「え?」
うまく彼の言葉が理解できずに首をかしげていたら、勇者様が話し出した。
「......先程使用した魔法、美少女戦士サンシャインの緑色の子の詠唱を利用したものだろう? それに美少女戦士サンシャインという言葉も言っていた」
「あ……!」
ああ、さっきハルちゃんと話した時に、サンシャインの話をしていたわね……きっと勇者様はそれを聞いていたのでしょう。
ん、ちょっと待ってほしいわ。勇者様はこの世界の方でしょう? サンシャインを知っているって事は、この世界にも美少女戦士サンシャインの物語があるのかしら?!
「え、この世界にも美少女戦士サンシャインがいるのでしょうか……? もしかして私、著作権を侵害してしまったかしら……?」
この世界の人が美少女戦士サンシャインを知っているとしたら、ちょっと恥ずかしいかもしれないわね。
まあ恥ずかしいくらいなら、問題はないかもしれないけれど……いえ、問題はあるわ! 著作権侵害よ! もしかして著作権侵害で罰則……懲役や罰金? を払わないといけないのかしら……申し訳ない事をしてしまったわ……。
ヘマをやらかしたのでは、と思った私の顔から血の気が引いていく。思わず頭を抱えると、勇者様が笑い出した。
「安心して欲しい。この世界に美少女戦士サンシャインはいないから。著作権も問題ない」
そう聞いて私は胸を撫で下ろす……ん、ちょっと待って欲しいわ。だったら何故、勇者様は美少女戦士サンシャインを知っているのかしら?
私が疑問に思った事を見抜いたのだろう。
「俺も日本で暮らした時の記憶があるからな」
「……」
彼は悪い顔でニンマリと笑った。彼の言葉がやっと理解できた私。
「ええー!」
『ええー!』
私とハルちゃんの驚く声が被った。
「ねえ、ハルちゃん! 私以外にもて……転生? 者がいたよ?!」
『えー! びっくりだよぉ?』
ハルちゃんは遠くで、『まさかそんな事があるなんて……』とぶつぶつ言いながら、紙らしきものをめくっている。勇者様の存在はハルちゃんも寝耳に水なのだろう。
彼をまじまじと見つめる。
「それより、ミヤ。ハルはどこにいるんだ?」
キョロキョロと見回す勇者様に、私は目をまん丸にする。私の名前を呼ばれたような? しかもハルって……。
「え、ハルちゃん……?」
「ハルは神田遥の事だろう? 違うか?」
思わず目を見開いた私は、勇者様の顔を見つめる。すると、ぼんやりと幼い頃よく遊んだ彼の事を思い出した。
「もしかして……あなた、ユウくん?」
「ああ。小学生の頃、ミヤの家の前に住んでいた
「わあ、懐かしい! ユウくんなのね!」
私の肩に置かれた手が離れたのと同時に、ユウくんの右手を両手で包み込む。右手はとても温かくて、まるで彼がここにいる事を証明してくれているようだった。
「ユウくんもこの世界に来ていたの? 嬉しいわぁー!」
私だけじゃなかった事を喜ぶ。ユウくんもいれば、百人力よね!
「で、肝心のハルは――」
「ユウくんも、ハルちゃんにお手伝いをお願いされたのではなくて?」
「えっ、お願い? 何だそれ」
「ええ?」
そういえば、さっきハルちゃんも驚いていた気がする。という事は、ハルちゃんは関係ない? 首を傾げていると、頭の中でハルちゃんの声が聞こえた。
『記録を見たけど、私はユウくんを転生させてないねぇ。 あ、もしかして、輪廻転生した後に前世を思い出しちゃったやつかなぁ? わー! ユウくん凄いねぇ。無量大数分の一の確率だよぉ〜!』
「え、そんな凄い確率なのねぇ。ユウくん凄いわねぇ!」
「いや、何が凄いのか全く分からないのだが……」
「そっかぁ。ハルちゃんの声は私しか聞こえなかったのよね。ごめんねぇ〜ユウくんが前世の記憶を思い出したのは、無量大数分の一の確率なんだって!」
凄いじゃない! なんて話していたのだけれど、ユウくんは額に手を当てていた。
「ミヤ……小学生の時ものんびりしていたけど、輪をかけてのんびりしてないか?」
「えー、そんな事ないと思うわ。今も昔もこんな感じだったわよ〜」
頬に手を当てて答えれば、ユウくんははあ、と盛大なため息をついた。
「いや、絶対前よりもマイペースになってるだろう.....そもそも、どこにハルがいるんだ? 俺に聞こえないってどういうことだ?」
ハルちゃんが神様だって事は伝えて良いのかしら? そう思っていたら、遠くから『別に良いよー』という声が聞こえた。
だから私はユウくんに話したわ。「ハルちゃんは、神様なの」って。それに私がここに来た理由も。私から話を聞いたユウくんは、頭を抱えてうずくまった。
「大丈夫? ユウくん」
「いや、ちょっと待って、だいじょばない……」
ユウくんは頭を抱えてうずくまった。しばらくすると、頭の整理ができたのか立ち上がり、私に尋ねてくる。
「ハルが神様? つまり女神ジェフティ様はハルと同一人物いう事か? そしてミヤはハルの頼みで、亡くなったクリスティナ嬢の代わりに賢者としてこの世界にいる……? つまりミヤはハルの眷属という事か?」
「そうなのかな? 詳しい事は分からないかなぁ……」
「ミヤ……その性格でよく騙されなかったな?! 日本で一度くらいは詐欺に引っかかっててもおかしくないぞ?!」
「えー、大丈夫だったわよ?」
そんな言い合いをしていた私たちだったが、ふと後ろから「あの……」という言葉で振り返る。そこにいたのは、困惑した表情のマルクス様と男の子、そして血の気の引いた顔でこちらを見ている侍女ちゃんが佇んでいたのだった。