり鉢巻を締めた露店のおっちゃん、歩行者を怒鳴る馬車の御者……俺以外の誰も彼もが、今という時を謳歌しているんじゃないかと思ってしまう。


「なぁんで、こんな事になっちまったんだろうなぁ。いっその事、犯罪でも……っていやいやいや。何を馬鹿な事を考えているんだ」


 道行く人を眺めていると、どす黒い嫉妬の感情が芽生えている事に気付いた。慌てて空を見上げて荒れた気持ちを鎮める。俺とした事が、何を考えているのやら……。


 自己嫌悪に陥っていると、胸の内から幸せに暮らしていたこれまでの記憶が湧き上がってきた。


 ヴィンスとエリーシア、幸せ真っ盛りな新婚夫婦の下に赤ん坊として転生した元サラリーマンの俺。

 生を受けたのは、国の端っこにある人口五百人程度の小さな村。村の名前はガルーダ村という。


 俺はちょっとだけ引っ込み思案な子供だったけど、それでも家では三人の笑い声が絶えなかった。


 碌でも無かった前世と違って、人の温もりを感じる穏やかで幸せな時間を過ごしていた……はずだった。


 だけど、そんな日々は五年しか続かなかった。

 二人は、ある日を境に俺に見向きもしなくなった。


 切っ掛けは五歳の誕生日を迎えた春の日。今からちょうど一年前の事だった。


 俺たちドラゴニア大陸に住んでいる人は、五歳の誕生日に村の女神教会で祝福を授かる。


 生まれた時点で、前世の記憶をハッキリと認識していた俺は、この日を待ちわびていた。


 教会にある女神像に跪いて祝福を受けると、女神様がその人に合ったスキルを授けてくれる……はずなのだけど、俺は何故かスキルを授かれなかった。


「無垢な子がスキルを授かれないなど有り得ぬ」


 信仰深い神父は、俺がスキルを授かるまで何度も祝福を与え続けた。そして何度目かの挑戦でようやく、俺にもスキルが授けられた。


 俺の身体を、じんわりと温かい光が包み込んだと思ったら、身体の内からポカポカとした何かが湧き上がってくるのを感じた。


 精魂尽きた様子の神父が俺に与えられたスキルを読み取ったところ、急に顔を顰めて両親を部屋の隅へ手招きしてヒソヒソと話し始めた。


 この時俺は、異世界転生でお約束であるチートスキルを授かったのではないかと思っていた。

 異世界チートでハーレム作るぞー、なんて呑気な妄想を膨らませていたのだけど、一体どんな恩恵を授かったのだろう。


「神父様、ありがとうございました」

「いえ、これも女神様のお導きです。あなた方に女神様の祝福が在らんことを……」


 両親と神父が、ペコペコとお辞儀合戦を繰り広げているところに、俺が割って入るとエリーシアがギロリと俺の事を睨んできた。


「ねぇ、どんなスキルだったの?」

「静かにしなさい!」


 俺がスキルの事を尋ねると、エリーシアに怒鳴られた。エリーシアの声が教会に反響する。


 普段だったら、ヴィンスがエリーシアの事を制止するのだけど動く様子はない。

 もう一度ペコリ、と面食らった様子の神父にお辞儀すると、エリーシアは俺の腕を掴んで歩き始めた。


「ねえ、スキルは?」

「……」


 二人とも、俺の問いかけに答えてくれない。

 何か二人を怒らせるような事をしてしまっただろうか。今日起きてから今までの事をざっと思い返しているけど、当然心当たりはない。


 俺が口を開く度、俺の腕を掴むエリーシアの手に力が込められていくので、結局家に着くまで俺は口をつぐむ事しか出来なかった。


「い、痛いよ!」

「うるさい! この役立たずがっ!」


 家に着く頃には、俺の腕は限界を迎えかけていた。

 青白くなるほど力が込められたエリーシアの手を、俺が左手でペシペシと叩きながら手を放すよう訴えると、声を荒げたエリーシアに左手も掴まれてしまった。


「お前の、お前のせいだ……」

「な、何が僕のせいなの!? 母さん、放してよ!!」

「私を母さんと呼ぶな!!」


 顔を俯かせた状態でブツブツと何かを呟くエリーシアの様子に、恐怖を感じた俺がエリーシアの手から逃れようとジタバタと暴れると、次の瞬間俺は宙を舞っていた。


「え?」


 何が起きたのか、分からなかった。

 瞬き一回分の時間、俺の身体は宙を舞ってそして家の壁に叩きつけられた。


 一拍してからようやく、エリーシアに放り投げられたのだと気付いた。背中にズキズキとした痛みを感じながら、俺は呆然とエリーシアを見上げる。


「……ッ!」


 俺は、その時見たヴィンスとエリーシアの表情を一生忘れないだろう。


 息を切らしながら、親の仇のように俺の事を睨みつけるエリーシア。普段のにこやかな美人妻、といった雰囲気は一切感じられない。


 髪は乱れ、興奮で血走った目からは狂気を感じる。薄暗い部屋なのも相まって、一気に十歳以上老けたとさえ錯覚してしまう。まるで幽鬼のような有様だった。


 エリーシアは、喉の奥から絞り出すようにして俺に罵声を浴びせる。


「このガキが……よりにもよって【土あそび】なんて最弱スキルを授かるなんて……お前が珍しいスキルを授かっていれば、借金を返せたはずなのに!!」


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