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第22話 提案

「はい、出来ました」


 俺は【土あそび】で作ったソーサーをグリンドルに手渡した。今回は皿が小さかったからか、五分程度で完成させる事が出来た。


 組み合わを吟味出来てない皿を一つにしてしまったから、微妙な完成度ではあるけどそれでも特徴的な皿が出来上がった。


「こ、これは……!!」


 グリンドルは目を見開いて言葉も出ない様子だ。そりゃそうだ。

 陶器好きな貴族の間で、今新しい流行になっている皿を年端のいかない小汚い少年が作っていたのだから。


「もう一丁、【土あそび】!」


 グリンドルがほうけて皿を眺めている間に、もう一枚のソーサーも完成させる。


「はい、セバスさん」

「おぉぉ、これはまさしく今話題となっている皿だな……主人がかなりのご機嫌であったから不思議に思っていたが、こういう事だったのか」


 オズワルトは俺との約束通り、皿の件を側近であるセバスにすら話していなかったようだ。


 グリンドルに渡したソーサーをまじまじと見ていたはずなのに、セバスも感慨深げにソーサーを観察しだした。


「オホン…………組合長!」

「な、なんじゃ!?」


 俺が咳払いをしても、未だにソーサーに夢中なグリンドル。

 割と大声で呼ぶと、ようやく我に返った様子で、俺の方にやっと目が向いた。


「ね、俺が五日で金貨千五百枚稼げるって言ったのも嘘じゃないでしょ?」

「うむむ……異なる柄の皿をまるで一つに融合させたような、この

 ソーサーは、現在貴族の間でかなりの高値で取引されているという皿と同類に間違いない……」


 グリンドルは思わず頭を抱えて唸る。

 セバスはソーサーの手触りを確認しながら、俺に話しかけてきた。


「ふむ、【土あそび】といえば最弱で有名なスキルではなかったか?」

「そうですね。少し前にスキル組合に行ったら、登録すらさせてもらえずに追い出されてしまいましたよ……」


 俺がそういうと、セバスとグリンドルは苦笑いを浮かべた。


「あぁ、この事をバステルのヤツに言ってやりたいわ。アヤツ、どんな顔をして悔しがる事やら……」

「ちょっと、組合長!」

「冗談じゃ冗談! こんな儲け話、スキル組合の連中には口が裂けても言えんわい!」


 バステル、というのはスキル組合の組合長の名前らしい。一瞬バラされるかと思ったが、ふぅ……よかった。


「じゃ、そのソーサーはお二人に差し上げますから今、この部屋で起きた事は誰にも話さないでくださいね?」

「言えばフィリウス家が敵になるのだ。そのような愚かな事はせぬよ」

「うむ、当然だな」


 俺が念押しで確認すると、二人とも懐にソーサーを隠しながらニンマリと頷いてくれた。悪い大人だ……。


 それじゃあ外に出てもらっていた三人を呼び戻すとしよう。


「おーい、もう入っても大丈夫ですよー」

「お、もういいのか」


 ドアの鍵を開けて部屋から顔を出す。すぐ近くにソックがいたので見張り役を労う。


「うん、ソックも見張りありがとう」

「いいって事よ。俺は正直難しい話とか分かんねぇからな!」


 二人は一体どこに行ったのかと探していると、何と階段の下からやってきた。


「全くぅ、ソック君は容赦ないですわ〜」

「一階まで遠ざけられるとは……」


 ビルもホーラスも、ヤレヤレと言いたげな表情でソックの方を見つめている。


「それはお前達が、目を離した隙にドアに近付いてきたからだろ!!」


 ソックが二人に怒鳴ると、二人も負けじと言い返してきた。


「ええやんええやん! ちょびっとくらい聞かせてもろてもええやん!」

「そうですよ! 私だって組合長と部屋の中で何をしていたのか気になるんですよ!」


 全く……この三人は言い合いをしないとコミュニケーションが取れないんだろうか。


 俺がパンパン、と手を叩くと三人はバツが悪そうな顔で俺の方を見つめてきた。


「その調子で部屋の中でも騒ぐなら、すぐに出て行ってもらいますからね?」


 釘を刺す意味で俺がジロリと三人を睨みながら言うと、三人は口々に謝罪してきた。


 全く、いい年した大人が何をやっているのやら。それにビルはいつまでここに居るつもりだろうか。


「す、すまんクレイ」

「ほんますんまへん!」

「も、申し訳ない……」


 ソックももう少し落ち着いて欲しいけど、元々余裕のない生活を送っていた訳だしこちらは仕方のない面もある。


 生活に余裕が出来たら、徐々に改善していくのではないかと思っている。


「さあ、部屋に入ってください。話し合いを続けますよ」


 そうして三人を部屋へ招き入れ、しばらくの間中断されていた賠償についての話し合いが再開した。


「さて、組合長には俺達が五日間で金貨千五百枚を稼げる、という理由をお見せしましたけどご理解いただけたでしょうか?」

「ああ、あれは確かに金貨千五百枚を稼ぐことは可能だ……」


 グリンドルが深々と頷くと、ホーラスは驚いたように俺の顔をまじまじと見つめて来た。ホーラスは、やや控えめに手を挙げて発言を始めた。


「組合長、クレイさん……申し訳ないのですが、金貨千五百枚という大金は現在の商業組合から捻出するのは不可能です……」

「むぅ……それは困ったのぅ……」


 ホーラスが言うには、商業組合にある資金には全て使用用途が定められており、予備費等をかき集めても俺の要求している金貨千五百枚には全く届かないとの事だった。


 どうやら、直近で起きた王国西部の不作への対応で、王都の商業組合は方々へ支援を行ったらしく、現在は予備費もほぼ底をついている状態らしい。


 何とか商業組合の運営は出来ているが、それでも予算が足りないのでカヴァル王国から資金が供給されるのを待っているとの事。


「ふむ……組合長としては、仮にパッキン氏の悪行の裏付けが取れた場合、被害相当分を俺達へ損失を補填するという意思はありますか?」

「うむ、それはもちろんあるのだが、金貨千五百枚とは額が額じゃ。ホーラスが言った事情もある、それがいつになるやら――」


 なるほど、補填する意思はあると。

 それじゃあ俺がさっきまで考えていた方法でお互いにウィンウィンな関係を構築出来そうな気がする。


「俺に、良い考えがあります」


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